鹿児島と沖縄の間に浮かぶ奄美大島は、歴史背景や同じ亜熱帯地域ゆえに、沖縄と似たような文化をもっている。それは食文化もしかり。"黒糖や豚料理"と言えば、「沖縄で見たことある!」という人もいるだろうが、"鶏を使ったお茶漬けみたいなおもてなし料理"はきっと「???」と思うだろう。それが、奄美大島の郷土料理「鶏飯(けいはん)」である。

熱々の鶏ガラスープをかけてサッといただくおもてなし飯(写真は「けいはん ひさ倉」の「けいはん」(税込1,000円))

起源は薩摩藩の役人への接待料理

「鶏飯」は、鶏肉やシイタケ、パパイヤ、錦糸卵などをご飯の上にのせ、熱々の鶏ガラスープをかけていただく料理。もともとは奄美群島が薩摩藩の直轄地だった頃に、藩の役人への接待で提供された料理だったそう。当時は鶏肉の炊き込みご飯のようなものだったようだが、戦後に「もっとあっさりしたものを」と工夫され、今のような鶏ガラスープでいただくスタイルになった。

料理そのものはお茶漬け感覚で食べられるが、締めにサッといただくものではなく、「鶏飯」をメイン料理として楽しむのが一般的である。冬場のみならず、一年を通して食べられる料理ではあるものの、家庭料理として食卓に登場することはあまり多くないという。というのも、「鶏飯」の命ともいえる鶏ガラスープを家庭で再現するのは大変らしく、「誰かをもてなす時に食べることが多い」と地元の人は言う。

鶏ガラスープはたっぷりと。彩りも鮮やかだ

タンカンの薬味で味に変化を

メイン料理として食べるということなので、茶わんに命いっぱいご飯を盛ったところ、「もっと少なくて大丈夫! 2,3回に分けて食べればいいんだから」とアドバイスをいただいた。

ご飯にのせる具は特に決まっていないようだが、"鶏"という名前の通り、鶏肉は欠かせない一品のよう。また、奄美大島では野菜感覚で親しまれているパパイヤは漬物にして、錦糸卵や紅ショウガ、ネギ、ノリ、そして、奄美名物・タンカンの皮を細かく刻んだ薬味などが並ぶことが多い。それらの具の上に、熱々の鶏ガラスープをかければ出来上がりだ。

ノリを中心にして左上から、鶏肉、タンカンの薬味、シイタケ、紅ショウガ、錦糸卵、パパイヤ漬け、ネギ、そして箸安めのパパイヤのしょうゆ漬け。好きな具を好きなだけ盛っていく

お茶漬けのようにかき混ぜていただく

スープは濃厚に仕上げられているが、全体的にさっぱりした味わいのため、夏場の食欲がない時なども食べやすい。お茶漬けのようにご飯と具を混ぜて一気にかきこめば、あっという間に1杯目完食。そして、パパイヤのしょうゆ漬けを箸休めにして2杯目、3杯目へ。

味に変化がほしい時は、薬味のタンカンを一振り。濃厚なスープの中でかんきつ系特有のさわやかな刺激が楽しめる。結局、飽きることなく3杯食べ切ったのだが、「こんなに米でおなかをいっぱいにしたのはいつ振りだろう」と思うくらい、しっかりとした食べ応えのある一品だった。

飯を麺に代えた「鶏麺」までも

「このスープ、絶対ラーメンにも合いますよね」と地元の人に話したところ、実際にご飯を麺に代えた「鶏麺(けいめん)」という料理を提供する店もあるという。「鶏飯」の味を知った今、「鶏麺」のおいしさは容易に想像できるのだが、初めての人はやはり「鶏飯」から味わっていただければと思う。

なお、奄美大島ならではの料理と言えば、「鶏飯」のほかにもいろいろある。沖縄同様に豚料理が浸透している奄美大島では、豚骨と野菜を炊き合わせたものが家庭の料理に並ぶことが多く、もずくもよく見る"顔"である。変わった食べ方としては、奄美大島産天然うなぎを味噌重にする調理法があり、薬味は山椒ではなくショウガなのもポイントだ。「タンガ」というテナガエビは、長い手まで余すことなく食したい。

「マングローブ茶屋」の「幕の内弁当」(税込1,600円)。左上から、豚骨と野菜の炊き合わせ、もずく、タンガの空煮、天ぷら、奄美大島産天然うなぎの味噌重、シビ(キハダマグロ)とソデイカの刺身、トビンニャ(海水で茹でた貝)、ご飯

※取材協力:ぐーんと奄美、奄美大島観光協会、バニラエア
※記事中の情報・価格は2014年8月取材時のもの