「津軽鉄道 いなほ弁当」(1,000円)。掛け紙には、旅の思い出となるように路線図を入れた。裏は中身のイラストとおしながき

秋の鈴虫列車、冬のストーブ列車などで知られる本州最北の私鉄・津軽鉄道(青森・五所川原)は5日、オリジナル駅弁「津軽鉄道 いなほ弁当」を発売した。同駅弁は、沿線で収穫された米「つがるロマン」を主役に、可能な限り地元の食材を使っている。そして、私は掛け紙のデザインを担当させていただいた。ここでは、"津軽の味覚"が詰まった同駅弁を詳しく解説していこう。

同鉄道のオリジナル駅弁は、今回が第3弾。昨年12月に発売となった第1弾商品は、竹を編んで作ったかごの中におかずやご飯を詰め込んだ「ストーブ弁当」。第2弾は花見の季節に合わせて今年4月に発売された「さくら弁当」である。今回発売となった「津軽鉄道 いなほ弁当」は11月までの販売となっている。

「津軽鉄道 いなほ弁当」の中身。3日前までに予約が必要(2個から受付)。発売期間は11月30日まで

おしながき
「つがるロマン」のおにぎりと、季節の炊き込みご飯
「神家」(じんや)のおかみさんお手製 津軽の漬け物
長芋とつくね芋のほたてあんかけ
たたきごぼう
秋さんまの塩焼き
食用菊のごまあえ
えび塩焼き
豆腐のゆば巻き
秋なすのピリ辛ひき肉のせ

まず目を引きつけられるのは、たっぷり入ったご飯。それもそのはず、「津軽のおいしいお米をたくさん召し上がっていただきたい」というのが、この駅弁のコンセプトなのだ。白いご飯のおにぎりを食べてみると、さすがはブレンドしていない地元産のお米。旨みがぎゅっと詰まっている。季節の炊き込みご飯の具はその時々のお楽しみで、発売に際して現地で開催された試食会では鶏飯が盛り込まれていた。今後は栗やいろいろなきのこなどが入ってくる予定。

津軽鉄道本社で行われた試食会。地域の放送局、新聞社が集まり、のんびりとした雰囲気

そして、おかず類。この駅弁には醤油が付いていない。1つひとつが手づくりのしっかりとした味なので、醤油を付ける必要ないのだ。使用されている素材の中で、特に珍しいのが「つくね芋」。これは自然薯の仲間で、収穫は秋。五所川原で栽培されているものの、八百屋などに出回ることはほとんどない珍しいものだ。和菓子用の高級食材としてほとんどが京都などに行ってしまい、規格外のものがほんの少量、市内に流通するのだ。この貴重なイモをすりおろした蒸し物「長芋とつくね芋のほたてあんかけ」は、なめらかな食感で高級和菓子のよう。

湯葉の大豆、秋なす、ごぼう、人参など、ほとんどの素材が津軽鉄道沿線の五所川原、中泊町のもの。試食会で食材の産地について尋ねると、驚いたことに地名とともに生産者名が出てくるのだ。つくり手の顔が見える食材は、都会に住んでいると最高の贅沢と感じる。東京在住の私にとって、「田舎の料理っていいなぁ」と思わずにはいられない。

「長芋とつくね芋のほたてあんかけ」。すりおろした2種類の芋と人参を蒸したもの。見た目にも華やか

たたきごぼうは皮を剥かずに煮てある。信頼できる食材を丁寧な仕事で仕上げているからこそできること

五所川原郊外にある「神家」。住宅地の中にあり一見普通の家だが、昼時には行列ができる人気店なのだ

さて、駅弁の調理を担当しているのが、五所川原っ子にはおなじみの「神家」(じんや)。昼はランチバイキング、夜は居酒屋として親しまれている和食のお店である。この駅弁は、まさに津軽日常の味。そのためか、同じく神家が調理したオリジナル駅弁第一弾「ストーブ弁当」、第二弾「さくら弁当」とも、旅人に人気だったのはもちろんのこと、地元のリピーターが多かったとのこと。

評判を聞きつけた大手デパート、スーパーからの駅弁イベントへの出品依頼もあったそうだが、「そんなに数はつくれない」と出品を断念したとか。まさに、津軽に行かなければ味わえない駅弁なのである。

最後になったが、掛け紙には路線図と沿線秋冬の歳時記、そして五所川原温泉マップを入れている。駅弁を食べた後も市内観光や思い出に役立ててもらえるようと考えて作成させていただいた。裏側には、ご飯やおかずのイラストとおしながきを入れた。旅の思い出に、ぜひ持ち帰っていただきたい。

津軽鉄道が走る広大な津軽平野は、これから稲穂が黄金色に、りんごが赤く実る収穫の秋を迎える。この駅弁をおともに、津軽鉄道の旅はいかがだろうか。