夏ドラマもいよいよ中盤に入ったが、中でも注目度の高い作品は、深田恭子主演の『ルパンの娘』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)だろう。泥棒と警察の許されない恋というキャッチーな設定に、個性豊かなキャスティングやキャラクターデザインの奇抜さなど、独特の世界観が話題を呼び、フジテレビの動画配信サービス・FODの見逃し配信視聴数が過去最高を記録し、Twitterでは「#ルパンの娘」が世界のトレンド3位に入るなど、大きな盛り上がりを見せている。

このドラマのメインディレクターを務めているのは、フジテレビの武内英樹監督。伊藤淳史主演『電車男』(05年)や、上野樹里&玉木宏主演『のだめカンタービレ』(06年)、最近では杏主演『デート~恋とはどんなものかしら~』(15年)など、コメディドラマの秀作を多く手掛けてきたほかに、阿部寛主演『テルマエ・ロマエ』や、今年公開されて話題作となった二階堂ふみ&GACKT主演『翔んで埼玉』など、映画でもヒット作が多い。

そんな武内監督に、「テレビ視聴しつ」室長の大石庸平氏が、『ルパンの娘』制作の裏話や見どころに加え、コメディ演出に目覚めたきっかけなども聞いた――。

  • 『ルパンの娘』主演の深田恭子 (C)フジテレビ

■会社から「自由にやっていいよ」

――武内監督は『テルマエ・ロマエ』シリーズや『翔んで埼玉』など、映画ではぶっ飛んだ作品が多いですが、連ドラでこのような企画はかなり久しぶりな気がします。今回の企画の始まりから教えていただけますでしょうか?

『テルマエ・ロマエ』の稲葉(直人)プロデューサーと一緒に何かやりたいねという話で、今テレビドラマが医療モノや刑事モノばっかりになっている中で、会社からも「おまえたち2人だったら自由にやっていいよ」っていう風に言われたので、「だったらめちゃくちゃやるか!(笑)」というところからスタートしました。

もともと稲葉プロデューサーが『ルパンの娘』の企画を考えていたのですが、「これを武内監督が演出したら面白くなるんじゃない?」って言われて、設定を聞いた途端に「面白いな!」ってなりましたね。『テルマエ・ロマエ』からの流れで『翔んで埼玉』をやって、あのぶっ飛んだ作風をテレビドラマでもできないかなって話をしていたので、「ルパンだったらできるんじゃない?」っていうことですね。

――最初の段階から「チャレンジングなものを連ドラでやろう!」というところから始まったんですね。それにしても、原作からドラマ化にあたって、かなり設定を変えられていますよね。

原作は変身したりしないんでね(笑)。泥棒スーツとかは全く出てこないんです。

――原作の横関大さんの反応はどうですか?

僕は直接お話していなくて、プロデューサーが「原作をこういう風に改編させてください」っていう話をしていて、了承してくださったということだったので、やっていいって言うことならやろう!って感じですね。

“泥棒スーツ”姿の深田恭子 (C)フジテレビ

――原作にはない“変身する”という世界観はどの段階から出てきたんですか?

企画段階からありました。深田恭子が怪盗モノをやるっていうことで彼女の二面性を強く押し出したいなと。普段の図書館の司書としておとなしく働いている彼女と、とてもアクティブでカッコいい彼女との落差をどこまで出せるかがこの作品の勝負だなって思ったんですね。そういう面って彼女にあまりないじゃないですか。(ドロンジョ役を演じた映画)『ヤッターマン』(09年)でも彼女はそこまでアクティブではないので、こういう表現もできるんだという、彼女をより輝かせるために、泥棒スーツを着てアクションをやらせるっていうのは当初からプロデューサーと決めていました。

――スーツデザインは『翔んで埼玉』の衣装デザインもされた柘植伊佐夫(つげいさお)さんが担当されていますね。

『翔んで埼玉』でご一緒して、柘植さんが作り出す世界観っていうのはとても素敵だなと思って、だから映画だけじゃなくてテレビドラマでもビジュアルで秀でたものを出せたら新鮮じゃないかなってお願いしたんですね。あまりテレビはやらない方なんですけど、映画からのつながりで快く引き受けてくださいました。そうしたらキャッチーなものに仕上がって、そこに対する世間のリアクションもとても大きかったので、すごくうまくいったなと思っています。

■思いつきで「てんとう虫3号にしよう!」

――以前のインタビューで、『神様、もう少しだけ』では女子高校生に、『のだめカンタービレ』では音大生に取材をしたりと、事前準備の取材をかなりされるとおっしゃっていましたが、今回も事前に取材はされたのでしょうか?

今回は取材…してないんですよね(笑)。『翔んで埼玉』でも埼玉県民の人から “埼玉の心”っていうのを聞いたり調べたりしたんですけど、今回は全然調べてないですね。泥棒に会ってその時の気持ちとか聞けないですからね(笑)

――それでも、今回の作品は気持ちのいい作りものという感じで、作り手の方たちのアイデアがいっぱい詰まっているなという印象です。

本当に想像だけで作っている感じですね。泥棒ってこんな感じじゃないかなとか。主人公たちが畳の中から登場するという設定も、最初脚本ではマンホールだったんだけど、マンホールから出てきても道端だからバレバレだなって思ったし(笑)、ちょっと既視感もあるなと思ったので、畳から出てきたら面白いんじゃないかって思いついたんです。

(超小型遠隔カメラの)「てんとう虫3号」も、脚本の段階だと「防犯カメラをつける」だったんだけど、防犯カメラだけだとちょっとつまらないなって思ったので、防犯カメラがてんとう虫の形をしていたらカモフラージュができて面白いなって思ったので、「てんとう虫にしようよ!」って。しかも「てんとう虫3号にしよう!」ってテキトーに言ったら、脚本家もプロデューサーも乗ってくれて、さらにいろいろ活躍させていったら面白いんじゃないかってなって。最初の思いつきが、今や重要な1つのキャラクターになってくれて。

――「3号」というのも思いつきなんですね。

「3号」ってしておくと、試作機がいくつかあって今に至るんだなってお客さんの想像力をかき立てて、それから4号5号…って出てくるのか?このあとどうなるんだろう…っていうロマンみたいなものも出てくるのかなと思って。で、「3号“改”」「3号“翔”」ですからね(笑)

  • (手前)どんぐり、(左から)小沢真珠、渡部篤郎、深田恭子、さとうほなみ、瀬戸康史、信太昌之 マルシア (C)フジテレビ

――脚本づくりが楽しそうですね。

もうふざけまくってますね(笑)。この作品は基本的に“真面目ボケ”なので、ありえないアホな設定を作って、その中で役者さんたちがどれだけド真面目にやれるかっていう、そのズレがたまらなく楽しいっていうのを視聴者の方に感じてくれればいいなって思っています。そのためには、安っぽい舞台じゃダメなんですね。やっぱりきれいな画であったり、豪華なセットと素敵な照明の中で、ボケ倒すとそれがより効いてくると思っています。

――ゴージャスな世界観の中でふざけたことをやるというのが、フジテレビらしいなと思っています。

スタッフもみんな『翔んで埼玉』のメンバーが多いんです。カメラマンから照明、美術、脚本、音楽…とみんな息が合って、勝手知ったるメンバーなので世界観も作りやすいですよね。