NHK連続テレビ小説『エール』(総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)の本編ラストとなる第119回がきょう26日に放送され、主人公・古山裕一(窪田正孝)と妻・音(二階堂ふみ)の夫婦の物語が完結した。病に伏す音に寄り添う裕一、そしてラストは海での2人のシーン。脚本も手掛けたチーフ演出の吉田照幸氏に撮影秘話を聞いた。

  • 『エール』音役の二階堂ふみ(左)と裕一役の窪田正孝

音の療養ため、東京を離れて静かな生活を送っていた2人。ある日、ベッドに横たわっていた音が「海が見たい。あなたと出会った頃のように、歌を…歌いたい」と強く希望し、裕一が音を抱えるようにして2人で歩き出すと、いつの間にか砂浜へと切り替わり、若返った2人がはしゃぐ姿が描かれた。

手をつないで走ったり、裕一がオルガンを弾いて音が歌ったり……そして、裕一が「音、会えてよかった。音に会えなかったら僕の音楽はなかった。出会ってくれてありがとね」と感謝すると、音も「私もあなたといられて幸せでした」と思いを伝え、笑顔で抱き合う2人。さらに、窪田と二階堂として再び登場し、視聴者にメッセージを送った。

最後の海でのシーンは10月上旬に撮影。吉田氏は「そのまま病床で亡くなるのは収まりがいいだけに『エール』じゃないと思って嫌だなと。最後は海で撮ろうと決めていたので、歩いていて砂になったら面白いのではないかと思いついてそうしました」と説明し、「現場で無音で撮っているときは、視聴者の方が感情移入できるのだろうかと不安がありましたが、編集室で音楽をつけて初めて見たときに何かがぞわっとしたんです。言葉では説明できない感動ってあるんだなと。悲しいとかうれしいとかそういうものではなく、2人の人生の重みが自分の中に返ってきて、生きているっていいなと感じました」と打ち明けた。

2人に対してあえて演出はせず、自由に表現してもらったという。「2人の関係でしか生まれないものがあると思ったので、カメラを極力遠くに置いて野放しです。海に走り出してからは何も演出はないです。2人だけの世界にしたということだけ。それがあの夫婦らしいなと。2人とも前を向いて生きてきたという、同志のような感じが生まれていて、裕一と音なのか、窪田さんと二階堂さんなのか、もうわからなくなっていました」と振り返った。

そして、「これは夢なのか、ファンタジーなのか、2人は設定を知りたがっていましたが、そういった定義づけはしたくなかった」と吉田氏。「言葉で収めることは簡単ですが、そうではなく映像だけで、彼らの表情だけで伝わる何かというのは、受け手側をもって初めて成立するもの。こちら側が『この夫婦はこうでしたよ』と言うと、その物語の世界だけで収まってしまうので、そうではなく、この2人を見て自分の人生を振り返るという時間がほしかったんです」とその理由を述べた。

また、音が病床で切れ切れの声で歌ったのは、台本上にはなく二階堂の提案だったことも明かしてくれた。「あれによって彼女の病床の状態が迫ってくる。あのあたりは現場で作られているものです。その結果、海で歌っているところは逆に音をなくすという。どんどん台本から発展していって生まれていきました」

さらに、二階堂について「だんだん絶食されて痩せていっている。最後の病床のシーンは完全に食べないで来ています。ですから顔色とかカサカサはある種、本気なんです。それくらいみんなここに入る前に努力を積み重ねてきている現場なんです」と努力を明かし、「あのシーンが終わったあと、揚げパンが食べたいと言われてあげました」というエピソードも付け加えた。

明日放送の第120回は特別編として、NHKホールを舞台にした「『エール』コンサート」を放送。主人公・古山裕一のモデルである作曲家・古関裕而氏の名曲の数々を、豪華キャスト陣が歌唱する。

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