自宅で劇場並み映画鑑賞は可能か?

映画ファンにとって、映画というコンテンツを「劇場に近い、もしくは同等のクオリティの映像と音響で楽しむ」というのは、永遠のテーマだと言えるのではないだろうか。もちろん、「映画館で最高の映像と音響で楽しんでこそ、真の意味での映画鑑賞である」という意見には、全面的に賛成だが、劇場だからといって、誰もがベストの状態で作品に触れることができるわけではない。たとえば、フィルム上映の場合、どんなに最高の上映環境が用意されていたとしても、映画公開初日と公開後数カ月後経過したフィルムでは、あきらかに画質・音質に差が出る。意外と知られていない事だが、数カ月の上映期間内だけでも、フィルムは激しく劣化するのだ。もちろん、フィルム劣化のような問題に対しては、デジタル上映というアンサーがあるが、まだ現状では制作側、配給側、上映する劇場など、これらすべてがデジタル上映に完全に対応しきれてはいない(HD24Pによるフルデジタルの環境での映画製作という部分も含めて)。

劇場での映画鑑賞のクオリティに関して、これらの事を並べなくても、単純に座高の高い人が前のシートにいたり、上映中に会話を止めないカップルが周囲に着席した瞬間、どんなハイクオリティの映像や音声も、意味を失ってしまう。そんな体験を、何度も、何度も、本当に何度も経験した映画ファンのひとりとして、やはりひとりぼっちの部屋のモニターの前で、劇場並みの映像・音響を誰にも邪魔されず楽しみたいという我侭な欲望を抱いてしまう。そんな欲望を満たしてくれる手助けをするオーディオ機器があるという。その製品に関わりの深い、「THX」という言葉について、今回は解説したい。

THXとは?

いくつかの映画や劇場のロールで、迫力ある音響と共に画面に登場する「THX」というロゴ。これには、映画史に残る傑作SF『スター・ウォーズ』全6部作を手掛けたジョージ・ルーカス監督(『帝国の逆襲』、『ジェダイの帰還』は除く)が関わっている。彼は監督として名声を築いただけでなく、VFX制作会社ILM(Industrial Light & Magic)を設立し、映画特撮の進化にも大きく貢献した。そんな彼の1971年の監督デビュー作のタイトルは『THX 1138』というSF映画だ。THXという名前は、この映画タイトルからの引用なのだ。では、このTHXとはいったい何なのだろうか?

THX認定された劇場のトレーラーだけでなく、現在では様々なソフトやハード、録音スタジオなどの壁にもこのロゴを見つけることができるはずだ

THXは当然のごとくジョージ・ルーカスの影響により生まれた会社だ。1980年代のアメリカの映画館の映像・音響設備は優れていたとは言いがたく、ルーカスは自身の作品の本質を、現状の劇場上映では伝えることができないと考えた。そこで、自身のルーカスフィルムの1部門としてTHXを設立し、映画館の映像・音響のクオリティを様々なポイントから審査し、優れた設備の映画館にはTHX認定をするというシステムを作り上げた。「THXのロゴがある映画館ならば、より優れた映像・音響で映画がオリジナルの魅力を損なわない形で鑑賞できる」というお墨付きが生まれたのだ。

DVDのパッケージなどに、このロゴが記載されていることもある。これは収録されているコンテンツが、オリジナルの画質や音源と同等のクオリティを持っているという目安と捉えていいだろう。ロゴの周囲のデザインやテキストは、その認定の種類に応じて微妙な違いが見られる

現在では、THXは劇場以外の様々な分野においても、そのクオリティ審査を行っている。DVDソフト、アンプ、スピーカー、テレビモニター、映画会社試写室やスタジオなどにもTHXのロゴマークが刻まれている。勿論、この認定は乱発されているわけではない。劇場に関しては、THXマーク認定が与えられた後も、定期的にクオリティのチェックが行われるという。そんな厳しい審査基準のTHX認定を受けた、あるオーディオ機器を次回は試用してみたい。劇場並みの映画鑑賞環境を実現することは、本当にできるのだろうか?