今年6月の米国の貿易収支は415億ドルの赤字となり、5月の447億ドルの赤字から改善した。輸出が過去最高となる一方で、輸入が予想外に前月から1.2%減少したためだ。専門家の間では、米国内の需要の強さからみて、6月の輸入減少は一時的現象であり、7月は増加に転じるとの見方が有力だ。

もっとも、このところ米国の貿易収支の改善ぶりが目立っている。今年1-6月の貿易収支は名目GDP比で-3.0%となり、リーマンショック前の2005-2006年にはGDP比-5.5%、リーマンショック後でも2011年に同-3.5%を記録したことを考えれば、かなりの改善ぶりだ。

とりわけ、近年の貿易収支の改善に貢献しているのが、石油収支だ。貿易赤字は2011年から2013年に722億ドル縮小したが、これは石油収支の赤字が同期間に943億ドル縮小したことで説明できる。

米国ではシェールオイル・ガスの開発が進められている。米国のEIA(エネルギー情報局)によれば、米国のエネルギー自給率(国内で消費するエネルギーのうち、国内で生産できるエネルギーの比率)は、2005年に70%で底を打ち、2013年には84%と、1980年代中ごろの水準まで回復している。そのため、景気回復が続いているにもかかわらず、米国の石油輸入は2012年以降、減少傾向を辿っている。

そればかりか、FTA(自由貿易協定)を締結していない国への輸出が解禁されたことで、いまだ金額は大きくないものの、2013年半ばごろからLNG(液化天然ガス)の輸出が急増している。

また、輸出が禁止されている原油についても、一部の超軽質油に関する規制が緩和されて、その輸出第一弾が今月に入って実行された。この軽質油は「コンデンセート」とよばれ、ガス田から液体分として抽出されるもので、生産が急増しているという。

シェールオイル・ガスは採掘可能期間が短い可能性が指摘されており、ブームがいつまで続くのかは定かではない。ただ、今後数年~10年といった単位で考えれば、米国の貿易収支を劇的に改善させる可能性を秘めているだろう。米国がエネルギーの純輸出国へ転じるのも遠い将来ではないかもしれない。

翻って、原発の運転停止によって、日本のエネルギー自給率は2010年の20%から2012年に6%まで低下した(経済産業省「エネルギー白書」)。化石燃料の輸入急増が主因となって日本の貿易収支が赤字に転じたことは、今更指摘するまでもないことだ。同じ「エネルギー」というキーワードで、日米の貿易収支は明暗を分けている(原発の運転が再開されれば、化石燃料の輸入は徐々に減少するだろうが)。

「日米の貿易収支に着目すれば、ドル安円高だ」というのは、既に過去の話だろう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査室 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査室チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査室レポート」、「市場調査室エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。