消費者庁はこのほど、「高齢者の入浴中の事故」に関する実態を明らかにした。入浴中の事故を防ぐための注意事項もあわせて公開している。

家庭の浴槽での溺死者数の推移

厚生労働省の人口動態統計によると、平成26年の家庭での浴槽での溺死者数は4,866人であった。平成16年と比較すると、10年間で約1.7倍に増加している。このうち約9割が65歳以上の高齢者で、特に75歳以上の年齢層で増加していることがわかった。

家庭の浴槽における溺死者数

厚生労働省の研究班の調査では、救急車で運ばれた患者数から推計した入浴中の事故死の数は、年間約1万9,000人(死因が溺水以外の疾病等と判断されたものを含む)にのぼるという。入浴中の事故死は特に冬季に多く、12月から2月にかけて全体の約5割が発生しており、入浴中の事故死の数と気温に相関性があるという報告もある。

東京都23区における入浴中の事故死

また、日本の高齢者の溺死者数は欧米に比べ多くなっている(※)。これは、入浴中の事故がほとんどが浴槽内で起きていることから、熱い湯に肩まで漬かるという日本固有の入浴スタイルが影響していると考えられる。そのほか、既往症のない人の事故や、原因がはっきりしない事例も見られるという。

消費者庁が55歳以上の消費者を対象に実施したアンケート調査では、入浴事故のリスクが十分に周知されていないことにあわせ、消費者の安全対策が不十分であることも明らかとなった。

「持病がない普段元気な人でも入浴事故が起こることがある」を知っている人は34%。安全な入浴方法の目安である「41度以下で10分未満に上がる」を守っている人は42%にとどまり、浴室等を暖める対策を全く実施していない人も36%みられた。こうした中で約1割が、入浴中にのぼせたり、意識を失ったりした経験があると回答している。

同庁では、安全に入浴するために数々の注意点を挙げている。温度の急激な変化による血圧の変動で、失神・溺れてしまうことを避けるためには「入浴前に脱衣所や浴室を暖める」ことが有効とのこと。「湯温は41度以下、湯に漬かる時間は10分までを目安に」も気をつけるポイントだという。

また、浴槽から急に立ち上がると、脳が貧血状態になり一過性の意識障害を起こすことがある。手すりや浴槽のへりを使ってゆっくり立ち上がるのがよいという。入浴中の事故死の検体から、アルコールが検出された例もあることから、「アルコールが抜けるまで、また、食後すぐの入浴は控える」も挙げている。

入浴中に体調の悪化等の異変があった場合は、早期に対応することが重要なため、「入浴する前に同居者に一声掛けて、見回ってもらう」ことも重要としている。

※(出典)Lin C-Y, et al.Unintentional drowning mortality, by age and body of water: an analysis of60countries. Inj Prev2015;21: e43-50.Fig7