11月6日から8日まで、千葉県の幕張メッセで「第3回鉄道技術展」が開催された。鉄道事業者向けの総合見本市で、国内外の鉄道に関する最新技術が盛りだくさん。鉄道趣味的にも興味深そうで、ビジネスマンに混ざって見学してきた。その中でとくに面白かった展示を、選りすぐって紹介しよう。

鉄道技術展の全景、最新技術やアイデアがぎっしり詰まっていた

三菱重工・川崎重工業は迫力の実物展示!

「鉄道技術展」は鉄道業界の展示会で、ゲームショーやモーターショーのような一般来場者を集めるイベントではない。出展者も来場者も鉄道関係で働く人々。だから派手な飾り付けは少ない。そんな中でも目を引く存在が三菱重工と川崎重工業だ。三菱重工はゆりかもめ最新型車両7300系の先頭車をドンと置いていた。

三菱重工はゆりかもめ7300系を展示

室内や台車もじっくり観察できた

その他、三原市の工場敷地内に建設中の鉄道試験施設も、模型を使って紹介していた。三菱重工は海外の新交通システムを受注しており、当初から新交通システム用の周回型試験線を持っていた。その外側に普通鉄道用の試験線を準備中。標準機と狭軌の三線軌条で、時速120kmに対応する。車両の走行テストだけでなく、信号システムの地上側と車載側のテストも可能。海外へ納品する際に現地の状況をシミュレーションできるため、納品から稼働までのテスト期間を短縮できるという。

三菱重工の三原試験線を模型で再現

川崎重工業は新型台車「efWING」を展示

川崎重工業ブースでは、正面に台車が鎮座していた。この台車「efWING」は、世界で初めてカーボンファイバーを使って軽量化を実現したという。2013年度グッドデザイン金賞にも選ばれたばかり。同社の動揺防止制御システムや台車モニタリング装置など、台車と連携するシステムも紹介していた。さらに、既存の車両の照明器具に設置できる蛍光管型LED照明も、8色をラインアップ。採用実績も多い上に、外観上は蛍光灯と変わらない。私たちもすでに採用車両に乗っているかもしれない。

台車は東京メトロのブースにもあって、こちらは銀座線の新型車両1000系に使われている新日鉄住金製の操舵台車。車輪の軸を固定せず、適時向きを変えるしくみ。操舵台車は曲線通過性能を上げ、きしみ音の低減などでメリットがある。1000系の操舵台車は2軸とも動かさず、1軸のみ操舵させる。低コストでメンテナンス性に優れ、きしみ音やレールへの負荷を低減できるという。

銀座線1000系に採用された1軸操舵台車

近畿車輛はロサンゼルス受注案件電車の大型模型などを展示

近畿車輛はロサンゼルス受注案件電車の運転台付近の大型模型のほか、充電式電車「HARMO」の模型も展示していた。架線集電区間や駅の架線設置部でバッテリーに充電し、非電化区間はバッテリーの電力で走るという。同じ駆動システムを応用すれば、ディーゼル発電機を搭載したハイブリッド走行にも対応する。試作車は150kWの主電動機2基と18kWhのリチウムイオン電池を搭載しており、最高速度100km/hで航続距離は約10kmとのこと。定員は110名で、ローカル鉄道や路面電車などに即応できそうだ。

「マルタイ」の最大手「Plasser & Theurer」のシミュレーター

鉄道業界での「マルタイ」とは、保守用の車両「マルチプルタイタンパー」の略だ。レールの高さや左右のズレを検査し、正しい位置に調整する。レールや枕木を持ち上げてバラスト(砂利)を交換し、突き固めるなどの作業を行う機械だ。その世界最大手、オーストリアの「Plasser & Theurer(プレッサーアンドトイラー)」は、鉄道技術展の会場中央に大きなブースを構えていた。日本のマルタイもほとんどが同社の製品だ。

マルタイ最大手「Plasser & Theurer」はオーストリアの会社

マルタイのシミュレーター。足もとの窓もCG。スイッチだらけで、説明員がいないと何をどうしたらいいかもわからない

展示内容はもちろん最新鋭のマルタイ。しかし実車ではなくシミュレーターを展示していた。小さなシアターに入ると、異なるタイプのマルタイのコクピットが2つ。どちらも実物と同じ操作盤があり、窓にはCGの線路と風景が映し出されている。体験中のコクピットの様子が外部のモニターで眺められる。

