ユーザーが手持ちの楽曲をPCで再生したとしても、著作権者はそこから直接収入を得ることはできない。だが、Appleが昨年開始したばかりのiTunes Matchサービスを使ってユーザーが手持ちの楽曲を再生した場合、そこには著作権使用料の分配が発生することになる。ある著作権者がこのサービスを通じて1万ドルの入金があったことを報告しており、これを「Magic Money」と呼んで、いかに音楽業界にとって革新的なことなのかを説明している。

この件を報告しているのはTuneCoreプレジデント兼CEOのJeff Price氏。TuneCoreはミュージシャンが自分の作品をiTunesやAmazon経由で販売することを支援するサービスを提供している。

Price氏は同社Blogの中で、iTunes Matchサービスの驚くべきポイントを挙げている。iTunes Matchはクラウド型の音楽配信サービスで、ユーザーはクラウド内に保存された楽曲を好きなときにダウンロードしたり、ストリーミングで引き出して聴くことができる。一種の音楽ロッカーだ。ポイントは楽曲の保存方法で、iTunes Storeで購入した以外の楽曲、例えばCDからリッピングした音楽ファイルがあった場合、適宜iTunes Matchが楽曲ライブラリの抜けを参照して、必要に応じてクラウド上に楽曲をアップロードする。ユーザーは年間25ドルを支払えば、このiTunes Matchのサービスを自由に利用できる。

面白いのは、楽曲のやりとりの過程で発生する料金だ。例えばユーザーが手持ちのCDをプレイヤーで再生したり、PCのHDD内にあるMP3ファイルを再生したとして、楽曲の著作権保持者らはそれらの行為から直接料金を徴収することはないし、実際にする方法がない。得られる収入は、最初に音楽メディアを販売したときに得られるもののみだ。だがiTunes Matchでは、ユーザーがクラウド上に登録した楽曲を再ダウンロードまたはストリーミング再生した場合、使用料がそのつど著作権保持者へのロイヤルティとして支払われる(ユーザーの支払いがそのつど発生するわけではない)。

重要なのはまさにこの点で、過去にiTunes Storeからダウンロード購入された楽曲だけでなく、iTunes Storeを通していない楽曲を含め、すべての楽曲に対し同様の支払いが発生することになる。つまり、いままで売り切り型で2次収入を得る手段がなかった楽曲が、ある意味で未来永劫まで収入を生み出す源泉となるわけだ。いままで存在しなかった収入を生み出す――冒頭でPrice氏が使った「Magic Money」という言葉は、そういうことを意味する。

なお、今回TuneCoreに入金された金額は、最初の2カ月分で1万ドル。この1万ドルを大きいと思うか小さいと思うかは人それぞれだろうが、そもそもiTunes Matchのようなクラウド型音楽サービスが登場しなければ支払われることのなかった金額であり、業界にとっては革命的な出来事になるかもしれない。

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