台風「ハイエン」が襲った4日後の被災地の惨状と撮影時のエピソード

そしていよいよ、クリス・マクグラス氏(オーストラリア)自身が撮影し、「一般ニュース」の部、組写真1位に輝いた写真について、撮影者本人から詳しい解説がなされた。この写真は、昨年11月に台風「ハイエン」がフィリピン中部のビサヤ地方を襲った4日後に撮影を開始したと明かした。到着時はまさにカオス状態で、水も食料もなく傷ついた人々でごった返していたという。ほとんどの建物が崩壊した写真は、現地住民の協力で4階の窓から撮影したもので、「無残な光景でありながらも、フィリピンらしいカラフルな色合いと夕刻の穏やかな光に溢れていたのが印象的だ」と語った。

また、被災者の背後に虹が架かっている写真について、彼らは避難するために空港で飛行機を待っている人々だと説明。朝、彼らの背後に美しい虹が架かり「希望」を込めてシャッターを押したという。部屋の中に明かりがともる写真について、ろうそく1本の明かりの中で女性が夕食を取っているところだと説明し、「静かな時間」というニュアンスを表現することに注力を注いだことを明かした。がれきの中に人がシルエットでたたずむ写真について、「私はこれまでに自然災害の写真をたくさん撮っているが、こんなシーンを見たのは初めてだ」とした上で、「彼らは助けを求めて待っているのではなく、自分たちで復興しようとがれきを燃やし、掃除をしている。こうしたシーンが各所でみられた」と現地での思い出を語った。

ツアーの最後に片岡氏がシリアを舞台にした2作品を解説。戦いの激しさがストレートに伝わる写真と、静寂ながらも見る側が考えることで厳しい現状が読み取れる写真が対比して紹介された

正反対の2枚の写真が「伝える力」の素晴らしさ

続いて片岡氏が紹介したのは、「日常生活」の部、組写真1位、フレッド・ラモス氏(エルサルバドル/エル・ファロ紙)が撮影した、殺人事件の被害者だと思われる4枚の衣服の写真。殺人が多発しているエルサルバドルの現状を表現するとともに、被害者たちの人生について考えさせられる作品だと述べた。左から右へ服が小さくなるように並んでいることについて、被害者の発見が遅れるたびに彼らの記録や生きた証、事件の手がかりなどが少しずつ薄れていくという物語が潜んでいると説明し、こうした新しい発想が「報道写真」のカテゴリーを広げていると述べた。

最後に、シリアの内戦をテーマにした2組の写真を紹介。まずは「スポットニュース」の部、組写真1位のゴラン・トマセビチ氏(セルビア/ロイター通信)が撮影した、ダマスカス近郊のアインタルマで反体制派の自由シリア軍が政府の検問所を攻撃している写真。これについて片岡氏は、「カメラの向こう側にある戦場の緊迫した現実がストレートに伝わってくる」と感想を述べた。

次に「一般ニュース」の部、単写真1位を受賞したアレッサンドロ・ペンソ氏(イタリア/オンオフ・ピクチャー)による作品について、故郷を奪われた難民たちが、廃校の体育館を利用した狭い避難所のなかで兵士たちと同様に日々戦っているという現状を静寂な写真が語っていると述べた。戦地での惨状をストレートに伝えるのではなく、写真を見た人がそれぞれ観察して読み解いていくことで、難民たちの辛い生活を想像させるものだとし、「写真が伝える力」の素晴らしさを強調し、ツアーを締めくくった。

海外のニュース報道は、よりインパクトのある写真が要求される

ゲッティ イメージズ ジャパン 代表取締役 島本久美子氏

一般ニュース部門で1位を受賞したクリス・マクグラス氏は現在、日本の「ゲッティ イメージズ」の専属フォトグラファーとして活躍している。ゲッティ イメージズ ジャパン 代表取締役 島本久美子氏は、「クリスのような日本の専属フォトグラファーの存在もあり、売り上げは伸びている。海外のニュース報道は文字だけではなく、インパクトのある写真が求められる」とし、「今後もクリスのような力のあるフォトグラファーをさらに増やし、海外でも受け入れられるインパクトのある写真をより多く提供したい」と抱負を語った。