フィギュアスケート選手は、氷上の練習はもちろんですが、「オフアイストレーニング」という氷上以外で行うトレーニングを取り入れている選手が多くいます。今回はスケートリンクから離れて、陸上で行うトレーニングについていくつかご紹介したいと思います。

フィギュアに通じる部分が多いバレエ

まずは「バレエ」です。バレエは「音楽を表現する」という点では、フィギュアスケートとよく似ているものではないかと思います。表現をする音楽のほとんどには物語があるため、感情を込めることや表現の幅を広げることもできます。

また、基本的な脚の動作でフィギュアスケートに通じるものがたくさんあり、氷上でも生かせる部分がたくさんあります。浅田真央選手のスケートを始めたきっかけがバレエだったことは、スケートファンの方の間では有名な話ではないでしょうか。

浅田真央選手は、バレエをきっかけにフィギュアスケートを始めた

バレエを行うにあたり、柔軟性はもちろん必要です。ただ、身体が柔らかすぎると、逆にジャンプを跳ぶ際のブレの原因にもなります。「スケートのためにバレエをしよう」と考えている選手は、柔軟性と共に柔軟性をコントロールするための筋力もつけていくケースが多いように思います。

限られた中で最大限のバレエ練習を

私自身もバレエを行っていましたが、「脚の使い方」「つま先の向き」「身体の使い方」「魅せ方」などで、フィギュアスケートと共通する部分がたくさんありました。私の場合はスケートよりもバレエを先に始めており、トーシューズを履いた経験もあります。スケートを始めてから、周りの方に「足首をひねらないか」などと心配されたこともありました。足首がしっかりしていないとつま先で立てないため、スケートをするうえではいい経験だったと思っています。

ロシアの選手は毎日バレエを行っているとメディアで取り上げられたことがありますが、それは環境が整っているからです。日本ではリンク内にバレエのフロアを併設している場所が限られているのですが、週に1回程度、バレエ練習を取り入れてる選手が多いです。

専門トレーナーと陸上トレをしていた高橋大輔

次に陸上トレーニング(フィジカルトレーニング)をご紹介しましょう。これは、自分の体重を使って大きな負荷をかけずに行う「自重トレーニング」と、ウエートマシンを使って行う「マシントレーニング」の2種類に大別できます。

練習の目的にもよりますが、日本選手の多くは学業と両立して競技を行っているため、毎日リンクで行える自重トレーニングを取り入れている選手が多いと思います。

オフアイストレーニングの一環として、現役時代は陸上のトレーニングを取り入れていたフィギュアスケート・高橋大輔さん

高橋大輔さんは現役時代、陸上トレーニング専門のトレーナーさんと共に日々、身体作りをしていました。私も現役時代に一緒にトレーニングをさせてもらう機会に恵まれましたが、内容を簡単にお話しすると、ランニングや体幹トレーニング、陸上で速い動きをするフットワークなどです。

毎日同じことの繰り返しの種目もあれば、日々コツコツと身体を作っていくという種目もありました。私もオフシーズンや試合シーズン、試合と試合の間の時期など、スケートのピークに持っていきたい時期に合わせ、何度か高橋さんのトレーナーさんにメニューを考えていただきました。

柔軟性を養うための新体操

そして最後にご紹介するのは「新体操」です。新体操と聞いて、「!?」と思われる方も少なくないかもしれませんが、柔軟性を高めるために取り入れている選手もいるのですよ。

数年前にフィギュアスケートの採点方法が変わり、スピンで高いレベルを得るためには、柔軟な身体が必要となってきました。しかしビールマンポジションなど、バレエの動きにないポーズもあり、誤った身体の使い方をしてケガをしないよう、柔軟な身体の使い方の一つとして新体操を取り入れる選手が少しずつ増えています。

女子選手は、ショートプログラムでレイバックスピンが必須要素になっており、以前は腰を痛めている選手が多かったように思います。ただ、最近は選手たちの「腰を痛めている」という話を、私の周囲ではあまり聞かなくなりました。

今回は3つしか詳しくご紹介できませんでしたが、他にも「ヨガ」や「ピラティス」など、マット1枚分のスペースでできる練習を取り入れている選手もいます。自分の身体に必要なことやスケートの環境など、選手たちはそれぞれに考えて、スケートにプラスになることを選択しています。

「この選手はオフアイスではこんなことをしているんだ」と知ったうえで観戦すると、フィギュアスケートの見え方がまた違ってくるかもしれませんね。

筆者プロフィール: 澤田亜紀(さわだ あき)

1988年10月7日、大阪府大阪市生まれ。関西大学文学部卒業。5歳でスケートを始め、ジュニアGP大会では、優勝1回を含め、6度表彰台に立った。また2004年の全日本選手権4位、2007年の四大陸選手権4位という成績を残している。2011年に現役を引退し、現在は母校・関西大学を拠点に、コーチとして活動している。