面白そうなので筆者も試してみたかったけれど、順番待ちが多いうえに1組の体験時間が長くて断念。おそらく会場内で最も人気のアトラクション(?)だっただろう。

精巧なHOゲージ版マルタイ

じつは制御シミュレーションだった

ブースの入口では、マルタイのHOゲージ鉄道模型が走っている。これが非常に精巧にできていて、実際にバラストを処理する部分も動く。展示用に作ったのかと思ったら、なんと市販品とのこと。鉄道模型の世界は奥が深い。そしてこれ、じつは飾りではなく、マルタイの制御ソフトのシミュレーターになっていて、模型の裏に操作盤があった。レールに電気信号を流して、マルタイの作業部を操作しているという。

「サスティナ」は車体だけのブランドではなかった

鉄道技術展には日本の大手車両メーカーも出展している。しかし実物車両はなく、ポスターや映像が中心だ。ドイツの世界最大の国際鉄道技術見本市「イノトランス」みたいに、実物車両がたくさん並ぶイベントに成長してくれたらいいな……と思いつつ、その中でもJR東日本系列の「総合車両製作所」の展示が興味深かった。

「sustina吊手」は未使用時は上がり、使用中は下がる。男性の大きな手の場合は包み込むように持つと安定する。

「sustinaチェア」はやや前傾しており、着座時の姿勢が良くなり立ち上がりやすいという

「総合車両製作所」はステンレスカーの老舗「東急車輛」を統合し、次世代ステンレス車両「sustina(サスティナ)」を国内外に売り込んでいる。だから「sustina」は車体やステンレス構造のブランド名だと思っていた。しかし今回の展示の中には、「sustina吊手」「sustinaチェア」もあり、それぞれ持ちやすく使いやすい吊手、立ち上がりやすい座席だという。「sustina」は車体だけではなく、総合車両製作所が提案する新コンセプト全体のブランド名だったようだ。

興味深いアイデアが多数

線路の上に横たわる黄色い機械。傍らには、「マクラギ交換の革命児」の文字。どんな革命かと質問してみたら、なんとマクラギ交換を、これ1台でこなしてしまうという。

PANDROL社の「ROSENQVIST SB60」はマクラギ交換の革命児だ。覚えておこう

油圧ショベルの先端に取り付け、ほぼ一人で作業を完遂できる

マクラギの交換は、人力なら10人単位、保線車両や機械を使ったとしても2台か3台必要だという。しかし、この黄色い機械を油圧ショベルの先端に取り付ければ、マクラギを取り外し、回転して持ち上げ、新しいマクラギに持ち替えて砂利を均し、マクラギと線路を締結するまでの作業が1人でできる。その様子をタブレット端末の動画で見せてもらった。住友商事がレール締結装置とセットで売り込んでいるそうだ。

ホームドアが開くとホームの端からステップが上がり隙間がなくなる

ホームドアが閉じるとステップが格納され、列車の運行を妨げない

京三製作所の可動ステップは、列車の停車中、ホームと列車の隙間を解消できるシステムだ。ホームと列車の間はどうしても隙間ができる。隙間がないと、とくにカーブしたホームなどで列車がホームに接触してしまうからだ。直線ホームでも列車が揺れると当たってしまう。

同社の可動ステップはホームドアと連動しており、ホームドアが開くと同時にステップが現れて隙間が消える。すでにこの可動ステップが導入されている路線もあり、ホームドアが透明なら稼働している様子を確認できるそうだ。ホームドアを見かけたら、隙間にも注目だ。

鉄道技術展の会場では、これらの他にもユニークなアイデアをたくさん見ることができた。写真とコメントで簡単に紹介していこう。

てつでんのブースは踏切警報機も進化。赤ランプはLEDとなり、360度から視認できる

鉄道機器株式会社の可動式横取り装置の模型。横取り装置とは、保線車両を本線に載せるための道具。従来はレールを乗り上げる山型の装置を据え付けて、車両を持ち上げていた。この装置を使うと、板をパタンと載せるだけで分岐器のようになる

八幡電機産業のオンデマンド型旅客案内システム。近鉄の観光列車「しまかぜ」の個室などに使われている。旅客の操作で、車内設備案内、停車駅と観光案内、前面展望などを画面に表示できる。乗客のタブレットやスマートフォンに配信するシステムも開発中

片上鉄道のトンネル内映写システム。客室の天井にプロジェクターを設置して、窓へ向けて映像を投射。トンネルの壁をスクリーンに見立てる。会津鉄道に納入されているそうだが、できればトンネルとフードだらけというリニア中央新幹線にも付けてほしい……

京三製作所の電子連動装置のデモ。Nゲージを使っているけれど、信号機、ポイントなどを実際の連動装置で制御している。従来は機械式リレーを使っていた装置が電子化され、メンテナンス性、冗長性とも大幅に向上したという。鉄道模型ファン向けの販売予定を聞くと、「趣味で買うにはかなり高額ですが……」とのことだった

なお、次回の鉄道技術展は2年後。2015年11月11日から15日まで、今回と同じ幕張メッセを会場に開催予定とのことだ。