ホンダのミニバン「ステップワゴン」が今年、第6世代に進化する。定番商品として根強い支持を得ているステップワゴンだが、「オラオラ系」デザインが人気のミニバン市場で新型は何を目指したのか。開発責任者の言葉も織り交ぜながら紹介していこう。

  • ホンダの新型「ステップワゴン」

    オラオラ系が主流のミニバン市場で新型「ステップワゴン」は何を目指したのか

ラインアップから見直した新型「ステップワゴン」

ホンダのミニバン「ステップワゴン」といえば、同クラスでいち早く横置きエンジン前輪駆動方式を導入してヒットし、それまで後輪駆動ベースだったライバルを同じメカニズムに転換させたという歴史を持つ。いわばベンチマーク的な存在だ。

  • ホンダの現行型「ステップワゴン」

    現行型「ステップワゴン」

しかし近年は、販売台数でライバルの後塵を拝する状況も生まれていた。そんな中、通算6代目となる新型はどのような考え方で開発されたのか。同社四輪事業本部 ものづくりセンターに所属する開発責任者の蟻坂篤史氏はこのように解説する。

「ミドルクラスのミニバンは、直近の年間販売台数が約25万台と根強い支持を得ています。その中で何が求められるかを考えた結果、クルマではなく家族が主役、穏やかな生活というキーワードに行き着きました」

そこから生まれたのがグランドコンセプトの「素敵な暮らし」であり、「安心」と「自由」を形にすべく開発がスタートした。

まず取り組んだのは、ラインアップの見直しだった。従来はノーマルと「SPADA」(スパーダ)の2シリーズだったが、スパーダが実に販売の9割を占めていた。新型ではノーマルをラインアップから外そうとの意見も出たそうだ。しかし、ミニバンを購入したいユーザーの意向を調査すると、ナチュラルなスタイリングを望む人も3割程度いることが分かった。

これまでのミニバンとは違う、新しい価値を提供することが大事だと考えたホンダは、新型ステップワゴンにふさわしい言葉を探したという。その結果、「AIR」(エアー)シリーズを新たに設定し、スパーダとともに2つの価値観を提案することにしたそうだ。

  • ホンダの新型「ステップワゴン」
  • ホンダの新型「ステップワゴン」
  • 左が「エアー」、右が「スパーダ」

シンプル&クリーンな「エアー」

「エアー」のエクステリアは、とにかく無駄な線や抑揚がなく、シンプルかつクリーンだ。大ヒットした初代の姿を思い出したし、簡潔な造形は物足りないと思う人もいる中で、ここまで徹底したことに感心した。

  • ホンダの新型「ステップワゴン」

    「エアー」のエクステリアはシンプルでクリーン

一方でそれは近年のホンダ車、つまりコンパクトカーの「フィット」や電気自動車「ホンダe」などに通じる造形でもある。資料には最近のホンダが多用する「ノイズレス」という言葉があった。この点について蟻坂氏は次のように説明した。

「最近のホンダデザインの流れとは別で進んでいたのですが、結果的に合致しました。身のまわりを見ると、家電のデザインもシンプルになっているし、家の中にいろいろな物を置かないライフスタイルが多くなっています。暮らしとの結びつきが強いミニバンだからこそ、こうしたトレンドは参考にしました」

個人的には、シンプル&クリーンな印象を受ける理由として、ディテールへのこだわりが奏功しているのではないかと思っている。ドアハンドルは前後をつなげて一体化し、スライドドアのレールと高さを合わせているし、クロームメッキはエンブレムを除けば前後とも横方向の一本のみで、華美にならずに安定感を出しているからだ。

  • ホンダの新型「ステップワゴン」
  • ホンダの新型「ステップワゴン」
  • フロント/リアともにメッキ部分が少ない

パッケージングも変わった。短いノーズがスラントし、フロントウインドーとの角度が近かった現行型からは一転して、明確なノーズと水平に近いフードを持つ造形となっている。このデザインは、安心感や安定感を提供するとともに、後ろに引かれたフロントピラーと運転席から目視できるエンジンフードにより、視界の良さに配慮した結果だという。

後ろ姿ではやはり、ルーフからバンパーまで伸びる超縦長のコンビランプに目がいく。復活したリアクォーターピラーともども、初代を思わせるディテールだ。ひと目でステップワゴンと分かるよう、かなり早い段階で採用が決まったという。

ここまでエアーについて書き進めてきたが、新型にはもちろんスパーダもある。こちらは販売の9割を占めていたこともあり、力強さや大胆さは継承しているが、そこに豊かな暮らしに沿う存在として、洗練を加えたとのことだった。

  • ホンダの新型「ステップワゴン」
  • ホンダの新型「ステップワゴン」
  • ホンダの新型「ステップワゴン」
  • 「スパーダ」は力強く大胆なデザインを継承している

パッケージングはエアーと同じだが、バンパーは前後ともに厚みを増しており、グリルは上下に厚くなった。しかしながら現行型と比べると、クロームメッキの面積はかなり少なく、きらびやかというより精悍というイメージだ。

スパーダ独自の装備であるテールゲートスポイラーは、スクエアな造形とすることで派手さを抑えていた。縦長のリアコンビランプはエアーと同じに見えるが、実際はバンパーの変更に伴い、リフレクターを内蔵したという違いがある。

インテリアも大幅に変更

インテリアも大きく変わった。インパネはフィットと同じように、良好な視界を提供するために水平にこだわった。そのため、現行型では奥のほうにあったデジタルメーターを手前に移した。

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  • 「エアー」のインテリア

前席もフィットや「ヴェゼル」に続き、骨盤を安定させることで疲れを抑えるボディスタビライジングシートを採用した。それ以上に特筆すべきは2列目のキャプテンシートで、ひとつの長いレバーで前後と左右のスライドが自由にできる。このため、シートベルトはてシート内蔵になっている。

  • ホンダの新型「ステップワゴン」
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  • 「エアー」のシート

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    2列目のキャプテンシートには長いレバーが付いていて、操作すればシートを前後左右にスライドさせられる

3列目の床下収納は現行型から継承。格納すればハイトワゴンになるので、レジャーユースにも対応しやすい。そのうえで座り心地を良くすべく、クッションの厚みを増すなどの改良を施している。

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    3列目を床下に収納すれば広大なスペースが出現する

パッケージングでは、前席のヘッドレストは低く、2~3列目は座面を高くすることで、すべての席から前方が見えるようにした。前が見えるので頭が揺れることが少なくなるとのことで、クルマ酔いの防止にも効果があるそうだ。

両サイドのサイドウインドー上下を前から後ろまで貫く2本のソフトパッドも印象的だ。キャビン全体として一体感がある。これなら3列目に座っても、疎外感は少ないだろう。

今月はライバルのトヨタ自動車「ノア/ヴォクシー」もモデルチェンジを予定しており、予告広告では現行型以上にアグレッシブな顔つきになりそうだ。すっきりフォルムのステップワゴンと対照的で、市場での評価がどうなるのか、今から興味が尽きない。