1997年にスタートした『奇跡体験!アンビリバボー』と言えば、世界中で起きた驚くような事件や信じられない話、感動的な出来事の数々を紹介してきたフジテレビのゴールデン・プライム帯最長寿番組だが、その中でも最上級の“奇跡”の実話を描いたドキュメンタリーが、きょう26日に「12年越しの約束SP」(19:57~21:54)と題して2時間スペシャルで放送される。

その奇跡とは、名門・慶應大学ラグビー部のOBたちが、つい先月に挑んだ富士登山。番組を立ち上げた角井英之プロデューサーやベテランスタッフが「22年間でも屈指の話」と称賛し、スタジオでは「神回」という言葉まで飛び出したほどだ。

ラグビーワールドカップの日本初開催に沸くタイミングで、取材者として一部始終を目撃した、フジテレビの安村麻衣子氏と、制作会社イースト・エンタテインメントの谷悠里氏に、制作の裏側を聞いた――。

  • 富士登山で不測の事態に直面する杉田秀之さん

    富士登山で不測の事態に直面する杉田秀之さん (C)フジテレビ

■入部わずか4カ月での悲劇

物語は、悲劇から始まる。入部してわずか4カ月だった当時1年生の杉田秀之さんは、長野・菅平高原での合宿の練習試合中に、頚椎(けいつい)と頚髄(けいずい)を損傷。一命は取りとめたものの、生涯歩くことはできないと診断された。だが、ここで最初の奇跡が。右足の指が動いたのだ。担当医師が「僕自身も驚きました」と言うほどで、そこから懸命なリハビリのかいもあり、少しずつ運動能力が改善されていく。

しかし、障がいと向き合う時間も増え「どんなに頑張ってもラグビーはもうできない」と悟った杉田さんは、孤独と絶望に襲われ、部員たちが見舞いに来てもつらく当たってしまうことに。しばらくラグビー部を離れたが、粘り強く連絡を取り続けた同級生・澤野浩生さんからの声をきっかけとして仲間たちに後押され、ケガから2年半後、データ分析係として部に復帰。分析以外にも自分にできることを考え、徹夜で選手1人1人のモチベーションを上げるビデオを制作してチームを盛り上げ、今度は因縁の早慶戦でなんと10年ぶりの勝利を果たすという奇跡が起こった。

このドキュメンタリーが実現したのは、何を隠そう、安村氏が慶大ラグビー部の学生トレーナーとして、杉田さんのケガの瞬間を目撃した当事者だったからだ。当時4年生で、杉田さんと現役としては4カ月の付き合いしかなかったが、「ポジティブでユーモアがあって、みんなを盛り上げて引っ張っていく象徴みたいな子でした」と印象を振り返る。

「先輩から『おまえ最近ブレイクダンスやってるとか言ってたじゃん』と振られたんですけど、体を大きくするために大きく太っていた杉田くんが、細かいステップを踏んで踊ったり、床でクルクル回ったりして、みんなでお腹抱えて笑ったのを覚えています。全身全霊でみんなを笑わせてくれた彼が、ラグビーだけでなく、そういうこともできなくなってしまうんだということも含めて、当時はすごく悲しかったです」(安村氏)。

  • ケガをする前、ボールを持って走る杉田さん(中央)

■絶望を救った仲間たちの“言葉”の力

そんな明るい性格であったにもかかわらず、絶望に打ちひしがれ、心を閉ざしてしまった杉田さん。そこから救い出したのは、仲間たちの“言葉”だった。番組では、1人1人が杉田さんに宛てて書いた手紙が紹介されるが、谷氏は「言葉の力はすごいと感じました。実際にあの手紙を読むと、ラグビー部の皆さんの心がこもった文章に思いの強さを感じたんです」といい、具体的に「思いをぎっしり書いてる人が多いんです。言葉を選んで短めになってる人もいるんですけど、文字の書き方や選んだワード、さらにかき消した文字などもあり、伝わってくるものがすごくあります」と、そのパワーを実感した。

入部してわずか4カ月で、そこまで熱いメッセージが寄せられる杉田さんについて、谷氏は「どれだけ部に溶け込んでいたのかが分かります。僕が同じ状況であの手紙を書いてもらえるかは、ちょっと自信がないですね」といい、安村氏も「そうなんです。4カ月であれはすごいです」と同意。そんな杉田さんの人柄も、後述する12年越しの富士登山という大きな夢を実現するための原動力になったのだと想像できる。

放送では描かれていないが、杉田さんは部に復帰しても、実際には、寮でほかの部員たちと同じ生活をすること自体が、まだ体力的に厳しい状況だったそう。安村氏は「ご飯を食べていても気づいたらいなくなっていて、部屋で寝ていることもあったそうです。回復してきている体調と相談しながらの生活だったんですが、寮の同じ部屋だった澤野くんが率先して身の回りのサポートをしていたんです」と明かす。

一方で、厳しい練習が終わって「うわー今日の練習疲れたー! エグかったー!!」と叫ぶ部員がいる中で、ラグビーのできなくなった杉田さんを前にして、その言葉すら選んでしまう人もいたそう。「みんな元に戻りたいと思ってるけど、心の優しい子であればあるほど気をつかってたと思うので、本当に探りながらの生活だったと思います」(安村氏)。

ちなみに、この「エグい」は、慶大ラグビー部の人たちが口癖のように発するワードだそう。密着取材のVTR中でも、体育会のノリの中で聞こえてくるので、ご注目を。

通常のドキュメンタリーであれば、ケガから奇跡の回復を遂げ、奇跡の勝利を収めたところでハッピーエンドだろう。これだけでも十分見応えのある番組だが、今回はここからが本番だというのだから、実にエグい。