Intelは3月17日、デスクトップ向けの第11世代Coreプロセッサとなる「Rocket Lake-S」を正式発表した。概略は年初のCESの際に説明されていたが、発表にあわせてもう一歩踏み込んだ詳細が公開されたので、その内容をレポートしたい。
まずコアそのものであるが、これはCypress Coveとなる。このCypress Cove、筆者はWillow Coveを14nmにBackportしたものではないかと推定したが、実際にはその前世代、Sunny CoveのBackportであることが判明した(Photo01)。この結果としてIPCは19%程向上した(Photo02)というのは、以前こちらで説明したようにSunny CoveはSkylakeと比較して18%ほどの性能改善があるとされており、まぁこれがそのままと考えれば不思議ではない。
ただSunny Coveを搭載したIce Lakeは10nm(正確に言えば10nm+)プロセスで動作周波数が上がらないという問題を抱えていたが、Rocket Lakeでは14nm++(これも厳密にはComet Lakeと微妙に違う可能性はあるとの事:随時改良は行われているので、微妙に改善とか変更がなされている可能性があるらしい)になって動作周波数をComet Lakeなみに引き上げる事が可能になったため、Rocket LakeのSingle Thread性能は(理論上)Comet Lakeに比べて19%アップになることが期待できるという訳だ。
ついでにGPUについて書いておけば、今回Rocket Lakeに搭載されるIntel UHD Graphics 750は最大32EUとなっている。ベースになっているのはX^e Graphicsなので、Intel UHD Graphics 600シリーズに比べると多少性能が向上している部分はあるが、一番性能に効いてくるのはEUの数であって、従来の24EUから32EUなので、ここでの性能向上分は33%でしかない。あとはコアの動作周波数次第ではあるが、50%上がるかどうかはちょっと疑わしいところだ。加えて言えば、仮に50%アップだとしても、昨今のゲームを内蔵GPUでプレイするのはやはり厳しいであろうとは思われる。
このGPUについては、国内でグラフィック検証サポートプログラムが新たに開始されることになった(Photo03)。2020年11月(Photo04)及び2021年3月(Photo05)における主なタイトルはこんな感じ。
次がチップセットの話(Photo06)。既にIntel Z590搭載マザーボードが出荷されている状況でいまさら、という感はなくもないが、こちらがその詳細となっている。大きなポイントは
- DMIとの接続はDMI 3.0×8に拡張された(4.0×4でないのが不思議だが)。ただしx8を使えるのはRocket Lake装着時のみで、Comet Lakeだとx4相当になる。
- USB 3.2 Gen 2x2を搭載
- CPUから20レーンのPCIe Gen4が出る事に対応。ただComet Lakeではそもそも16レーンしか出ないので、主にNVMe M.2向けに提供されると思われるPCIe Gen4 x4レーンはComet Lakeでは使えない。
- 新たにH570&B560 ChipsetでもMemory Overclockに対応
- Wi-Fi 6をチップセットに内蔵。Wi-Fi 6Eに対してはDiscrete(AX210)を利用
といったあたりが主なポイントとなる。このうちWi-Fi 6Eであるが、こちらの記事でも説明したように今のところ日本では6GHz帯の認可が下りていない。そこで現時点で国内向けに関してはファームウェアで6GHz帯を無効化(つまり通常のWi-Fi 6として出荷)し、将来利用可能になったらドライバ及びファームウェアのUpdateでこれを有効化する、という形にするそうだ。
そのMemory Overclock周りがこちら(Photo07)。特徴はここに示す通りだが、トピックとして
- リアルタイムにMemoryの周波数を変更できる
- AVXをダイナミックに有効化/無効化出来る
というのはちょっと珍しい。まず一つ目のリアルタイムにMemoryの動作周波数を変えられるという話だが、単に周波数だけなのか、細かいパラメータまで全部On the flyで変更できるのかははっきりしていない。ただBIOS Setupなり再起動なしにパラメータを変えられるのは事実のようだ。
これに絡むのが、本文にもある"Gear 2"という表記だ。Rocket Lakeのメモリコントローラは
- Gear 1:メモリコントローラがメモリのデータレートと同じ速度で動く(DDR4-3200なら3.2GHz駆動で動作)
- Gear 2:メモリコントローラがメモリのデータレートの半分の速度で動く(DDR4-3200なら1.6GHz駆動で動作)
の動作モードを持つ。で、DDR4-2933まではどのプロセッサであってもGear 1で動作するが、DDR4-3200に関してのみGear 1で動くのはハイエンドのCore i9-11900K/KFのみで、他の製品は全てGear 2動作になるそうだ。Intelによれば、Gear 1にするとLatencyは減るが消費電力が増え、一方Gear 2ではLatencyはやや多くなるがBandwidthはちゃんと確保され、また消費電力は減るという話であった。
次のAVXの有効化/無効化であるが、これもダイナミックに行えるらしい。ただこれ、ダイナミックにCPUID FlagのAVX bitが落ちたりするのかどうかは現状不明である。また、仮にAVXを使うようなアプリケーションを立ち上げた後でAVXを無効化するとどうなるか? というと「(アプリケーションが)クラッシュするんじゃないかと」という話であった。OCには有用な技術ではあるのだろうが、ちょっと使い方には注意が必要だ。このMemory OverclockはすべてのRocket Lakeで可能という話であった(Photo08)。
性能面に話を移すと、GeForce RTX 3080と組み合わせた場合でのGamingの性能がこちら(Photo09~11)。Productivityに関する比較がこちら(Photo12~14)である。まぁこのあたりは実際に比較してみないと何とも言えないし、消費電力も無視するわけにはいかないのだが、やはりSky LakeベースからSunny Coveベースに切り替わってIPCも大分上がってきた事の効果は大きそうだ。
最後にSKU一覧である。Core i9/i7がPhoto15、Core i5がPhoto16である。全体的にちょっと値段は上がり気味である。例えばCore i9-11900Kは$539であるが、Core i9-10900Kは$488~$499だし、Core i7-11700Kは$399だが、Core i7-10700Kは$374~$384である。コアをCypress Coveにした分ダイサイズは大きめになり、製造原価が上がっている事と無縁ではないだろう。ただこちらで示したRyzen 5000シリーズの価格と比較すると、
- Ryzen 9 5900X $549 / Core i9-10900K $539
- Ryzen 7 5800X $449 / Core i7-10700K $439
- Ryzen 5 5600X $299 / Core i5-11600K $262
といった具合で、「AMDよりちょっと安い」価格にしている、というのが一番決定的かもしれない。またCore i3以下はRocket Lakeでのラインナップは提供されないそうで、ここはComet Lakeのままである。そんな訳でこちらはComet Lake Refreshとなっている(Photo17)。ところでPhoto15とPhoto16でTDPは35/65/125Wとなっているが、Comet LakeまではPL1(=TDP)とPL2の数値が定められていたが、Rocket Lakeではこれに加えてPL3/PL4の数字も定まったらしい(Comet LakeはN/A)。ここまで引っ張る台所事情なのか、というのはちょっと驚きである。
なお、現時点ではRocket Lake-Sの発売日は明確にされていない。ただこうしたキャンペーンが行われる(Photo18)あたり、時期はお察しくださいというところであろう。