女装が趣味の男性がいます。そういうと、一部のマニアックな趣味というイメージがあるわけですが、女装体験ができるコンセプトバーや女装グッズを収納できる貸しロッカールームが登場するなど、けっして少なくない男性たちが女性を楽しんでいるようです。いったいどうして男性たちは、女装をするのでしょうか。

コスプレと共通する心理

男性が女装を、女性が男装をすることを異性装と呼びます。服飾の世界では、男性には男性用の服、女性には女性用の服があります。これ以外にも、男女兼用のユニセックスの服もあるわけです。以前から、被服心理学の世界では男性が女性の服を着ることについて研究が行われてきました。たとえば、フェミ男とよばれる男性たち。俳優の武田真治さんやいしだ壱成さんが、女性用の服を着たことで話題になりました。

しかし、それは女装とは少し違います。女装というと、女性の服を着て、化粧をしたうえで、女性のように振る舞うことではないでしょうか。女装をする心理は、コスプレをする心理と共通しているように感じます。

コスプレというと、コミケなどでアニメやゲームなどの登場人物やキャラクターにふんすることを意味しますよね。ですが、コスプレとはもともとコスチューム・プレイのこと。時代劇・歴史劇のなかで、現代劇とは違い当時の衣装を身にまとって演じることを意味します。つまり、水戸黄門の衣装を身にまとうことで、○○という俳優さんから水戸光圀に変身することができるわけです。

男性が女性を演じたいと思う理由

人は日々の生活のなかで、大なり小なりいろいろな役を演技しています。会社では社員、家では父親、両親のまえでは子ども……。その役割を切り替える役割が、部屋着や外出着など、日々の装いだったりするのです。

つまり、女装というのも女性の服装をすることで、ある役割を演じたいという心理が存在しているわけです。その役割とは、ズバリ女性です。

男性が女性を演じたいと思うのはなぜか。それは、男性という役割からの解放です。男性には男性として、社会から期待されている役割が存在します。女性を守るために強くなくてはいけない、がんばって仕事に取り組まないといけない、出世を目指さないといけない……。でもそれって、窮屈ですよね。そんな男性に生まれたからといって、いや応なしに期待されている男性としての役割から解放されたくて、女性を演じるために女装をするのです。

家に帰って部屋着に着替えるとホッとしますよね。それは、社会的な役割から解放されたからなんです。けっして、性的な嗜好などとは無関係。ちなみに、女性が男装するというのも、同じく女性の役割から解放されたい心理がその背景にあると考えられます。

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著者プロフィール

平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理にも詳しい。現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は『化粧にみる日本文化』『黒髪と美女の日本史』『邪推するよそおい』など。