--サーキット走行は保障の対象外になるという記述がカタログにあるが

竹越潤治 三菱自動車工業 開発本部ドライブトレイン技術部エキスパート(ドライブトレイン試験担当)

竹越:ミニサーキットとかジムカーナなどで、スポーツ走行をされた程度でおかしくなるような強度ではありません。しかし、プロフェッショナルドライバーなど、あきらかにレースを主目的とするようなケースでは、保証の対象外とさせていただくということです。レース車両では際限がなくなってしまいますから。ただし、通常走行でも耐久性は10万キロを目標にしていますので、オイルは劣化していきますが、レースで使い続けてもすぐには故障が起こるというものではありません。

--ということはTC-SSTはレースを考慮しているわけではない?

竹越:現在のものは、そこまで考えているわけではありません。ただ、スリップすることで温度が上がりますから、ショックあり(スリップさせない)のレース専用設定にすればいけると思います。ただ、その場合でもクラッチプレートの交換が前提になるかもしれません。

今のところエボリューションとしてもレースに出すかどうかは考えていません。ただ、先日ラリーアート(RALLIART、レース活動やパーツ開発を行なう三菱自動車の子会社)で聞いた話では、足のご不自由な方がレースに出たいということで、ホモロゲーション(レース使用での承認)だけはTC-SSTも取りました。今までクラッチが踏めないからレースに出られかったという方が大変喜んでおられたというのは聞いております。

現在のTC-SSTでもスポーツ走行や、小さなレース程度なら問題ありません。ただ、これでスーパー耐久シリーズのレースなどに参加するというようなことはまだ何も決まっていません。ひとつは、TC-SSTはどうしても重量が重くなります。MT(マニュアルトランスミッション)はだいたい75kgくらいですが、TC-SSTは100kgぐらいになってしまう。ミッションがそれだけ重くなると、プロフェッショナルのドライバーは皆いやがりますね。

それと、WRC(世界ラリー選手権)はトランスミッションもクルマもなにもかも違います。あれのトランスミッションはF1にほとんど近いもので、シーケンシャルになっています。TC-SSTはホモロゲーションも取りましたので、日本のラリーなどには出られます。クルマ側のキットもいろいろ出ていますので、だんだん声が大きくなってくれば検討させていただくかもしれません。

TC-SSTのシフトレバー。レバー下にあるのがモード切替スイッチ

マニュアルでのシフトチェンジは、スティックシフトとハンドル裏のパドルで行なう

燃費向上のためゆっくりとシフトダウンするノーマルモード

--試乗したところシフトアップは非常に早いがシフトダウンは遅く感じた

竹越:MTでシフトダウンする時には、ヒール&トゥやダブルクラッチを使ってエンジンの回転数を合わせますが、TC-SSTも基本的にはMTなので回数を合わせる必要があります。この場合、一回ニュートラルにしてアクセルを吹かしてつないでやれば早いのですが、すると燃費的には厳しくなってくる。それと今はどのクルマでもそうですが、アクセルを戻した時や減速中にエンジンへの燃料供給をカットをして、燃料消費を減らしています。そこでクラッチを離すとエンジンが止まってしまいます。そこで「ノーマル」では燃料は出しませんが、エンジンを回したまま、クラッチをゆっくりつなぎ換えています。それでシフトダウンには少々時間がかかります。

「スポーツ」や「スーパースポーツ」モードでは、燃費は少々あきらめて、アクセルを吹かして早くシフトダウンできるようにしています。ノーマルは普通の街乗りを前提にしていますので、燃費を重視するため遅くなっています。ただ、同じような意見は多くいただいているので、次の機会にはもう少し早くしたものを用意しようと思います。

企画段階で議論しましたが、エボリューションのユーザーさんは少しづつ年齢層が上がっていて、クラッチがいらないという方が増えています。TC-SSTだけでいいんじゃないかという意見もありました。実際、今回のエボリューションは価格帯が上がったことや、クラッチペダルがなくなったので、年配の方や女性も運転されるようになりました。今までATに乗ってらっしゃった方が多いので、エンジンが勝手に吹け上がるのはおかしいという方も多いわけです。早くなくてもいいから、スムーズで滑らかに運転したいと。だから現在もいろいろと検討してるところです。

--TC-SSTでは動力の伝達ロスは少ない?

AT(トルコン)よりは絶対に少なくなっています。ではMTよりいいかというと微妙なところです。ひとつはMTをベースにしてること、それとオイルポンプも小さいもので効率は良くしていますが、MTには元々ありませんから、その分も考えないといけない。機械効率という点ではベアリングでの損失や歯車の伝達損失ということになりますが、それはMTと変わりません。

しかし、燃費はMTよりもTC-SSTのほうが少し良くなっています。それは変速制御を人間まかせにしていないからです。エンジンもより低回転を使いますし、常に効率よく変速することで燃費も向上しています。

聞き手・撮影:平 雅彦 (WINDY Co.)