小型車でも座席に妥協なし

次は座席だ。運転席に座ると、椅子に腰かけているというよりも、人の膝に座っているかのような適度な柔らかさと、体の丸みに応じて支えられている心地よさを感じる。走りだしてからは、クルマの運転に必要な支えが十分で、肩の力を抜いて操作することができる。緊張を解いて運転できれば疲れにくいし、万一の際には素早い操作ができる。

  • ホンダの新型「フィット」

    「ベーシック」のフロントシート

こうした座席ができたのは、面で体を支えるように構造を全面変更したからである。フィットのようなコンパクトカーでは、車両価格を抑えるため、自動車部品として大切な存在である座席の原価を安くすることに目が向けられがちだ。しかし、クルマを利用する間はずっと座り続ける座席こそ、運転する人、同乗する人にとって最高の部品であるべきだろう。それこそが、人を中心としたクルマ作りの本質である。

一方で後席は、座面の長さがやや短く、背もたれの角度がやや寝ていて、腰を落ち着けにくいのが残念だ。それでも、配慮を感じたのは、乗り降りのしやすさである。後席の背もたれがやや前寄りに設定されているため、体をあまり前へ起こさなくても、体を横へ滑らせるように足を出すと、すっとクルマから降りられる。乗り込むときも、腰から楽に掛けることができる。

  • ホンダの新型「フィット」

    「ベーシック」のリアシート

この後席は、ことにクルマの乗り降りに不自由する高齢者など、体力に衰えを感じる人にはありがたい。クルマの座席は、走行中の座り心地や、荷室の調整のための折り畳み機構だけでなく、乗降性もよくなければ、そもそも人が乗り込むのも難しくなる。ことに高齢化社会を迎える日本で、新型フィットの後席への乗降性は、福祉車両の視点からも歓迎すべきユニバーサルデザインだといえる。

その上で、フィットが初代から採用している後席を跳ね上げる機構は、いまだ競合他車には採用されていない利点の1つだ。これにより、観葉植物などのような背の高い荷物を、後席側のドアから出し入れすることができる。ことにこの機構を高く評価したのは、バンパーとバンパーが接触するほど近づけて路上駐車するパリの人たちであったという。もちろん、狭い駐車場でリアハッチゲートを開けにくい場合も、後席ドアから大きな荷物を出し入れするのに活用できる。

  • ホンダの新型「フィット」

    後席の座面を跳ね上げることで背の高い荷物を積み込むことが可能に

以上のように、まだ走る前に、販売店の店頭で確かめられる点においても、新型フィットは話題が豊富だ。