――ちなみに、大河原さんは「タイムボカンシリーズ」だと、どのあたりのメカまでデザインなさっていたのですか?

大河原氏「ゾロメカなんかは全部描いてましたけど……(事務所においてあった)おだてブタは違います。ブタは笹川さんですよね?」

笹川氏「ブタは即興で僕が描きました。メカみたいな感じになってますけど、本当にただのいたずら描きです」

大河原氏「ブタが登るヤシの木は僕のデザインです。あれはメカデザインの仕事でした」

――メカデザインといっても幅広いんですね

大河原氏「メカニックデザイナーが一番楽しめるのは、コンセプトワークなんですよ。企画が出来たときに、どういうメカ、テイストでいこうかって考えるのが一番楽しい。たとえば、『タイムボカンシリーズ』なら許される範囲はものすごく広いですし、『ガンダム』のような作品になるとかなり狭くなる。そのあたりは、ある意味ファンが決めてしまうところもありますから。ただ、広いのがいいとか狭いのは嫌だとか、そういう話ではなく、両方をやることによって、お互いで実験的なことができる。なので、私にとっては両方を同時にやっていたというのが一番プラスになったと思います」

――大河原さん自身は本来、どちらが得意なのですか?

大河原氏「大きく分けて、リアル物とスーパーロボット物と、こういったギャグ物があるとしたら、それぞれに楽しさがあるので、一概にこれとは言えないですね。仕事を同時にやっているとき、たとえば『ガンダム』をやっていた頃は、こちらでは『ゼンダマン』をやっていたわけですが、そういったまったく異なるものを同時にやることで、楽しさが倍増するんですよ。実際、『ヤッターマン』で実験的にやってみたシルエットを『ガンダム』で使ってみたりもしています。他人のデザインを真似しちゃうといろいろ問題がありますから、自分の仕事の中で実験できるというのは大きかったですね。ちがうテイストのものを同時に3本やっていたりすると、すごく勉強になります」

――その分、スケジュールはすごく大変そうですが……

大河原氏「そこが一番大変ですね。3本同時にやっていると、2日で1本分をデザインしないといけなくなりますから。タツノコさんの場合、社員でいたときからメカに関しては全部1人でやっていました。『ガンダム』のような作品になるとチームを組んだりもするのですが、私自身は本来、全部1人でやったほうがいいんですよ。敵と味方のデザインテイストをうまく整理できるので。ただ、その分だけ物量はとんでもないことになってしまいますけど(笑)」

――それでもしっかりとこなしてしまうあたりは、さすが大河原さんという感じです

大河原氏「カッコいいロボット物をやりたがるデザインナーは多いんですけど、ホントにメカメカしい物や、こういったギャグ物をやりたいというデザイナーはかなり少ない。何か順列をつけているんですよ。本当はこちらのほうが勉強になるんですけどね……。まあ実際、カッコいい物を描きたくてメカデザイナーになったという人が多いですから、仕方ないことではあるんですけど」

――たしかに、ヤッターワンのデザインに憧れて……という人は少ないかもしれません

笹川氏「いないでしょうね(笑)。でも、今回の『デバンダー』では、大河原さんのデザインに憧れてアニメーターになったという人がたくさんいるんですよ。本当に目ざとくかぎつけて、参加させてくれって言ってくるんですけど、それだけ大河原メカにはすごい魅力があるんだと思います」

大河原氏「私の場合、絵があまりうまくないので……」

――え?

大河原氏「メカデザイナーでも、本当に絵が好きなメカデザイナーと、私みたいにメカが好きなメカデザイナーがいるんですよ。だいたい、デザイン画の横に女の子の絵を足すのは絵が好きなデザイナーですね。パイロットまで描いちゃう。私は、2ポーズぐらいしか描けないので、なるべく描かないですむようにしています(笑)。昔のアニメーターさんは形を捉えるのがすごく上手だったので、あまりいろいろなアングルを描かなくても大丈夫だったんですよ」

――それは大河原さんのデザインに破綻がないからこそではないですか?

大河原氏「いや、かなり適当ですよ(笑)。私がタツノコにいた頃から一緒にやってきたような人は、1人で1本原画を描いちゃうぐらい、本当に手が速かったりするんですけど、今の若い人はアニメが好きで入ってくるから、この世界にいるだけで幸せだったりするんですよ。でも、我々は食わなければならなかったので、本当に必死でした。何本もいろいろな仕事を取ってきて、それで普通のサラリーマンと同じぐらいの生活という感じでしたから」

(次ページへ続く)