例年よりも早い梅雨明けから夏日が続いていることにより、寝苦しくあまり眠れない、寝ても疲れが取れないなど悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか? 快適な睡眠に導く簡単な方法があれば取り入れたいですよね。今回は、医療法人いくしま医院院長の幾嶋泰郎先生に夏の睡眠について話を聞いてみました。

  • 湿気や暑さでうまく眠れない夏、快眠のコツは?

暑くて寝苦しい夜に快眠する方法は?

――暑いと睡眠の質が悪くなるのはなぜでしょうか。科学的、医療的な根拠はあるのでしょうか。

幾嶋先生:睡眠に入るときは脳の温度が少しだけ下がります。脳と内臓がある胸腹部は深部体温と言って、通常は37±0.2℃という狭い範囲に保たれています。自律神経系は交感神経と副交感神経に分けられ、日中は交感神経優位になっています。寝るときは副交感神経優位に切り替わります。

しかし冷え症の方は、深部体温を一定に保つために手足や皮膚の血流を遮断しています。このとき、ノルアドレナリンという交感神経を緊張させるホルモンが分泌されています。この影響で末梢血管が収縮しているのですが、同時に精神的緊張も伴っています。この精神的緊張が取れないと眠るのは難しくなります。また手足や皮膚の血流が集まりすぎて深部体温を上げすぎる場合があって、眠るときの熱の放散がうまくいかず、体温が下がりにくいので寝つきが悪くなるのです。

そのような場合には、湯たんぽなどで手足を暖かくすると、手足や皮膚の血管が拡張して熱が放散し、寝つきがよくなります。特に夏は外気温が高く、湿度も高くなるので、手足の熱が放散しにくくなってしまうので、眠りが浅くなることが考えられます。眠っている間、人間の体は汗をかくことで体から熱を逃し、深部体温を下げています。脱水で体に水分が足りないと発汗による体温調節がうまくいかなくなり、睡眠の質が低下してしまいます。

――なぜ寝苦しいと疲れが取れないと感じるのでしょうか。

幾嶋先生:交感神経が緊張状態のときは、体は起きて働いている状態と同じです。脳や意識だけの問題ではなく、内臓も働いている状態です。副交感神経を働かせて、内臓に「休みなさい」という信号を送ってやらないとその状態が続き、疲労感が残ります。

――暑い夜でも快眠するために、寝る前に行うべきことや見直したほうが良い習慣はありますでしょうか。

幾嶋先生:冷え症の人はエアコンの設定をやや高めにし、脱水気味で寝る前2時間以上排尿がない人はコップ1杯の水分を補給してベッドに入ることをお勧めします。

――寝るときの環境はどのようなものがよいでしょうか。エアコンの温度や寝具、着るものなどポイントがあれば教えてください。

幾嶋先生:エアコンの温度は25~28℃ぐらいにし、できれば湿度も50~60%ぐらいにしたほうがいいでしょう。寝具や寝間着は吸湿性の良い肌になじんだもので、体を締め付けない、少し大きめのものがいいでしょう。シルク製のものは少し高くなりますが、皮膚への刺激が少なく、夏は涼しく、冬も暖かいと聞きました。

――そのほかに心がけるポイントなどはありますか?

幾嶋先生:冷え症の人はベッドに入る前に自分で手足、背中、おなかを触ってみて、冷たいなら湯たんぽなどの用意をする必要があります。ヘアードライヤーを使って体の冷たいところに5~10分ぐらい温風を当てるといいでしょう。


気温だけでなく湿度も高い日本の夏の夜。暑い時期は、体を冷やしたくなりますが、手足など体の冷えている部分を温めることが快眠への近道となることが判明しました。エアコンや寝具を併用して、疲れはその日のうちに解消することを目指していきましょう。

取材協力:幾嶋泰郎(いくしま やすろう)先生

1955年生まれ。医学博士。開業医。趣味は風水と手相。手相はよく当たると評判で、「手相だけ見てくれ」というひやかしの患者も来るぐらい。自ら球脊髄性筋萎縮という難病を背負い、車椅子で診療を続けている。1980年 川崎医科大学を卒業し、外科で2年間の研修を終え、福岡大学産婦人科に移り、久留米大学産婦人科で学位を取得、第一生命保険会社で診査医を経験した後、1999年 父の診療所を継承し無床診療所で開業。開業後に漢方に目覚め、柳川漢方研究会を立ち上げ初心者の育成と自身の研鑚に努めている。福岡医師漢方研究会所属。
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