5月28日、ANAは1月に発表していたベトナム航空への出資に関する正式契約を締結したことを発表した。1月の時点ですでに、ベトナム航空株式の約8.8%に相当する総額2兆4,310億ドン(5月28日時点で117億円)での出資についてはアナウンスされていたが、このタイミングで航空会社間の提携と出資の関係の違いも含め、もう少し掘り下げてみたい。

ANAとベトナム航空のコードシェアやマイル加算は、10月30日の冬ダイヤからとなる

1,700億円の活用使途における有力投資

かねてよりANAは、2012年に行った公募増資で得た1,700億円の活用使途を模索してきた。増資資金を借入金の返済に回すのではなく、航空事業の発展拡大に資する戦略的投資に活用するとし、その後、ANAは国内外において多くの案件を俎上(そじょう)に上げ、投資を実行している。しかし、ANAから発表された投資案件を俯瞰(ふかん)すると、航空機購入資金への充当というオーソドックスな使途以外で、早期の実効を望める案件を見つけるのはなかなか難しい様相のように感じられた。

ANAは2013年、ミャンマーの航空会社であるアジアン・ウィングス・エアウェイズへの出資を検討していたが、その仕切り直しとしてこのほど、ミャンマーの現地資本に49%出資した上で、新航空会社「アジアンブルー」を自ら設立することを明かした。アジアンブルーの今後の順調な滑り出しが期待されるが、それ以外では2013年に米・乗員訓練会社のパンナムを買収したものの事業の推進が停滞の様相を示すなど、当初のもくろみを実現する兆しが見えにくいのが現状だ。

そんな中でのベトナム航空への戦略出資は、117億円という出資額の大きさと相まって、ANAとしてはある意味、乾坤一擲(けんこんいってき)の判断ではあっただろう。何より、ベトナムは東南アジア経済圏での大きな位置を占める国とはいえ、今回の出資は共産圏の国営航空会社というものだ。金額的にも過去に国内で行った中堅・地域エアライン案件の2倍以上の金額ではあるものの、他方出資比率は8.8%という、事業上の影響力やシナジー保持という面では微妙な数字での投資である。

「アジアンブルー」の設立は、ANAにとって2度目のミャンマー進出となる

「8.11ペーパー」縛りがあるJALに先手を

少しさかのぼると、ベトナム航空は2014年12月に政府方針により株式を公開(IPO)した。その際には全株式の3.48%を1株あたり2.23万ドン(当時120円、額面株式価額の2.2倍)で売却し、約60億円(当時)の資金を得た。しかし当初は、全株式の20%を内外に売却するもくろみだったものの、結果として当時海外からの投資はゼロに近く、売却株式数も計画には届かなかった。これはベトナム政府がどれだけ本気で国際ルールに基づいて国営航空の民営化を進めるか、投資家の不透明性を拭えなかったことが原因と見られている。

その意味では、ベトナム航空としては今回初の海外からの投資を得ることができ、また、相手がANAであったことで、資金的にも信用という面でも、投資家やリース会社など金融側に対するメリットは大きかったのではなかろうか。ちなみに数字合わせでしかないが、2014年のIPO時に3.48%、49.3万株を1株2.23万ドンで売却した際の総額は1.1兆ドン。今回のANAの発表数値8.8%、総額2.43兆ドンは当時のドンベースの1株あたり価格を12%以上、下回っていることになり、ANAとすればIPO当時の相場より若干低い価格で購入できたのではないかと推測される。

思い起こせば、2012年にANAがスターフライヤーの株式の18%を購入して筆頭株主となった際、発表した購入価額は当時のスターフライヤーの株価の2倍以上であった。売却主の米・投資会社DCMは当時、「筆頭株主という経営への影響力」を付加価値として、これを"価値"を認識する複数の航空会社へのビッドに持ち込み、市場外で高額の売却を成功させた。

一方、今回のベトナム航空の場合は日本社相手のディールであり、かつ、ビッドの競争相手となるであろうJALが「8.11ペーパー」の縛りの渦中で新たな戦略投資を禁じられている。こうした環境下での取引であったことからも、比較的リーズナブルな価格での売買は環境的にはうなずける結果と思われる。