来日中のIEA(国際エネルギー機関)事務局長のファティ・ビロル氏は、日本記者クラブにて、11月に発表された2015年版「WEO(世界エネルギー展望)」レポートに関する会見を開き、記者らの質問に答えました。

IEA(国際エネルギー機関)事務局長のファティ・ビロル氏

「安全保障上の問題を含め、今の原油価格の動向は良いニュースと言えない」

冒頭、ビロル事務局長は、

「現在、全世界的にエネルギー価格は歴史的な低水準にある。ガス、石炭、石油、いずれも低価格で推移している。特に、石油に関しては世界の石油産業への投資が2015年には20%以上も減少し、2年連続での減少となった。30年の歴史において、石油への投資が減ることはなかったが、今、それが起きている。

ただ、NY原油WTIの価格が1バレル=40ドルを切るような低水準の状態が永続することはあり得ない。仮に40ドル程度の低価格が10年単位の長期で続けば、中東以外の産油国での生産が減少するだろう。北米、ブラジル、アフリカ、ロシアなどによる石油の生産が削減されていくと、中東の石油輸出のシェアは増加していく。政情不安のある中東への依存度を高めてしまうことになるのだ。

安全保障上の問題を含めて、今のような原油価格の動向は良いニュースとは言えない」

との認識を示しました。

「早ければ来年末あたりから低価格を脱する可能性」

また、ビロル事務局長は、

「原油価格の低迷が長期化し、投資が不足すると、供給が極端に減少する。そうなれば、2020年までに1バレル=80ドルまで戻る可能性も出てくるだろう。

早ければ来年末あたりから低価格を脱するかもしれない。

仮に、急に需要が増えれば、2017年、2018年にマーケットにサプライズが発生するかもしれない。急騰する可能性もある。そうなると、特に日本のような国は、貿易収支にも影響が出る。OPECがどのように動くかという点については、今後も注視すべきだろう。

肝心なのは、需要と供給の両面を整理しておくことだ。

今、マーケットにはオイルがあふれている。供給サイドから見れば石油はダブついている。供給の増加に対し、世界の需要は増えていない。

一方で、中国やアメリカでは自動車市場が堅調であることから、徐々に石油のダブつきは解消されていくことも考えられる。割安感による需要の増加によって次第に上昇していくという予測もできる」

と述べました。

「米国が40年ぶりに原油輸出解禁、グローバルな視点では安全保障上プラス」

さらにイランへの制裁解除後の動向について、ビロル事務局長は、

「イランの原油輸出については、制裁解除後の6カ月から12カ月以内に、日量50万バレルの増加の可能性が出てきた。イランの原油輸出が拡大すれば、供給がさらに増加する。イランについてはマーケットの情報が足りないが、イランによる原油輸出の増加分を考慮すると原油価格の大幅な上昇は、やはり来年末までは考えにくい。

また、米国では原油輸出を解禁する法案が可決され、40年ぶりに原油の輸出を解禁するが、グローバルな視点で見れば、安全保障上はプラスとなる。これにより、サウジアラビアや中東との競争が激化し、石油の価格水準を変えるようなことにはならないだろう」

との見解を示しました。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。