英国のEU離脱の是非を問う国民投票がいよいよ6月23日に迫ってきた。6月に入ってEU離脱派が残留派をリードしているとの世論調査結果も増えており、英国がEUから離脱するのか否か、予断を許さない状況になっている。

仮に、投票結果が「EU離脱」となれば、直後に何が起こるか、以下に簡単にイメージトレーニングをしてみたい。


まず、投票は、現地時間の23日午前7時に始まり、同午後10時(日本時間24日午前6時)に締め切られる。公式の出口調査は行われないが、何らかの民間の出口調査は行われるかもしれない。ただ、投票締め切り前に結果を公表することは禁じられている。

投票締め切り直後から全国382地区で開票作業が開始され、現地で日付が変わるころから、各地区の結果が徐々に明らかになるようだ。各地区の結果は12の地域センターに集計され、最終結果はマンチェスター・タウンホールで主席集計官によって発表される。

大勢判明は現地24日午前4時ごろ(日本時間同日正午ごろ)とみられるが、これはあくまでも目安だ。接戦であればあるほど、大勢判明が後ズレするのは想像に難くない。


仮に、EU離脱派が過半数に達するとしよう。金融市場の初期反応は、ポンド急落、株安、債券高(金利低下)という典型的なリスク回避の動きとなるだろう。欧米の株式や債券の現物市場は開票が始まる前に閉まっているので、開票状況に応じて反応するのは、それらの先物市場であり、為替市場だ。

とりわけ、為替市場では、ポンドの急落に連れてユーロ安も進みそうだ。リスク回避という点では、新興国通貨も打撃を受けるかもしれない。一方で、ドルやスイスフラン、円などの、いわゆる逃避通貨が顕著に上昇するだろう。

当局は対応に追われそうだ。キャメロン政権は投票結果を真摯に受け止め、英国民にとって最善となるようEUとの離脱交渉を開始すると宣言する一方、英国民に冷静に行動するように訴えかけるだろう。時を同じくして、欧州大陸では臨時でEU首脳会議あるいは財務相会議が開催され、対応を検討するとともに、EUの結束を改めて確認するかもしれない。

BOE(英中銀)は、深夜にもかかわらず、流動性の潤沢な供給を約束する緊急声明を発表するかもしれない。また、同国財務省の要請に応じて、ポンド防衛のための外為市場介入を行う可能性もある。その場合、ECB(欧州中銀)はスワップ協定に基づき、BOEへの介入資金としてのユーロ提供を発表するかもしれない。一方で、スイス国立銀行(中銀)はフラン高騰を抑えるため、フラン売りの介入に踏み切るかもしれない。

それとも、そうした動きは、見られるとしても翌24日以降になるのだろうか。

さて、24日の東京市場は、EU離脱の洗礼を受ける最初の主要な株式市場となりそうだ。朝9時に株式市場が開く段階で投票結果の大勢が判明していれば、株価は寄り付きから大幅に下落するかもしれない。大勢判明が遅れて、場中に、あるいは後場に入って相場急変という可能性も否定できないだろう。

投資家のリスク回避が強まって一段と円高が進行するならば、それがさらに株価を押し下げる要因となるかもしれない。一方で、国債には逃避資金が流入し、すでに満期15年以下がマイナスとなっている流通利回り(市場金利)は一段と低下するだろう。

そうした、いわばトバッチリに対して、日本の当局に何ができるだろうか。各国協調でのポンド買い(円売り)介入や、緊急的な金融緩和も検討されるかもしれない。英国民投票を間近に控えて、日米金融当局が政策変更を見送ったのは、国民投票後の混乱に備えたためだとの見方はできるだろう。

もちろん、ここで描いた状況が全くの杞憂に終わる可能性も決して小さくない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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