高層ビルが立ち並ぶ大阪市の中心部

関西に住んでいて天気予報を見たことがある人ならば気が付くことがある。それは夏季、大阪の最高温度と最低温度が他所と比べて高いこと。俗に「京阪神」という呼び方があるが、大阪と京都は神戸よりも常に気温が数度は高い。更に都市化が進んでいるため、体感としての暑さは格別である。

30度越えは九州が多く、最高気温は高知だが

とは言え、大阪に住む人で「大阪は日本で一番暑い」と口にする人は少なくない。大阪管区気象台に問い合わせてみると、1年を通じて30度を超える日が多いのはやはり沖縄や九州で、100日を超える観測ポイントも多い。それに比べて大阪は平均で73.3日だという(それぞれ1981年~2010年の平均値)。

実際に日本の最高気温を記録したのは、高知県四万十市の41.0度(2013年8月12日)であり、大阪ではない。ちなみに記録に残っている8月の平均気温は、沖縄県石垣島が最高である(29.2度)。しかし、これはあくまでも気象台の観測による発表だという落とし穴がある。

大阪の都心部はビルや建物が路面に沿ってギッシリ立ち並ぶ

“都市熱”という追い風ならぬ追い熱

こうした“記録”は、気象台の観測方法が、まず70平米を超える場所で、更に建物や樹木などの日陰にならない水平な地面を選んで測定器を置いて計っている点にある。東京都や名古屋市なども含めた大都会は、そこに“都市熱”というものも加わるため、実際の温度は記録とは違うことになる。

大阪市立大学工学研究科都市系専攻で主に都市における熱状況を研究している鍋島美奈子准教授は、「大阪は都市化が進む約100年前の気象記録を見ても、周辺部より気温が高かったことが分かっています」と言う。このように元々、気温が高い土地柄に、更に都市熱が加わり「日本一暑い大阪」と言われるようになったと考えられる。

ビルのミラーウインドーが太陽の光を反射して、一層道路の温度を高める

特殊な地形が暑さを生む

関西では京都も暑いが、そもそも京都は盆地だから暑くなりやすい。だが大阪はそうではないのに、なぜ暑いのか。鍋島准教授は、「大阪は北・東・南に山があって、唯一開いている西は大阪湾に面していても、神戸に比べると大阪平野に広がる都市規模の大きさに比べて海の影響が小さいからだと思われます」と説明する。

実際に大阪の猛暑日を調べてみると、ここ10年で飛躍的に増えていることが分かる。80年代は60日(東京は9日)だったのが、2000年代は何と153日(東京は36日)にも増えている。つまり、瞬間的な気温は大阪よりも高いところはあっても、非常に暑い日が長く続くので、「大阪は日本一暑い」と体感することになる。

「通天閣」が建つ「新世界」にも、体感温度を下げる効果がある緑はほとんどない

都市化が拍車をかける

鍋島准教授は、主に「ヒートアイランド現象」対策の研究などを行っている。その研究でも、都市化が進んだことでアスファルトやビルからの輻射(ふくしゃ)熱や冷房・クルマの排気熱などの影響が加わり、気温が突出して上昇する「ヒートアイランド現象」により、大阪の中心部が高温・高湿度の状態になっていることが分かっている。特に、夜間でも気温が下がらないのが都市部の特徴である。

ちなみに鍋島准準教授は、歩行者レベルの熱環境改善を目的に、大阪市西区の木津川と道頓堀川に囲まれた新町・堀江地区を中心に観察を重ね、大阪市が唱える「風の道」モデル事業に提案もしている。「緑地や街路樹の木陰、道路の遮熱性舗装などにより、夏の日射を遮り風通しの良い街をつくることで体感温度を下げたいと思っています」(鍋島准教授)。

鍋島准教授は水噴霧による空気冷却性能の基礎的研究も行っているというが、こうした研究が進むことで、少しでも大阪の人たちが過ごしやすい環境が生まれることに期待したい。