「地方創生」が推進され、Uターン・Iターン就職が注目を浴びている。故郷を離れた場所で働いている人、東京や大阪などの大都市圏で働いている人が、生まれ育った街に戻ったり、より良い環境を求めて地方で働き口を探したりと行動しているのだ。今回は県が企画するプレスツアーにて香川に伺ったため、Uターン・Iターン事情についても話をきいてみた。

香川に高松港

勤続20年目で「会社での先が見えてきた」

香川県庁に勤める藤本圭一さんは、岡山県出身。広告代理店に20年勤め、香川に移り住んできたという。

藤本さん「大学を卒業してからUターンで岡山県に帰って、広告代理店に勤務していました。42~3歳の時に営業部長だったのですが、もうこのあとの会社生活があるとしても役員、執行役員……と流れが見えてきてしまっていたんです。ちょうど入社20年をむかえるところで、人生で働けるのはあと半分しかない、と考えていたときに、仕事の都合で登録していた求人サイトからのスカウトメールを受け取りました」

「香川県の農水産物の販売セクション経験者10年以上求む」といった文言に惹かれた藤本さん。当時、高松の四国支社長も兼務しており、週に2日は香川に通っていたという。

藤本さん「県庁が中途職員を募集していて、見たら面白そうだったんですよ。代理店時代に、大手スーパーの地産地消のイベントを企画、生産者を集めてイベントをしたりもしていたので、求められていた範疇とは違うかもしれないけど、ものは試しと応募してみたら、受かってしまいました(笑)。ちょうど節目の20年でしたので、これは運命だなと思いまして。家族色々な人に相談して、一時は諦めかけたのですが、好奇心もあったし、チャレンジしてみようと周囲を説得して、やって来たのが4年前です」

小豆島には年間200人の移住者

また、年間200人の移住者をむかえているのが香川県の小豆島。島内の素材を使った料理が特徴の「リストランテ フリュウ」オーナーシェフである渋谷さんも、元々は山形県出身。どこかで自分の店を持ちたいと場所を探していたところ、旅行に来ていた小豆島に惹かれ、場所を見つけて店をオープンするに至った。海が見渡せる、四季の移り変わりが見えるなど、自然とともに暮らせる場所にこだわった。

「リストランテ フリュウ」

家族で移ってくる人は多く、子供とともに自然の中で働ける環境を求めているそうだ。

生まれ育った小豆島にUターン

香川県の小豆島で生まれ、Uターン就職をしたのが、オリーブオイルソムリエ、醤油ソムリエとして活躍する黒島慶子さん。京都の美大に進学し、3回生の時に「小豆島の醤油について伝えることを一生の仕事にしたい」と決心。醤油についてのHPを作るなど、大学生の頃から活動を始めていたが、卒業して戻ろうとした際、母親に止められたという。

黒島さん「『大の大人が解決できない問題を、学生あがりのあんたが解決できるわけないでしょ』と言われて、『おっしゃるとおり……』と思いました(笑)」

その言葉に、WEBについて学ばなければいけないとWEBデザインの会社に就職、東京で数年働きながら実践的な力を身につけた。ちょうど同じ時期にできた日本オリーブオイル協会のソムリエ資格も第1期生として取得し、満を持して小豆島に戻ってきた。現在は飲食店で使う醤油の選定や、旅行誌の執筆、更に新製品開発の際には美大出身であることを活かしてラベルやWEBサイトのデザインまで関わっている。

戻ってきて地盤を固めるのに、苦労はなかったのだろうか。

黒島さん「正直苦労はなかったですね。もともと小豆島を紹介したいと活動をしていたので、『やっと戻ってきたんだ』といった感じでした。活動をしていると、色々な方が興味を持ってくれて、周りがつながっていくんです」

小豆島の醤油を紹介したいとUターンした黒島さん(撮影場所:ヤマヒサ醤油)

「良い土地」とわかって選択肢に

実際香川県全体における、Iターン・Uターン支援はどうなっているのか。「積極的にやっています」と答えてくれたのは、先程も話を伺った香川県庁の藤本さんだ。やはり島が人気なのだろうか?

藤本さん「有名なところがあるから来やすくなるのは、あるかもしれないですね。島にかぎらず、実は香川県は有効求人倍率が高くて、仕事はけっこうあるんです。自然といっしょに仕事をしたいとか、ものをつくりたいという人たちには、受け入れ側として成功するように、システムを考えています。仕事としては製造業が多いですが、農業への希望がある方は、農業法人で2~3年修行して独立する、という流れもできつつあります。大阪から来た若手男性の作ったキウイが県の名物になっていたりするんですよ」

移住体験ツアー、空き家バンクの登録支援なども行っており、香川県庁の1階には「香川就職移住サポートセンター」にコーディネーターがいて、相談にのってくれる。東京・大阪にも窓口があるそうだ。

今回話をきいて見えてきたのは、UターンにしてもIターンにしても、旅行や仕事などでその土地への好印象がなければ選択を行うのは難しいということだ。この先の人生を過ごす土地を選ぶのだから当たり前だが、そもそも今住んでいる場所を離れたい……といった思いから転職を決意する人はなかなかいないだろう。土地の魅力を感じられる機会があってはじめて「ここで仕事をしてみるのもいいかも」と思いつく人は多い。

また、行政の支援についても全体のイメージについても、観光業や農業が主な就職先になってしまっていることは、普通の会社員にとってはハードルが高いところかもしれない。様々な職種が活躍できるような土台作りが求められているのではないだろうか。

ただ、大きくキャリアを変えるという点ではもっと注目を受けても良いのかもしれない。藤本さんのように、30代~40代になれば、ある程度社内での仕事の先が見えてきてしまうということもあるだろう。特に近年は若くして管理職のポジションにつくような人も多い。管理職についたはいいものの、その先のポジションに行く可能性が薄かったり、管理職のポジションで様々な部署をたらい回しになったりするケースもある。ガラッと環境を変えて新たなキャリアを築く道として、新たな選択肢が整いつつある。

※取材協力:香川県交流推進部県産品振興課