2014年に公開された映画『超高速!参勤交代』。なかなかヒットが見込めない時代劇でありながら、佐々木蔵之介演じる湯長谷藩の藩主・内藤政醇が、幕府から突然の参勤交代を命じられ奮闘する姿が幅広い層から支持され、最終的には興行収入14億を超えるヒットとなった。

製作陣が自ら「異例のヒット」と語る同作だが、この度続編である『超高速!参勤交代 リターンズ』が9月10日に公開となった。江戸についてめでたしめでたし……と思いきや、「帰路」が待っていたという展開は「その手があったか」と話題に。前作のヒット、そして今作の製作について、どのように考えているのか、本木克英監督に話を伺った。

本木克英監督
1963年生まれ、富山県出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、松竹に助監督入社。森崎東、木下恵介、勅使河原宏などの監督に師事し、米国留学、プロデューサーを経て、98年『てなもんや商社』で監督デビュー。第18回藤本賞新人賞を受賞。主な作品は『釣りバカ日誌』シリーズ11~13(00~02)、『鴨川ホルモー』(12)、『おかえり、はやぶさ』(12)など。前作『超高速!参勤交代』で第57回ブルーリボン賞作品賞、第38回日本アカデミー賞優秀監督賞など受賞。

率直な気持ちは「戸惑いと不安」

――「続編を作る」という話になったときの、率直な感想をお聞かせ下さい。

戸惑いと不安が大きかったです。登場人物が愛されたのは嬉しいですが、前作で完結しており、世界観に新しさはないので、いいアイデアが出なければやめようとも思っていました。

――前作がヒットした要因について、ビジネスパーソンにも共感を得た、演技派俳優がそろっていた、等といろいろ要因が分析されていますが、ご自身ではどのような点がヒットにつながったと思われますか?

過激なタイトルながら、悪ノリに走らず、2時間近く楽しめる群像喜劇映画に仕立てられたことが新鮮さを生んだのではないかと思っています。豊かな中央と地方の格差、本社と支社の理不尽な差別など、今の日本人が共感できる現代性が伝わったことも大きかったのではないでしょうか。

――キャストを俳優さんで固められており、実際に「見た目は重視しないでキャスティングした」というお話でしたが、実はふだんはアイドルであるHey! Say! JUMPの知念侑李さんがいらっしゃるのが面白いなと。

知念さんも「見た目」だけではなく、時代劇では扮装したうえでの姿勢と居住い、所作が重要ということでお願いしました。ジャニーズの若手メンバーとは何度か仕事をしており、彼らの能力の高さは知っています。

知念君は小柄ながら腰を落とした武士の動きができてキレもいいですし、月代(さかやき)もよく似合いました。現場でモニターを見ながら、往年の大川橋蔵はかくやと思わせる美しさがありました。

「記憶に残る映画を作る」松竹の良さ

――前作の成功を経て、『リターンズ』の作品づくりに取り入れたことはありますか?

過去に続編を作った経験から、変えてはいけない演出もあると痛感していました。それも踏まえ、面白かった参勤交代や立ち回りの場面でいかに観客の予測を越えるか、設定の意外性やロケ地の多様さ、無駄なく意味のあるアクションの連続性を意識しました。

――現代に時代劇を世に出す、ということについて、面白い点、難しい点を教えて下さい。

敷居が高く思われがちですが、ゼロから世界を作り上げる時代劇は、作り手として、実は自由度が高いんです。夢や希望にリアリティを感じにくい現代劇より表現の幅が広がり、面白い。

難しいのは、史実と時代考証を踏まえつつ、堅苦しさや古臭さを乗り越えること。歴史上の「ご存知」の人物や、殺陣の「お約束」が必要な時もあり、これらをいかに自然に現わすかも難しいところです。

――実は自由というのは意外な視点でした。本木監督は社員監督としてご活躍されていますが、松竹さんの良いところはどんなところだと思いますか?

この映画もそうですが、認知度のないオリジナル脚本から映画を作るチャンスがあることです。「記憶に残る」映画を作ろうという伝統的な気概が残っています。そして、時代劇を作れるスタッフと撮影所を保持しているところが、相対的に見て良いところだと思います。

映画『超高速!参勤交代 リターンズ』
前作で見事江戸への参勤を成し遂げた湯長谷藩だったが、そもそも参勤交代とは、だけでなく、藩に帰るまで終えてこそ完結するもの。今度は故郷を目指し、ゆっくり江戸を出発した一行だったが、その道中、湯長谷で一揆が起きたとの知らせが入る。2日以内に一揆を収めなければ、藩のお取り潰しは免れない。彼らは行きの倍の速さで帰ることに……。9月10日公開。

(C)2016「超高速!参勤交代 リターンズ」製作委員会