春は、就職や進学など、人生の転機となるようなイベントが多い季節。元気に過ごすための情報を、医師・医学博士の木村至信氏(以下、キムシノ氏)に聞きました。

  • 新生活への不安を感じていませんか?

就職、異動や転勤など環境変化ストレスにご用心

寒い冬が終わり、楽しいはずの春に調子が悪くなる人もいるようです。新しい環境になじもうと頑張りすぎて、心と身体の両方に、本人が思っている以上に大きなストレスがかかっているかもしれません。

――五月病という言葉がありますが、春に調子を崩すのはストレスのせいでしょうか?

キムシノ氏 「そうですね。これまでにかかった病気や、薬の副作用やアレルギー、事故や出産などのない人が、春に不調を訴える例は少なくありません。新しい社員が入ってくる、新しい職場に変わるなど、『新しいもの』に強く反応し、ストレスを感じるのでしょう」。

――過度のストレスは不調のもとになりますよね。

キムシノ氏 「強いストレスにより、健康な人でも呼吸や体温、血流、胃腸の働きなどを調節する自律神経のバランスが乱れたり、免疫力が低下したりします。すると、心だけでなく身体にもさまざまな不調が現れます」。

――どのような対策を採ればよいのでしょう?

キムシノ氏 「この時期に心身の不調を感じたら、心の状態もよく見直してみましょう。ストレスの多い現代社会で心の健康を保つためには、よい意味での『適当さ』や『遊び』が必要です。食事、睡眠、休養、運動などの生活習慣を整えることも、心の健康を維持する基盤となります」。

夏バテよりも深刻になることもある「春バテ」

医師や企業などによる「ウーマンウェルネス研究会supported by Kao」は、2018年1~2月に「春の不調に関する意識調査」を、首都圏在住の20~50代男女838人を対象に実施。その結果、「6割以上が例年、季節の変わり目である3~4月に心身の不調『春バテ』を感じていた」と発表しました。

なじみのない言葉ですが、「春バテ」の5大症状は、「だるさ・倦怠感」(53%)、「疲労感」(42%)、「気分が落ち込む」(38%)、「肩こり」(28%)、「イライラする」(26%)という内容です。

――春バテという言葉を知らなくても、これらに該当する人は少なくなさそうです。

キムシノ氏 「新生活では、『過去の友人・知人たちからの隔離』と、『新生活への高すぎる期待』などの問題が生じやすいといわれています。就職や異動、転勤などで新生活が始まると、それまでの友人や同僚たちとの関係が疎遠になることがあります。その結果、ちょっとした不安やストレス、悩みを誰にも話せず、メンタルヘルス不調の原因になることもあると考えられます」。

――信頼できる人に悩みを話すことは重要ですね。その他に気を付けることはありますか?

キムシノ氏 「新生活が始まると、多くの人は気持ちを新たにし、自分自身に期待をかけます。それがうまくいかないと、『頑張りが足りないからだ。もっと頑張らなければ』と考え、さらに自分を追い詰めて不調になる人たちもいます。過度にがっかりせず、気持ちを楽にしましょう」。

新生活ストレスからうつを発症しないために

就職、入学、昇進など、希望に満ちた時や喜ばしい時でも、環境が変わると不調を起こしやすいことは分かりました。また、働き盛り世代のうつ、うつ症状についても次第に知られてきています。どんなことに気を付ければいいのでしょうか。

――なんとなく不調だと感じたら、どのようにすればいいのでしょうか。

キムシノ氏 「いつもと違う不調があり、長引くようなら、心療内科や、精神科を受診しましょう。小さなストレスが積み重なり、うつ症状やうつ病のきっかけになることは珍しくありません。うつの初期段階では、本人や家族の希望的観測もあって、うつ病を疑って精神科や心療内科を受診することはめったにありません。

不眠や胃痛、下痢等の消化器症状が出現すれば内科を受診し、胃薬や睡眠導入剤などを処方される。あるいは、春は花粉症とも重なるので、全身の不快症状をアレルギーと誤解して抗ヒスタミン薬を処方されることもあるかもしれません。これによりまた、うつ状態をこじらせたり、早期発見を遅らせたりすることもあります」。

身体が不調なときには心も大丈夫? と自分で問いかける習慣が重要。家族や同僚、後輩などもそういう視点で見守ってあげたいところですね。

メンタル不調を防ぐポイント

新生活に期待をして頑張ることは重要ですが、心を病んでは元も子もありません。キムシノ氏が産業医として職場のメンタルヘルスを扱う中で気付いたことを、以下にまとめたので参考にしてください。

1.過去の友人・知人との関係を継続する

春は人間関係が途切れがちだが、気心の知れた仲間との関係を大切にしながら、新しい人間関係を広げる。

2.高すぎる期待をゆるめ、現状に満足する

自分への高すぎる期待をゆるめること。今に満足して、今を生きるべし。

3.新しい環境の美点を発見する

新しい人間関係や環境について、緊張や不安ではなく、美点に目を向けていく。

4.運動をする

通勤時間や昼休みに、1日20~30分の運動をする。血行を良くすれば、気持ちも前向きに。

5,ちゃんと暮らす

ちゃんと食べて、ちゃんと寝る。急に、キャラを変えるようないわゆる「社会人デビュー」「○○職デビュー」のようなことはせず、苦手なことは避けて、自分らしく暮らす。できないことを克服しようと急がない。

取材協力:木村至信(きむら・しのぶ)

横浜市の馬車道木村耳鼻咽喉科クリニック院長・産業医・医学博士。テレビやラジオのレギュラー番組を持つタレントでもあり、「木村至信BAND」でメジャーデビューする女医シンガーの一面も。