お笑いコンビ・ピースの又吉直樹による芥川賞小説『火花』が、2016年のドラマ化、2017年の映画化に続き、今度は『火花 -Ghost of the Novelist-』として舞台化。しかも原作者である又吉と観月ありさがともに本人役で出演するというトリッキーな設定ときた。そこで又吉と観月の2人にインタビューし、舞台への意気込みについて聞いた。

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    観月ありさと又吉直樹

『火花』は、なかなか芽が出ない若手芸人・徳永と、彼が惚れ込んだ先輩芸人・神谷との交流を軸に、お笑い業界の栄光と挫折を描く青春ドラマ。舞台版で興味深いのは、小説『火花』の世界と、現実に存在する作者・又吉直樹と女優・観月ありさの世界を交錯させる二重構造により、『火花』の魅力を改めて掘り下げていく点だ。

舞台を演出するのは、『ダウンタウンのごっつええ感じ』や『笑う犬の生活』など数多くの人気バラエティ番組を手がけてきた共同テレビのプロデューサーで演出家の小松純也氏。キャストは観月、又吉のほか、『弱虫ペダル』や『おそ松さん on STAGE』の植田圭輔や、NON STYLEの石田明らが出演する。

――まずは、今回のオファーを受けた時の感想から聞かせてください。

又吉:最初に『火花』が舞台化されると聞いた時は「ああ、そうなんだ」くらいの軽い気持ちでしたが、その後、出演を打診された時は、自分の書いた作品に出るという恥ずかしさとともに、プロットに対して「これは面白そうだな」という気持ちの両方がありました。今までは原作者という立場での参加でしたが、今回は自分も出演するということでそこは少し立ち位置が違うし、また、原作に光を当ててもらえるからうれしいなとも思いました。

観月:まず『火花』という作品で又吉くんから声をかけてもらえたこと自体がうれしかったです。前々から「何かあったら声をかけてね」と言っていたけど、社交辞令じゃなく、ちゃんとオファーしてくださったんだなと。だから、観月ありさ役じゃなくても、やらせていただきたいと思いました。

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又吉直樹、観月ありさが2人とも本人役で出演

――脚本を読まれて、どう思われましたか?

又吉:僕は原作者・又吉直樹として「どういう意図で『火花』を書いたのか?」と問われていく構造です。どこまで小松さんが計算されているのかわからないけど、すごく複雑な構造が面白そうなことになっています。

観月:本人役というのは初めてでしたが、脚本はとても面白くて、すらすらと楽しく読めました。『火花』のお話に付随して、私たち2人のストーリーが上手く絡んでいくんです。ある時は俯瞰で『火花』という物語を見ながら、ある時は『火花』の中に女優として入り込みながら、いろんな距離感で『火花』を見ていくという感じでした。

又吉:観月さんは一番複雑な役ですよね? 観月ありさとして出演しているけど、他に劇中のヒロイン2役も演じているから。

観月:そうなんですよ。自分の役を演じるのも初めてだったから、どうしようかなと思いましたが、他にも劇中に登場する2役を演じています。

――観月さんが又吉さんに「なぜ小説『火花』を書いたのか?」と尋ねるシーンがあるそうですが、実際にその答えが明確に描かれるのかが気になります。

又吉:それは今回小松さんが設定した1つの大きなテーマやと思うんです。役として僕がその問いに答えるかどうかはわからないけど、約2時間の芝居を観終わった後、観てくれた人が「おそらくこういうことやったんやろ」と、何か1つ感じられる作りにはなるんじゃないかと思っています。それを早い段階で、僕が口頭で言ってしまうのは違うと思うので、そういうことではなく、だんだん答えが立ち上がってくる物語になっているのかなと僕自身は思っています。

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観月ありさが又吉直樹に愛の告白!?

――劇中で、観月さんが又吉さんに「愛してる」とささやくシーンがありますね。

又吉:ふふふ。そうなんですよ。まだ、通し稽古が始まってないんですが、楽しみですね。

観月:台本に「愛してる」とか「ぎゅっとする」とか書かれていて。全然知らない人だったらあまり抵抗がないんですが、又吉くんとは知り合ってから何年も経つので、台本を読みながら「けっこう恥ずかしいな」と思いました。

又吉:そうですよね。僕も今回、観月さんと舞台で共演するというのは、バラエティ番組でご一緒するよりもすごく緊張します。

――今回の舞台をやることで、原作者として小説との距離感は変わったりしますか?

又吉:そうですね。「ここはこういうふうに解釈してくれたんや」「ここはこういうことやったんや」と、あとから自分自身も気づかされる部分がありました。原作者と言っても、作品のことをすごくわかっているわけではないので。書いたのは僕やけど、なぜ書いたのか?という答えみたいなものは完全に出てない部分がありますし、それをやりながら考えられる作りになっているのかなと。

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複数の肩書きを持つ2人

――おふたりとも、いろんなジャンルの肩書きをもってらっしゃるという共通点がありますね。

又吉:僕はそんなにやっていることは変わらないです。芸人として普段からコントも自分で書いてますし。でも観月さんは、女優、歌手、モデルという3つのジャンルはぜんぜん違いますよね?

観月:でも、表現するという意味ではすべて同じです。私からすれば、小説を書けること自体、すごいことだと思います。

又吉:いや、表現というところでは根本が一緒なのかもしれない。小説を書くのは体力がいるなあと思いますが、実在しない人物に架空の台詞を言わせるのはコントに近いといえば近いし。

観月:いやあ、私はすごいと思いますよ!

――最後に、これから舞台を楽しみにされているファンの方へのメッセージをお願いします。

又吉:原作と同じものをやろうということではなく、原作に迫るために必要な仕掛けが施されたものになっています。そこに注目して観てもらえたらと。

観月:やはり又吉くんご本人が出ていることが大きいですね。実際、又吉くんは何を思ってこの描写を描いたのだろうと思って原作を読まれた方も多いと思いますが、今回は私がご本人にそのことをずけずけと聞いていくわけです。そこが『火花』ファンの方には味わい深いところだと思います。

舞台『火花 -Ghost of the Novelist-』は、3月30日~4月15日に東京・新宿の紀伊國屋ホールで上演。

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■プロフィール
観月ありさ
1976年12月5日、東京都出身。子役モデルを経て、1991年ドラマ「もう誰も愛さない」で注目される。同年、初シングル「伝説の少女」で、日本レコード大賞新人賞を受賞。女優としてドラマ「ナースのお仕事」シリーズや「斉藤さん」シリーズに出演し、人気を博す。近作は主演ドラマ「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」(17)。モデル、テレビ、映画、舞台、バラエティ番組などで幅広く活躍中

又吉直樹
1980年6月2日、大阪府出身。お笑いコンビ・ピースのボケ担当。2010年、キングオブコントで準優勝し、M-1グランプリで4位に。芸人活動と併行して、エッセイや俳句など文筆活動も行い、2015年の中編小説「火花」で第153回芥川龍之介賞を受賞。2017年には長編小説「劇場」を発表。現在、大河ドラマ「西郷どん」に徳川家定役で出演中

観月ありさ衣装クレジット:ブラウス、パンツ=PINKO/PINKO JAPAN ピアス、リング=アガタ パリ/アガタ ジャポン