映画監督に、出演役者の印象を伺っていく「監督は語る」シリーズ。今回とりあげるのは、菅田将暉(23)だ。『仮面ライダーW』でデビューを飾ったのち、テレビドラマ、映画と次々に出演。主演作『共喰い』(13)では、日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞した。
2016年だけでも『ピンクとグレー』『星ガ丘ワンダーランド』『暗殺教室~卒業編~』『ディストラクション・ベイビーズ』『二重生活』『セトウツミ』『何者』『デスノート Light up the NEW world』と多くの映画に出演し、週に複数本の舞台挨拶に登壇するほど引っ張りだこに。映画『溺れるナイフ』(11月5日より公開中)では、小松菜奈演じる少女・夏芽が引っ越してきた土地の神主一族の跡取り息子・長谷川航一郎(コウ)を演じる。
菅田将暉の印象
菅田さんは秀才的な方なのかなと思っていましたが、現場に入ると「この人は本当に天才なのだ」と思うことがすごく多かったです。役に対しても理性的なアプローチをされてるのかと予想していたのですが、生きていることの揺らぎの強い方でしたね。形式的な役からは零れ落ちる、もっと美味しい部分がはみ出ているというか、自分でも自分の力を持て余しているような印象が強くあって、そこを必ず撮りたいなと思いました。
まだ全然「ここがあるじゃん」と思わせるような、どれだけ多くの作品に出ていても、彼自身ももしかしてコントロールできないような力を感じるというか。そういった印象は、絶対全部プラスに持って行こうと考えていました。このコウ役は、最初から菅田さんにお願いしたかったのですが、今でも菅田さん以外はなかったと、菅田さんがこの時代にいたからこそ『溺れるナイフ』が撮れたんだと思っています。
撮影現場での様子
撮影前に方向性として「夏芽のファム・ファタル(運命的な相手)としていて欲しい。告白して付き合って、デートに行くというごく普通の男女の段階をこの映画は踏みません。そういう一般化された恋愛関係の発展のさせ方を凌駕して、ただ、男と女が惹かれ合って触れ合う。それはコウが、言外にいつでも夏芽を誘惑しているからこそ、いつの間にか2人が触れ合ってしまうのは当然のことだと思えてくる、そんなふうに見えて欲しいとお伝えしました。この美しいふたつの肉体が惹かれあってしまうのは至極の道理なんだという存在でいてほしい」といったお話をしたんです。そうしたら菅田さんはちょっと遠い目になる感じで、「ああそういうことね」みたいな顔をされてるのが印象深かったです。事前打ち合せの中では、その言葉がいちばん伝わったのかなと感じて、実際イメージを叶えてくれました。
彼は体温というか、まとっているものが日によって変わる感じがありました。菅田さんを撮るならこう撮ろうとこちらがイメージを押し付けるんじゃなくて、彼の持ってる体温と世界をどう溶け合わせるのかという感覚を研ぎすまして見ていました。動物的な本能の部分みたいなものを見せられているかのように、刺激を受けれて、彼を撮るのはスリリングで楽しかったです。
映画『溺れるナイフ』でのおすすめシーン
夏芽と追いかけっこをするシーンは、気に入っていますね。宇宙の中でたった一回、ワンテイクしか撮れないような動きを撮りたいなと思っていて、あの頃体重を絞っていた菅田さんが舞うように、山の底を走っていく。振り付けやアクションとして動きをつけてもああいう風にはできなくて、菅田さんのセンスが爆発するままで走ってくれた、撮っててすごく爽快感のあるシーンでした。
撮影時には「全速力で、夏芽を捕まえようとしてください。2人は惹かれ合ってるように、かつ逃げて、でも絶対に触れないでください」とまさに無茶な要求をしているのですが、映っている2人の舞うような追いかけっこ、完璧に応えてくれたと思いますね。あんな追いかけっこするのは、この地球でふたりだけだなって。
(C)ジョージ朝倉/講談社 (C)2016「溺れるナイフ」製作委員会