浅草と言えば東京観光で絶対外せないエリア。羽田・成田の空路からアクセスしやすく、そのほか観光地への起点にもしやすいなど、旅人にとっては何かとお世話になりたい場所である。そんな浅草には、利用者の約90%が海外旅行者というホテルがある。それも、前身であるラブホテルを生かした、もしくはそのまま使った空間となっている。日本人にあまり知られていない、この「カオサンワールド浅草 旅館&ホステル」の魅力とはなんなのだろうか?

シースルーのバスタブを用いたリビングなど、元ラブホ感を残した部屋も(メゾネット4人個室)

触れ合わないラブホから触れ合えるホステルへ

「カオサンワールド浅草 旅館&ホステル」の外観

「カオサンワールド浅草 旅館&ホステル」はつくばエクスプレス「浅草駅」から徒歩1分、浅草の顔である浅草寺からも徒歩5分のところにある。ベランダの柵など外観だけを見ると、"現役のラブホテル"という印象を受けるかもしれない。前身の「Hotel&Resort SUNFLOWER」は昭和57年(1982)に建設された6階建てのラブホテルで、40部屋を備えた浅草周辺で最大規模のラブホテルだったという。そのホテルが2013年の11月、"旅館&ホステル"に生まれ変わった。

ホテルの中に足を踏み入れると、様々な国籍の旅行者でにぎわっているため、外観とのギャップを感じるだろう。ゼネラルマネジャーの馬込将日児さんにうかがったところ、利用者のほぼ90%は海外旅行者で、欧米のほか、タイやインドネシアなどアジアからの旅行者も増えているという。

同ホテルを運営している「カオサン東京」(万両)は、札幌・東京・京都・福岡・別府に13のホテルを展開。東京には6つのホテルがあり、どれも浅草周辺にある。前記の通り、同社のホテルの中で最大規模にあたる「カオサンワールド浅草 旅館&ホステル」は元ラブホテルだが、元ラブホテルという展開のホテルはほかにも2店舗、浅草で展開しているという。

「ラブホテルの場合、できるだけスタッフやほかの利用者との接点をなくすための工夫がされていますが、ホステルはその逆で、スタッフも含めて利用者同士がコミュニケーションを交わす空間が大切になります。もともと客室は40部屋ありましたが、それを35部屋に減らし、みんなが憩えるスペースに作り変えています」(馬込さん)。

テーマは「ラブホ」「旅館」「カプセル」

客室は、男女別・男女混合のドミトリーと、2~6人まで対応した個室があり、個室にはファミリー仕様の部屋も用意。「より日本らしさを感じてほしい」という想いを込めて、それぞれには「ラブホテル」「旅館」「カプセル」というコンセプトが設けられている。

元浴室にもベッドがあるファミリールーム4人個室(定員大人2人と子供2人)

男女混合ドミトリー

女性専用ドミトリー

「ラブホテル」は前身の客室をそのまま用いた部屋のみならず、照明やガラスなどの素材を部分的に生かしたデザインも採用。2階建ての客室には、シースルーになっているバスタブを1階から見上げるようなつくりのものもあるが、このバスタブがある部屋はリビングになっており、浴室は別途設けられている。そのほか、スタッフと顔を合わせずにやり取りができる「気送管装置(マネーシューター)」が残された部屋もある。

元バスタブは下段のベッドからのぞける。メゾネット4人個室(定員4人)

元浴室のスペースを生かしたスーペリア個室(定員5人)

照明で遊べるダブルルーム(定員2人)

「旅館」は畳やちゃぶ台、ざぶとんなどのほか、壁やフレームで"和"をイメージさせるデザインを用いており、個室のみならずドミトリーでも和室仕様にしている。とはいえ、土足文化の外国人にとっては、床に布団を敷いて横になることに抵抗を感じる人もいる。そこで、和室にベッドを備えた和洋室も用意している。

外国人がイメージしそうな日本らしいデザイン。デラックス和室(定員4人)

デザインからして和なデラックス和室(定員4人)

ベッドを備えたデラックス和洋室(定員5人)

シンプルな和デザインのスーペリア和室(定員4~6人)

照明はラブホテル時代のもの。スーペリア和室(定員4~6人)

元浴室も和の空間に。スタンダード和室(定員3人)

旅館の雰囲気を伝える和室6人ドミトリー

木の風合いを生かした和室6人ドミトリー

大阪万博での展示が始まりの「カプセルホテル」も、日本ならではの空間といえる。こちらは通常のドミトリーよりもプライベート空間を確保できるようにデザインされているので、ドミトリーに+αのくつろぎを求める人にぴったりだ。

カプセルホテルタイプの男女混合ドミトリー

客室を改装して皆が集うバーに

ホステルに欠かせない共有スペースも充実している。調理器具や家電を備えたキッチンには、ドリンクのほかフードの自動販売機も設置。自販機からは24時間、いつでも温かい食べ物が出てくるということで、海外の旅行者の興味を引いているようだ。

また、客室を改装することで、夜には滞在者限定のバー(営業日は要確認)になるインフォラウンジや、無料で使えるマッサージチェアを備えたコミックルームなども新設した。ラウンジにはベッドもあるのだが、現在ではみなが気楽に集えるスペースになっているとのこと。また、バスタブも現在ではプランターになっているなど、昔とは異なる活用方法についクスッと笑ってしまう。

夜にはバーになるインフォラウンジ

コミックルームには50冊以上の漫画を用意

元露天風呂のフリースペース

新しい活用としてもうひとつ、フロントの横にはラブホテル時代に使われていたパネルディスプレーが残されている。当時はディスプレーを操作して部屋を選択していたようだが、現在では各部屋のデザインを紹介するパネルとして、また、東京観光のガイド資料入れとして使われている。

なお、現在のホテル用にフロントは新しく作られたが、当時からあるフロントも現役である。スタッフとの接点を最小化した当時のフロントと、旅好きなスタッフがサポートしてくれる現在のフロント、その違いもぜひ見比べていただきたい。

元パネルディスプレイも活用

エレベーターの中は当時のまま

新設されたフロント

当時からあるフロント。一部の部屋にはフロントとつながったマネーシューターが残されている

1カ月以上滞在する旅行者も

ホテルは全館無料でWi-Fiを利用でき、ドミトリーでも気軽にスマートフォンの充電ができるようにと、各ベッドに専用プラグを設置している。また、各部屋は土足禁止で、共用バスルームも清潔に保たれている。部屋によって料金は異なるが、1泊2,200円(税込)~という手軽さのためか、中には1カ月以上滞在するような旅行者もいるそうだ。

共用バスルーム

トイレ/シャワー

サービスはいろいろ

馬込さん曰く、「ふだん、海外の旅行者と触れ合うことが多いので、逆に日本語が出てこないこともありますが、もちろん日本の旅行者も歓迎しています」とのこと。口コミで評判を知って訪れたという外国人も多いという。今度の東京観光は、海外で話題になっている"日本人が知らない日本らしいホテル"を利用してみてはいかがだろうか。

※記事中の価格・情報は2014年6月取材時のもの