J2戦線をぶっちぎる湘南ベルマーレは、J1の目にどう映っているのか

J2戦線の約3分の2を終えて、23勝3分け1敗と異次元の強さで独走する湘南ベルマーレ。J1復帰へのカウントダウンが始まる中で、どうしても知りたいことがある。それは「J1でどこまで通用するのか」だ。大宮アルディージャと対戦した天皇杯3回戦は、絶好の試金石となった。

アルディージャとの天皇杯3回戦で計れるベルマーレの現在地

味方への縦パスが通った瞬間に、カクテル光線に映えたライトグリーンとブルーのユニホームのギアが一気にトップに入る。高温多湿の夏場でも衰えを知らないスタミナと運動量。ボールを失っても、相手を上回る帰陣の速さと球際の強さで攻め込ませない。

日本代表のハビエル・アギーレ監督も掲げる「全員攻撃・全員守備」を、湘南ベルマーレはハイレベルで実践し続けている。約3分の2を終えたJ2戦線で、2位の松本山雅に勝ち点15差をつける異次元の独走。早ければ9月中にも2位以内が確定する状況を見ると、素朴な疑問がわき上がってくる。

「J1のレベルで、どれだけ通用するのだろうか」。

8月20日に臨んだ天皇杯3回戦は、ベルマーレとJ1勢との距離を測る上でまたとない舞台となった。敵地で対峙(たいじ)したのは大宮アルディージャ。プレシーズンマッチとナビスコカップを含めて、昨シーズンで4戦全敗を喫している相手だ。

アルディージャのエースが舌を巻いたベルマーレのタフネスさ

キックオフ前。ベルマーレの曺貴裁(チョウ・キジェ)監督は、昨年5月18日に同じ敵地でアルディージャに1対2で屈したリーグ戦の映像をあえて選手たちに見せている。

「たった1年3カ月しかたっていないけど、その間の成長を見せなければいけない」。

結果だけみれば、今回も1対2で苦杯をなめた。しかし、スコアは昨年と同じでも、内容はまったく異なる。前半から主導権を握り続けた点。後半11分にルーキーのDF三竿雄斗のヘディング弾で先制した点。週末のJ1をにらんで温存していたFWズラタン、MF家長昭博を、試合途中にアルディージャから引きずり出した点もしかりだ。

約25分の出場時間で2ゴールをあげたスロベニア代表のズラタンが言う。

「(ベルマーレは)今年のほうがより内容を伴ったサッカーをしているのではないか。幸いにもわれわれは勝つことができたが、打ち負かすのが非常に難しいチームだとあらためて感じた」。

対戦相手が指摘するベルマーレの脅威とつけ入る隙

20日の天皇杯3回戦より時をさかのぼること3日。ベルマーレは栃木SCに3対0で快勝している。アルビレックス新潟の一員として昨シーズンにJ1でベルマーレと相対し、今夏に栃木SCへ期限付き移籍。J2の舞台で邂逅(かいこう)したMF本間勲は、ベルマーレの変化と可能性、そして課題をこう指摘していた。

「去年よりも攻撃の厚みと精度は上がっているし、全員が連動して仕掛けてくる波状攻撃はJ1のチームでもなかなか見られないと思う。ただ、J1の前線には個の力でゴールできる選手が特に外国人で多いので、守備の部分でどうなのかな、というのはありますね」。

ズラタンはワールドカップ南アフリカ大会で得点している選手だ。ベルマーレ戦での2発は個の力でもぎ取ったものであり、本間の指摘が図らずも的中した形だが、それだけではない。アルディージャの攻撃を差配したボランチの金澤慎は、準備を積んできた「湘南対策」が奏功したと明かす。

「相手が前にかける人数は増えていたし、よく走るチームだけど、そこさえ外してしまえば、というのはありました」。

メキシコ五輪銅メダリストから届いた熱いエール

ベルマーレの平均年齢は約23歳。若さゆえに限界を超えて走り続け、臆(おく)することなくリスクを冒す。ジュニアユース監督から数えて、ベルマーレで10年目を迎えた曺監督のぶれないベクトルの下で育まれてきた真っすぐな「強さ」は、金澤をはじめとする経験豊富なJ1の選手たちが狙いを定める「穴」でもある。

メキシコ五輪の銅メダリストで、指導者歴が40年を超える栃木SCの松本育夫常務取締役は、早稲田大学の後輩である曺監督の手腕を認めた上で、J1で勝つチームへ成長するためのアドバイスを送る。

「必要なのは2つのリズム。『緩』と『急』です。『ボールを奪ったらゴールへ』という急の部分は申し分ない。ただ、一本調子のままでは、相手に守り方を講じられる。『臨機応変にゆっくりと攻める』ことも、J1で戦う上では求められる。まあ、曺ならばやってくれるでしょう」。

アルディージャ戦で支払った授業料を成長への糧に

先のズラタンも、来シーズンのベルマーレへ熱いエールを送る。

「今シーズンのJ2を制圧することで、さらに自信と経験を積んで彼らはJ1に上がってくる。J1の中位と下位は実力差がないので、(J2からの)昇格チームでもちょっとしたきっかけで活躍できる。ましてや、彼らは十分にJ1で戦っていけるクオリティーをすでに持っているわけだからね」。

アルディージャ戦で追加点を奪えなかった精度の低さ。相手のカウンターを招いた詰めの甘さ。相手の個の力をはね返さなかった弱さ。J1で旋風(せんぷう)を巻き起こすための授業料を支払って、ベルマーレの天皇杯は幕を閉じた。

「今日の試合を見ていない人たちに、やはり湘南は最後に逆転されて勝負弱いと見られてしまうことになれば、僕と選手たちで協力して覆していかないと」。

惜敗に手応えを感じながらも、45歳の青年監督はJ1優勝3度の名門・ジュビロ磐田をホームに迎える、24日のJ2戦線の大一番へ照準を切り替えていた。

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筆者プロフィール : 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。