このクルマは見て、乗り込んで、運転するという全ての場面で嬉しい驚きを与えてくれた。ホンダの新型コンパクトカー「フィット」のことである。本田技術研究所がこのクルマに盛り込んだ工夫の数々からは、ホンダらしい独創性を感じることができた。

  • ホンダの新型「フィット」

    ホンダの新型「フィット」。このクルマには「ベーシック」「ホーム」「ネス」「クロスター」「リュクス」の5タイプがある。写真は「ネス」

まずは視界に驚き! 乗り込めば分かるフィットの新しさ

本来であれば、昨年に発売となる予定だった新型「フィット」だが、一部部品の供給が順調に進まず、2020年2月14日に上市がずれ込んだ。それでも、昨秋の東京モーターショーでは一般公開され、また媒体向けとしては、北海道・鷹栖のテストコースで試乗会が催されるなど、ある程度の概要を我々は承知していた。しかし、一般公道での実力がどうであるかは、今年にならないと分からない状況だった。

新型フィットの魅力はこのあと詳しく紹介していくが、前型ではハイブリッドシステムのリコールを何度も繰り返すなど、ホンダの品質に対する不安の種をまいた車種でもあっただけに、どのようなモデルチェンジを目指したのか、実車を見るまでは疑心暗鬼であったのも事実だ。

実車の試乗はまさに、驚きの連続だった。このクルマに本田技術研究所が盛り込んだ創意工夫には、創業者・本田宗一郎が目指した独創の精神を垣間見る思いだ。

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    新型「フィット」の価格は最も安い「ベーシック」のガソリンエンジンモデル(FF)が155万7,600円、最も高い「リュクス」のハイブリッド(4WD)が253万6,600円(画像はクロスター)

外観を見ると、全体的な輪郭は初代からの姿を継承しているが、顔つきは新しい。写真で見るよりも親しみがあって格好よく、この顔つきひとつをとってみても魅力を大きく増したことがうかがえる。

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    「ベーシック」のフロントマスク

驚きの本番は、クルマに乗ってからだ。フロントウィンドウの支柱が細く、前方視界が左右へ大きく広がっている。運転席の視界から死角が取り除かれているのだ。昨今、前方視界のよくない車種は非常に多い。それは、フロントウィンドウの支柱が太いせいだ。なぜ太くなったのかというと、前面衝突の衝撃を吸収し、客室が潰れるのを防ぎ、乗員の生存空間を確保するためである。万一の事故のための安全はもちろん重要だが、そのために日常的な前方視界を犠牲にしてきたのが、これまでの新車開発であり、それは今日なお続いている。

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    乗り込むと前方視界の良さに驚いた

では、新型フィットはなぜ、フロントウィンドウの支柱を細くできたのか? その秘密は、すぐ後ろにあるもう1本の支柱にある。この2本目の支柱で、前面衝突の衝撃を吸収する車体構造を開発したのである。前方視界の確保と、衝突安全の機能の受け持ちを分けることで、両方を成立させたのが新型フィットなのだ。

これを見ると、なぜこれまで、2本の支柱で機能を分散するという発想が世界の自動車メーカーで浮かばなかったのか、不思議に思う。だが、これこそが他社の真似をしない独創で技術を開発し、世のため人のために尽くすという本田技術研究所の面目躍如たるところだろう。

後方の視界も良好だ。後ろを振り返ったときには、後席ドアの後ろにある小さな三角窓が、リアウィンドウからの斜め後ろの視界を助け、車庫入れなど、クルマを後退させる際の視野を補ってくれる。三角の隅を丸くせず、きっちり端まで見せるには製造上の苦労もあったようだが、その小さな努力が安心感を増大させている。

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    後席ドアの後ろにある三角窓が斜め後ろの視界に効いている

次に、メーターなどが並ぶダッシュボードを見てみよう。上面はほぼ真っ平らで高さは低い。これも、前方視界を広々と感じさせるのに一役買っている。同時にまた、初代フィットから課題だったフロントウィンドウへの映り込みも改善した。したがって、ガラスを通しての前方視界がすっきりしている。

近年、内装を凝るため、ダッシュボードに凹凸が多くなったり、空調の吹き出し口にメッキの装飾を施してあったりして、フロントウィンドウやフロントサイドウィンドウへの映り込みが目に鬱陶しいクルマが内外を問わず増えている。映り込みは前方の視界を遮るのみならず、サイドウィンドウの映り込みではドアミラーの認識を妨げる。それらによって、状況判断を遅らせたり、間違わせたりしかねない。

新型フィットの映り込みのない前方視界は、運転することへの安心をもたらす。「視界の改善」というテーマだけでも、新型フィットはこれほど語れてしまうのである。