「文学は仕事に役立たない」「つぶしがきかない」よく聞く話ですが、本当にそうなのでしょうか…? ライターで早稲田大学文化構想学部 講師もつとめるトミヤマユキコ先生に、文学部の学生が持つ特質について伺いました。

就職戦線において何かと不利だと言われる文学部生ですが「自分の武器をちゃんとわかっていれば就職できるはず」とトミヤマ先生は説きます。はたしてその心は? 法学部と文学部の双方を経験した先生ならではの、こうすれば勝てる文学部生就職論、後編です。

文学部生が持っているものとは

――でも文学部生も大手新聞社などにはけっこう就職できていますよね。あれはなぜなんでしょうか

トミヤマユキコさん

トミヤマ先生「マスコミ系にはそのくらい"やんちゃ"なほうがよし、と考えている会社も多いからでしょうね。個性のない歯車タイプではこなせない仕事もたくさんありますし。それから、ちいさい会社も先輩がまめにフォローできますから個性的な後輩でもよし、という場合があります。しかし、マスコミ系でもちいさい会社でもなく、他学部の学生と真っ向勝負しなければいけない会社選びをした場合、文学部生にはなかなか勝ち目がありません。

しかし文学部生には"言葉"を操るスキルがあります。真面目な学生ほど言葉を操る楽しさや苦しさに振り回されているので(笑)、当然コミュニケーション能力は高くなります。早稲田大学文化構想学部 文芸・ジャーナリズム論系の渡部直己先生(文芸評論家、早稲田大学文学学術院教授)は『エントリーシートへの記入も面接での回答も、試験官を言葉で誘惑する行為だろう。これだけ言葉に触れることができる学科にいてなぜ就職に不利だと思うんだ?』と言うんです。もし文学部にいるから就職に不利だと思い込んでいる学生がいたら、わたしはこの名言を届けたい」

――4年間、言葉を操ってきた文学部生が、その悪魔的な能力をもって試験官の心を操れば、意中の企業への就職へも可能なはず、というわけですね

トミヤマ先生「そうですね(笑)。言葉を使わない仕事ってまずないですから、文学部生はむやみに落ち込まないで、言葉のプロとしての自覚を持って欲しいです。それに、我の強さは文学部生のウィークポイントでもありますが、ちゃんと使えば十分武器にもなります。文学部では、教科書の内容を暗記するだけではだめで、そこに自分ならではの新しいアイデアをプラスしないと評価されません。ただ我が強くてわがままなのではなく、自分の感性を頼りに新しい何かを見つけ、それをみんなに提供できる人材なんだ! ということをきちんと説明できれば、採用してくれる会社は絶対にあります」

文学部での勉強を貫き通せば就職戦線を突破する能力も身についているはず。言葉を操る文系本来の力で正面突破を図る、文学部生はそのくらいの気の持ちようで、社会に向かっていくべきなのかもしれません。


<取材対象者>
トミヤマユキコ
パンケーキは肉だと信じて疑わないライター&研究者。早稲田大学非常勤講師。少女マンガ研究やZINE作成など、サブカルチャー関連の講義を担当しています。リトルモアから『パンケーキ・ノート』発売中。「週刊朝日」「すばる」の書評欄や「図書新聞」の連載「サブカル 女子図鑑」などで執筆中。