ウクライナ大統領選で、親欧米路線を掲げる元外相のポロシェンコ氏の当選が確定した。新大統領は、欧米から経済支援を受けながらウクライナ経済の立て直しにとりかかることになるが、前途はきわめて厳しいと言わざるを得ない。ウクライナが直面する以下の4つの難題に、解決の糸口が見えないからだ。

(1)巨額の対外負債でデフォルト危機

ウクライナ政府の発表によると、昨年末時点の対外負債残高(国と民間の負債合計)は1,400億ドル(約14兆円)に膨らんでいる。そのうち半分弱(約660億ドル)は、今年10月までに返済が訪れる。

ところが、ウクライナの支払い余力を示す外貨準備高は150億ドルしかない。すぐに数百億ドル(数兆円)の金融支援を受けなければ、デフォルトの危機が迫る。

親欧米政権の誕生によって、これまでウクライナに金融支援を続けてきたロシアからの支援は見込みにくくなる。ロシアからの支援が減る分、EUやIMFからの支援でカバーしなければならない。EUやIMFは、既に支援を実施する意思を示しているが、支援の条件として、緊縮財政など大胆な経済改革の実施を挙げている。

なんとか金融支援をとりつけて10月までの返済にメドをつけても、それだけではウクライナの金融危機は緩和しない。今のままでは、経常収支の赤字が続き、対外負債は増え続けることになるからだ。

(2)負債削減にむけた改革断行は困難を伴う

EUやIMFからの金融支援を取り付けるには、経常収支の赤字を削減していく構造改革が必要になる。社会保障や補助金の削減、公務員の人件費削減、公共料金引き上げなどの実施が不可欠だ。こうした改革を急激に実施すると、社会不安が高まる。親欧米政権に転換したウクライナで、政権が安定するにはまだかなりの時間がかかる。政権が安定しない中で、国民に我慢を強いる改革を断行するには困難が伴う。

(3)ロシアへの経済的な依存を断ち切るのも困難

ウクライナは、ロシアからパイプラインで天然ガスの供給を受けている。ロシアとの交渉に失敗すると、そのガス供給が停止される。資金繰りに苦しむウクライナでは、ロシアから供給を受けている天然ガスの代金未払いが増加している。代金未払いが続くとロシアは天然ガスの供給を停止すると通告してきている。

ただし、ロシアがウクライナへのガス輸送を完全にストップすることは考えにくい。なぜならば、ウクライナのパイプラインは、ロシアから欧州諸国へのガス輸出を輸出するための重要ルートだからだ。ウクライナへのガス供給を停止すると宣言しても、欧州へのガス輸出を続けるためには、どうしてもウクライナを通るパイプラインにガスを流さなければならない。ウクライナがそのガスを抜き取ることは当然起こりうる。ロシアはその問題をわかっている。ロシアは、ウクライナが抜き取ったガスに対する未払い金の請求を続けていくことになる。

仮に欧米からの金融支援でロシアからのガス購入を続けられるようになっても、ロシアから経済的に自立するのは難しい。対外負債残高の多くをロシアから受けているからだ。ウクライナは政治的に独立しても、経済的にロシアから離れられない状況が続く。

(4)クリミアと東ウクライナのロシア系住民の処遇も難しい問題

クリミアは既に不当にロシアに編入されている。ウクライナ政府はロシアに返還を請求していく方針だが、クリミアはロシア系住民の比率が高く、実現は困難な状況だ。さらに東ウクライナのドネツクでは、ロシア系住民による独立運動が行われている。ロシア政府は東ウクライナ編入の意思はないと表明しているが、情勢次第で豹変しないとは限らない。

ロシア政府は、親欧米政権の誕生したウクライナと「対話の準備がある」と表明している。ガス供給などの経済支援と引き換えに、クリミア編入の承認や東ウクライナのロシア系住民による自治権の拡大を要求してくる可能性が高く、難しい交渉となる。

ポロシェンコ氏は大統領就任会見で、ウクライナに留まる意思のあるロシア系住民に一定の自治を認める可能性を示唆したものの、独立を目指す動きとは徹底的に戦うと宣言した。言葉通り、就任会見の直後にドネツク空港を占拠するロシア系住民を空爆し、空港を奪還した。近く実現する見込みのプーチン露大統領と、どういう交渉をするか、注目される。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。