慎重になりすぎるな!

――よく「日本人は主張がない」「何を考えているかわからない」などと批判されますが、それはなぜだとお考えですか?

物事に白黒をつけず、できるだけ角を立てないようにする文化的背景もあると思いますが、「自分の考えがきちんとまとまってから発言しよう」と考えている人が多いことも一因ではないでしょうか。

それは「英語でコミュニケーションをはかりたいけれど、もっと上達してから……」と思っているうちにチャンスを逃してしまうようなものです。しかし「語学を身につけたければ、その国の恋人をつくれ」と言われるように、コミュニケーションは「習うより慣れろ」。 失敗を恐れて慎重になるよりも、思ったことはどんどん発言すればいいのです。

――会話が苦手な人にとっては、かなり難しいことのように思えるのですが……

もちろん急に自分の性格を変えることはできませんし、うかつな発言をする必要もありません。とはいえここぞと言うときに口ごもったり、「あいつは自分の意見というものがない」などと誤解されたりしては損でしょう。 それに「まだ考えがまとまっていない」のなら、会話しながらまとめていくという手もあります。そこで役に立つのが「口でとるメモ」です。

3WHAT・3W1H

――「口でとるメモ」とは一体なんでしょうか?

自分の主張を本格的に述べる前に、相手に質問したり意味を確認したりして頭の中を整理するのです。私はこの手法を3WHAT・3W1Hと呼んでいます。

3WHATは、書いて字のごとく三つの「WHAT」です。

WHAT(1) それは何か(定義)
WHAT(2) 何が起こっているのか(現象)
WHAT(3) 何がその結果起こるか(結果)

この三つを使って問題点を整理します。

例えば「結婚しない若者」が話題になったとしましょう。

WHAT(1) それは何か(定義)……結婚適齢期と呼ばれる年齢になっても独身でいる若者のこと

WHAT(2) 何が起こっているのか(現象)……気ままなライフスタイルを謳歌・個人消費の低迷

WHAT(3) 何がその結果起こるか(結果)……少子化・年金制度の崩壊

このように三つのWHATで考えると、「結婚しない若者」の概要とそれをとりまく事柄が把握できます。こうした基本情報を押さえておくと自分の意見がまとまりやすくなるうえに、3WHATを意識して話すだけで相手にシャープな印象を与えることができます。

次の3W1Hですが、これはWHY・WHEN・WHEREそしてHOWのことです。

WHY なぜそれが起こっているのか、それがなぜ好ましいのか(理由・根拠)
WHEN いつからそうなのか、それ以前はどうだったか(歴史的状況)
WHERE どこでそうなのか(地理的状況)
HOW どうすればいいか(対策)

引き続き「結婚しない若者」を3W1Hで考えると、

WHY(理由・根拠)……結婚にメリットを感じない若者の増加・女性の社会進出・出産、子育てがリスクになる社会構造
WHEN(歴史的状況)……バブル崩壊後の長期にわたる不況
WHERE(地理的状況)……先進国・都心部
HOW(対策)……子育て支援政策・テレビドラマなどで結婚のイメージアップをはかる

この型を覚えておけば自然な話の流れをつくり出せますし、意見を主張したり質問したりするときにひどい失敗をすることもなくなるはずです。慣れないうちは紙に書いてもいいので、会議やスピーチが苦手な人はぜひ3W1Hの型を利用してほしいと思います。

鉄板ネタを用意しよう

――樋口さんは大学の授業をはじめ講演会やセミナーなど、人前で話す機会が多いと思いますが、何か気をつけていることはありますか?

自分が話したいことはすべて書き出しておきます。具体例などはその場の思いつきを言うこともありますが、話の骨子から聴衆を笑わせるためのギャグまでしっかり準備していますね(笑)会議やミーティングはさておき、ずっと一人で話す場合は「ネタ」を仕込んでおかないとつらくなってしまいます。しかも聴衆の年齢層や会場の雰囲気はさまざま。臨機応変に対応できるよう、最低三つは考えておきます。

――どうすれば人を笑わせる話ができるでしょうか?

私はお笑い芸人ではありませんが、普段から練習して「絶対に受けるネタ」をつくっておくことは大事だと思います。とはいえ何度も同じギャグは使えないので、「このネタは○○セミナーで使用済み」と記録したり、なぜ反応がよかったのか・よくなかったのかを分析したりして次に生かします。せっかく大勢の前で話すのですから、サービス精神は忘れずにいたいと思っています。

――人をひきつけるには話にアクセントをつけることも大切ですね

もしギャグを入れるのが難しいと思うのであれば、自分の話に「引用」を組み込むという方法もあります。私はかつてフランスに滞在したとき、フランス人の友人が日常的に文学作品や詩を引用するので感心したことがありました。イギリス人はよくシェークスピアを持ち出すといいますが、確かに文豪や大詩人の言葉を引用すると知的に聞こえます。あまり度が過ぎるとこっけいですが、日本人はもう少し教養をアピールする技術を身につけてもいいのではないでしょうか。そして何よりも堂々とした態度でいること。ちょっと背伸びをするぐらいがいいと思います。



次回は「読ませるブログの書き方」についてうかがいます。

INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
元中国新聞記者。2008年に始めたネットラジオ番組「人生を変える 一冊」をきっかけに起業。 現在は、企業や教育機関、公共機関などに音声(ポッドキャスト)を活用したサービスを提供している。インタビュアーとしても精力的に活動、渡邉美樹さん、茂木健一郎さんらこれまでにインタビューした人物は1,000人を超える