リビングの情報ポータルとしての地位の復権

実は、「みるコレ」は単なる次世代型ユーザーインターフェースというだけではなく、東芝のテレビビジネスの新機軸となる可能性も秘めている。一つはデータとしての価値。テレビ放送は視聴率がビジネスの尺度となっているが、それはリアルタイム視聴のみで、録画視聴は対象になっていない。

しかし、「みるコレ」はクラウドサービスであるため、ユーザーがどのパックを利用して録画したかをデータとして取得できる。最初だけでなく、2話、3話と進んでいった時に録画を続けているか、それとも止めてしまったかもわかる。さらに、そのパックを選んだユーザーが、他にどんな番組を録画しているか、何曜日の何時にどんな番組を見ているかといった分析も可能だ。アニメだけでなく、中村氏が担当している旅行や料理、ドラマなど他のジャンルと掛け合わせることでユーザーの嗜好がわかり、次の番組作りに役立たせることができる。

「みるコレ パック」の人気ランキング、歌番組やお笑い特番、おすすめドラマ&大人アニメといった定番のほかに、中村氏が作った「深夜に見たいバラエティ」「住宅番組が好き」「健康になろう」といった独特のテーマも比較的上位に入っていることに注目

アニメ、ドラマは週ごとの録画予約数の推移がわかる。一般的には徐々に下がっていくのだが、まれに伸びるものもある。ネットでの口コミも無関係ではないという

もう一つは、テレビの情報ポータルとしての復権で、昨年末に始まったKADOKAWAのアニメ雑誌「ニュータイプ」とのコラボパックが鍵になる。

片岡氏:ニュータイプパックは、雑誌の特集との連動企画や今期の主要アニメの主題歌PVのリンクに加え、「ニュース」という項目を設けています。これは、Web NewtypeのRSSフィードから記事をもらって表示しているもので、アニメ系のイベントやフィギュアなどグッズ発売の情報も含まれています。大人アニメは、各制作スタジオが心血を注いで作り上げており、ブルーレイソフトとしてもクオリティが高い。アニメは原作本やフィギュア、グッズ、映画化、声優コンサートなどのイベントというように、大きなエコシステムを形成しています。その動線を作ることが我々の役目だと思っています。コンテンツが集まる場所になることでテレビが売れるようになるし、アニメをはじめとしたテレビ番組がもっと見られるようになるでしょう。業界全体の問題として、テレビがどんどん見られなくなってきている。特に検索文化に慣れた若い世代は、放映時間まで待つというテレビの特性に苦痛に感じている。自分の好きな時間にクリックしてすぐに結果が出る、そんな世界がテレビでも必要だと痛感しています。公式の見逃し配信サービスも始まっていますが、PC・スマホ向けだけでなくテレビにも対応し、それがリアルタイムの放送とリンクしていれば、ユーザーはテレビに戻ってくるでしょう。

「みるコレ パック」の中にVODコンテンツも連動させる計画も進んでおり、REGZAが番組コンテンツのポータル的存在となる道筋は既に見えてきている。

昨年4月に発覚した不正会計問題により、大規模な構造改革を余儀なくされた東芝。同社ブランドをけん引してきたテレビ事業もその矢面に立たされ、事業の継続さえも危ぶまれた。しかし、12月21日に発表された「新生東芝アクションプラン」では、国内開発・販売を継続し、高付加価値製品を中心とした利益が出せる体質への転換を図るとの内容が盛り込まれた。

高付加価値化の重要なツールとしてクラウドサービスを挙げているが、その一端を担うのが「みるコレ」である。現在、どのメーカーもカタログを開けば高画質に対する美辞麗句が並ぶが、ハードウェアのスペックの羅列はユーザーからは「どれも同じ」に見える。それが同質競争を生み、結果、価格下落を招く。他社にない特徴的な機能である「みるコレ」がこの悪循環を破り、東芝のテレビ事業を再生へと導いてくれることを切に願う。

「みるコレ」中の人である二人。片岡氏の異能ぶりばかりに目を奪われがちだが、アニメ以外のパックを担当する中村氏も、音楽からスポーツ、旅行、料理などあらゆるジャンルを調べ、取材するなどスーパーウーマンぶりを見せる。さらに、アニメも詳しいから驚きである