持続可能な未来をつくるため、日本の子どもたちが立ち上がった。東京証券取引所・東証Arrowsで2022年3月6日、小中学生による国内最大規模の社会課題解決プレゼンテーション大会「Startup Jr.Award2021 Supported by マイナビ学生の窓口」決勝大会が開催された。子どもの体験型キャリア教育事業や企業のサステナビリティ推進を支援している企業・バリューズフュージョンが主催した。

  • 東京証券取引所・東証Arrowsで「Startup Jr.Award2021 Supported by マイナビ学生の窓口」決勝大会が開催された

    東京証券取引所・東証Arrowsで「Startup Jr.Award2021 Supported by マイナビ学生の窓口」決勝大会が開催された

アワードには計1,288人の応募が集まり、決勝では小中学生の両部門で各5名、計10名のファイナリストが登壇。自ら作り出した資料や映像を活かし、それぞれが巧みなプレゼンテーションを披露し、小学生の部では根木絢未さん(玉川学園小学部5年生)が、中学生の部では宮原知大さん(都立立川国際中等教育学校 1年生)がそれぞれ大賞に輝いた。

  • (左から)尾木直樹氏、宮原知大さん、根木絢未さん

    (左から)尾木直樹氏、宮原知大さん、根木絢未さん

手洗いロボット「シェルくん」が世界を救う

  • 小学生の部で大賞を獲った根木絢未さん。

    小学生の部で大賞を獲った根木絢未さん。

「世界で5歳の誕生日を迎えられない子の人数は、年間560万人。つまり、5.6秒に1人の命が失われています。とても衝撃的な数字です。しかし、石鹸を使って正しく手を洗えば、なんと100万人もの子どもたちの命が救えるのです」

そう問題提起したのは、小学生の部で大賞に輝いた根木絢未さんだ。正しく手洗いできない理由は大きく分けて、(1)手洗いの大切さを知らないこと、(2)綺麗な水がないことのふたつだと指摘。これを解決するために開発したのが、手洗いロボット「シェルくん」である。

シェルくんは、根木さん自らがプログラミングと3Dプリンターを使って製作。手洗いのスタートに合わせて音楽が鳴り、ランダムで「その調子!」といった掛け声を掛けてくれたり、手洗いが終わった際は「よく洗えたね」と褒めてくれる機能も実装させた。

実際に幼稚園でモニター調査も実施し、調査後のアンケートでは90%の子どもたちが「手洗いロボットがあったほうが、楽しく上手に手が洗える」と回答。保護者も85%が「子どもの雑な手洗いが解決できた」と好反応を示したという。

根木さんはさらに、「シェルくんを製品化し、その利益で手洗い設備のない地域に水をひき、給水設備設置のための寄付をしたいです。正しい手洗いができることで100万人の命を救えます」と訴えた。

審査員を務めた教育評論家の尾木直樹氏は、「日常から問題意識を持って、3Dプリンターでロボットまで作って、データまで出した。方法が科学的だし、世界の途上国にまで突っ込んでいく点は本当に素晴らしいと思った。こういう学びが本当の学力だ」と絶賛した。

優秀賞は、「世界から貧困をなくすための『子ども募金プラットフォーム UTA』」を発表した吉田詩さん(東京農業大学稲花小学校3年生)さんが、特別賞は「日本の未来を変える『自己肯定感』」についてプレゼンした水野翔真さん(尾道市立土堂小学校5年生)がそれぞれ受賞した。

餓死を解決する画期的な方法「物的ベーシックインカム」

  • 中学生の部で大賞を受賞した宮原知大さん

    中学生の部で大賞を受賞した宮原知大さん

中学生の部で大賞を受賞した宮原知大さんは、「真のソーシャルイノベーション 物的ベーシックインカム」というタイトルでプレゼンを行った。

「今回、私がスピーチで伝えたいのは、『お金ではなく物で互いに支え合う社会を実現できれば、私たちはもっと自由に、もっと豊かになれるのだ』ということです」

産業革命を経て、物質的、経済的には豊かになった。しかし、その豊かさに社会の制度が追いついていないと宮原さんは言う。

「厚労省の調査では、生活が苦しいと感じる人が全体の6割に上ります。餓死の問題も深刻で、年間2千人もの方が餓死で亡くなっており、しかもその人数は年々増加傾向にあります。なぜ、経済発展に社会がついてこられないのか。それは、『お金がなければ生きていくことができない社会』に原因があると考えています」

そこで宮原さんが提案したのが「物的ベーシックインカム」である。「一定の年齢に達した人が一定期間、農業・漁業に従事し、そこで生産された物品を全国民に生涯にわたって無料で提供する。市場経済に加え、物で支え合う経済の並列を目指します」と構想を展開する。

さらに、日本に480万ヘクタールも存在する耕作放棄地や荒廃農地などを活かすことで食料自給率を挙げることができ、年金給付の食費相当分にあたる26兆円を人件費や営農費に回すことで、むしろ1.2兆円のコスト削減につながるとの試算を発表。

そのうえで、「この変革は主にふたつのメリットを与えます。餓死がなくなり、貧困は減少すること。食べるために働く必要がなくなり、働き方、生き方がより自由になること。資本主義の矛盾を大きく改善できます」と訴えた。

審査員のひとりである、一般社団法人プレゼンテーション協会の代表理事である前田鎌利氏は、「圧倒的なプレゼン力だった。まるでスティーブ・ジョブスのようだった」と感想を口にし、「集めた情報をちゃんと積み上げて、計算して、ロジックを考えていた。世の中は変えられるということを客観的に見せてくれて、すごく説得力があった」と称賛した。

  • (左から)萩原一颯さん・宮澤優月さん・宮原知大さん・根木絢未さん・吉田詩さん・水野翔真さん

    (左から)萩原一颯さん・宮澤優月さん・宮原知大さん・根木絢未さん・吉田詩さん・水野翔真さん

中学生の部では、「ペットショップ改革~命を繋ぐ場所「Connect Life」をつくりたい~」を提案した宮澤優月さん(軽井沢風越学園2年生)が優秀賞に、「ボードゲームで日本の漁業活性化!!」をプレゼンした萩原一颯さん(群馬大学共同教育学部附属中学校1年生)が特別賞に輝いた。