――流行を先取りしたりなど、マーケティングはかなりやられているのですか?

まったくやらないですね。ガチャガチャって、作るのに半年以上はかかるんです。今はやっているものを作っても、半年後にはもう遅いですよね。なので先行してやるしかないんです。大手ではないので、作品とグッズを同時展開させることもできないですしね。「これは売れる!」と思ったものに限って売れないこともあります。

――そういう「売れていないシリーズ」もお聞きしたいです。

奇譚クラブのコアなファンの方たちには「売れていないシリーズ」の方が人気があったりもします。「消しゴム世界紀行」は、昔ながらの消しゴム人形的な雰囲気をプンプン漂わせる商品で、キン消し(キン肉マン消しゴム)が実際には消せない消しゴムだったことから、「消せる消しゴムで作ったら売れる!」という思いで作ったものですが……さっぱり売れませんでした。もっと世界のいろんなものを作るつもりが、第1弾で終わりに。ガチャガチャは本当に利益が薄いので1回だけの企画では採算が合わないこともあり、リピートを考えて進めているのですが、それがなかったら終わりですね。

「消しゴム世界紀行」

フィギュアイラストレーターのデハラユキノリさんのシリーズも、ニッチなファンの方には熱狂的に好まれるのですが……(苦笑)。でも絶対におもしろいので、いつかどうにかなるんじゃないかと思い作り続けています。社内では大人気のアイテムなので、「今回もダメだったね」「でも次頑張ろう!」みたいな雰囲気でございます(笑)。

「世界のパンチラストラップ」

――ミニ四駆をモチーフにした「ダッシュ!四駆郎 プルパックカーコレクション」なんかすごく売れそうですけど……。

担当の「ミニ四駆愛」を注ぎ込んだ渾身のアイテムとなっておりまして、ガチャガチャを開けたらミニ四駆が箱に入っていて、シールも自分で貼るというこだわりの仕様なんです。しかも、箱の中には説明書きまで再現しているという細かさです。

「ダッシュ!四駆郎 プルパックカーコレクション」

"社内では話題"というところだと、最近では「中国可愛的猫」でしょうか。「中国にこういう玩具がありそう」という妄想から企画されたものです。ゆるい造形と、ゆるい塗り。あとはびよーんと伸びるところが特徴ですね。

――ではヒットした商品は? やはり「フチ子」さんが筆頭になるとは思いますが。

「フチ子」のヒットは奇譚クラブとしてもターニングポイントでしたし、「フチ子」の登場によってガチャガチャ業界自体が変わったとよく言われます。元来ガチャガチャはニッチな層のものだったのですが、見てくれる人の数が圧倒的に増えたんですね。

もともと社長がタナカカツキさんのファンで、一緒に何かできないかと思っていました。そんな中でタナカカツキさんから企画書をもらって、その中の一つが「コップのフチ子」でした。発売した当初は、2、3個売れればいいなと思っていたくらいで、こんなことになるとは思いもしていませんでしたね。実はタナカカツキさんから企画を10個ほどもらっていて、そこから社内で三つに絞り、その中から「3番手のもの」からやろうということで実現したのが「フチ子」です。企画としては3番手だったんですね。「フチ子」がダメだったらほかの二つをやる予定だったんですけれど、予想に反してヒットしてしまったので、あとの二つは商品化していないですね。

「奇譚クラブ10周年のフチ子」

――そもそも、なぜコップのフチに置こうと思ったんですか?

当時Facebookがはやっていて、「OLさんがよくアップしている料理を撮っただけのつまらない写真が面白くなったらな~」というところからです。流れとしては、「シリーズ生きる」や「世界のパンチラストラップ」のように"SNSでのネタのなりやすさ"を踏襲したものが「フチ子」なんです。

ただ、コップのフチに置くのは技術的にはすごく難しくて、フチ子の場合は原型制作に2~3カ月をかけます。そして原型でひっかかっても工場で本生産したあとにひっかからないこともあるので、調整も入れてちょうど1年くらい必要になります。担当している造形師の方は人を作るのが得意な人で、うちの商品だと「アンタッチャブル山崎弘也ストラップ」なんかを作った人ですね。表情は基本1種類で、背後の設定はあえて作っていません。実はOLとも名言しておらず、あくまで"OL風の服装"なんです。設定があると、自分の思いを投影できないので、お客さんが想像を膨らませられるように空虚な存在であるようにしています。お客さんからは「オフィスで疲れている時に見ると落ち着くよ」って声がすごく多くて、その度に「日本は相当疲れてるな」と思いますね(笑)。

そんな「フチ子」と二大巨頭になりつつあるのは「ここは俺がくいとめる!お前は先に行くニャー!!」シリーズですね。これは300万個売れました。「ケータイふんどしマスコット」はなんと日本ふんどし協会公認なんです。作って初めてこんな協会があるというのを知ったんですが(笑)。「生物学者のプレパラートシール帳」のようなものも売れるんですから、わからないもんですね。これは、好きな人は「貼る用」と「キープする用」で複数購入されているそうです。あとは夏場にペットボトルがベチャベチャになるところに目をつけて、「そうだパンツだ。早く履かせてあげたい!」という勢いで生まれた「ボトルのおぱんつ」もすごく売れました。

「ここは俺がくいとめる!お前は先に行くニャー!!」

「ケータイふんどしマスコット」

「生物学者のプレパラートシール帳」

「ボトルのおぱんつ」