梅雨時、旅行は控えようと思う人は多いかもしれない。しかしアジサイの名所の多い鎌倉は、6月が観光のベストシーズンなのだ。海と山に囲まれた湿潤な気候の鎌倉は、アジサイの生育に適しているのだという。

鎌倉で"アジサイの名所"といえば「明月院(めいげついん)」「長谷寺(はせでら)」が有名だが、ほかにもこの時期限定の特別公開を行っている寺院などがある。今回は、特にアジサイの時期にオススメのスポットをめぐる"鎌倉歩き"のモデルコースを紹介しよう。

梅雨の鎌倉は、アジサイが咲く観光のベストシーズン

JR北鎌倉駅から"アジサイ寺"へ

最初に訪れるのは、JR横須賀線 北鎌倉駅から徒歩10分ほどの場所にある明月院。駅から続く、"鎌倉のアジサイ寺"とも言われるこの寺院への細道は、アジサイが見頃になる6月中旬には大変混雑する。特に休日の昼近くは混雑がピークになるので、なるべく午前中の早い時間に訪れることをオススメしたい。

明月院のヒメアジサイ。セイヨウアジサイ系の品種に比べやや小ぶりな花をつける

明月院のアジサイは、8割から9割がヒメアジサイとなっている。一般的なセイヨウアジサイ系の品種に比べ、やや小ぶりなかわいらしい花をつける品種だ。意図的に青色の花が咲きそろうようにしているそうで、アジサイの最盛期には境内が淡いブルーに染まる。

明月院はアジサイの開花にあわせて、本堂(方丈)裏手のハナショウブなどが植えられた「本堂後庭園」を特別公開する。ふだんは本堂の円窓ごしにしか見ることができない庭園をゆっくり鑑賞できる貴重な機会だ。

明月院本堂の円窓。窓の向こうに見えるのは本堂後庭園

"駆込み寺"東慶寺ではイワガラミを特別公開

明月院の拝観を終えたら、横須賀線の線路をはさんで反対側にある「東慶寺(とうけいじ)」へ向かおう。東慶寺は、駆込み寺・縁切寺としての歴史を持つ寺院だ。2015年5月に公開された映画『駆込み女と駆出し男』の舞台にもなっている。

東慶寺もアジサイやハナショウブの数が多く、梅雨時の境内はとても華やぐが、特に人気があるのは本堂裏手に咲くイワガラミだ。この花は特別公開の期間にしか見られない。

本堂裏の岩壁にはうようにして咲くイワガラミ

普段は立ち入ることのできない本堂裏に、6月前半のイワガラミの特別公開時のみ立ち入ることが許される。順路に沿って本堂裏手にまわると、ヤマアジサイに似た白い花が岩壁一面に咲いているのが見える。

たくさんの木が生えているように見えるが、よく見ると、1本の木から多くの枝が分かれている。"イワガラミ"の名のとおり、それぞれの枝が岩にからみつくようにのびているのだ。

ヤマアジサイに似たイワガラミの花

このイワガラミは約30年前に植えられ、10年ほど前から一般公開するようになった。今では公開を心待ちにしている人が多く、公開期間中は本堂前に長蛇の列ができるほどの人気だ。なお、2015年の公開日程は東慶寺の公式WEBサイトにて確認できる。

"縁結び"とアジサイの名所 葛原岡神社へ

次は「源氏山公園」の一画にある「葛原岡(くずはらおか)神社」を目指そう。

源氏山公園へは、東慶寺の並びにある「浄智寺(じょうちじ)」境内の脇の道を進んで行く。この道の先に「大仏・葛原岡ハイキングコース」の登山口の階段があり、ここから山道を15分ほど歩けば葛原岡神社に到着する。

源氏山へ向かうハイキングコース。本格的なハイキングを楽しめる

葛原岡神社は、日野俊基(ひの としもと)卿をおまつりする神社だ。日野俊基卿は後醍醐(ごだいご)天皇の忠臣として鎌倉幕府の倒幕に活躍したものの、幕府に捕らわれ処刑された人物である。

境内にはもともとアジサイが植えられていたが、6年ほど前に境内を整備したのを機会に、参拝客に喜んでもらおうとアジサイを増やしたのだという。その数は年々増え、今では150種類・2,000株ほどが花を咲かせ、アジサイの名所としても知られるようになってきた。

葛原岡神社のアジサイ(写真提供:葛原岡神社)

葛原岡神社は"縁結び"にご利益があるといわれ、淡いピンク色のサクラ貝でつくった「さくら貝御守」(1,200円)が人気だ。鎌倉の由比ヶ浜海岸で採った貝を使用しているが、サクラ貝はあまり数が採れないので貴重なのだそうだ。

また、お守りと一緒に授与される五円玉を境内の「縁結び石(男石、女石)」のしめ縄に結びつけると、さらにご利益がアップするとされている。筆者が訪れたこの日も、「縁結び石」にはたくさんの五円玉が結ばれていた。

「さくら貝御守り」(1,200円)。ひとつひとつ色や形が違うので好みのものを選びたい

なお、「大仏・葛原岡ハイキングコース」は、アップダウンのある割と本格的な山道となっている。訪れる際は、滑りにくい靴と動きやすい服装で。

長谷寺で海とアジサイの眺望を楽しむ

「大仏・葛原岡ハイキングコース」は源氏山を経て、大仏や長谷寺のある長谷エリアまで続いている。

源氏山から山道を歩くこと約30分、ハイキングコースは大仏から徒歩5分ほどの大仏坂トンネルの上で終了。長谷寺までは、階段を下り一般道を歩いて10分弱だ。

長谷寺の本尊である長谷観音は、高さ9.18m。歴史のある木造の仏像としては日本最大級だという。本尊がまつられている観音堂には大黒堂が並び、その脇から背後の山へ「あじさい路(眺望散策路)」が続いている。

この散策路周辺には数多くのアジサイが咲いており、海の見える眺望も素晴らしい。

「あじさい路」からの海の眺望も素晴らしい

鎌倉のアジサイの名所として、長谷寺は明月院と並ぶ代表格だ。明月院では色や種類を統一した美しさ、長谷寺ではバラエティーに富んださまざまな種類のアジサイを楽しめ、その違いを味わうのもオススメ。

なお、長谷寺もアジサイのピーク時は大変混雑し、眺望散策路に入場制限がかかることもある。立ち寄る際は、時間に余裕をもって出掛けたい。

目の前を江ノ電が走る御霊神社

最後に訪れるのは、長谷寺のすぐ裏手にある「御霊(ごりょう)神社」。鎌倉ゆかりの豪傑武士である鎌倉権五郎景政(かまくらごんごろうかげまさ)をまつることから、「権五郎神社」とも呼ばれている。

社殿の裏側には「あじさい小径(こみち)」が整備されているが、規模が小さいこともあり、訪れる観光客はそれほど多くない。ゆっくりアジサイを楽しみたい人にオススメの穴場スポットだ。

穴場スポットの御霊神社「あじさい小径」

また、この神社の目の前には江ノ電の線路が通っており、線路沿いに咲くアジサイの横をコトコトと通り過ぎていく江ノ電を見ることができる。江ノ電とアジサイのコラボ。これは間違いなく、鎌倉ならではの風景だ。

なお、今回は紹介しなかったが、"海の見えるアジサイの名所"として「成就院(じょうじゅいん)」も挙げられる。こちらは2015年から2017年まで、参道の改修工事のためアジサイを見ることはできないので注意が必要だ。

※記事中の情報は2015年5月時点のもの

著者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に撮影・取材を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。