次に続く「第二室 さまざまな文字の世界」のギャラリー2への通路の壁には、初公開となる浅葉氏の日記『浅葉克己日記』が壁一面に展示されている。2002年から2008年のものから選んでおり、浅葉氏曰く「個人名やちょっとヤバイことも書いてしまっているので、心配だ」。21_21 DESIGN SIGHTでの前回展に訪れた日記や亡くなったモデル・山口小夜子氏の肖像が描かれた日記も。筆者が個人的によく知る編集者の名前が書き込まれていたりして楽しい。そして、「第二室 さまざまな文字の世界」の広い空間には、文字通り、実にさまざまな文字の世界が展開されている。

ギャラリーへの通路の壁一面に『浅葉克己日記』が

『浅葉克己日記』浅葉克己 イサムノグチの作品をスケッチしている

『浅葉克己日記』浅葉克己 故・山口小夜子氏の肖像が描かれている

中央には杉浦氏がライフワークとして、その眼力で探し集めてきた図像とその意味を明かした『文字の靈力』が展示されている。杉浦氏が「自然の『かたち』をうつしとり、そのかたちに『いのち』をふきこんで産みだされた漢字」を中心に「生き生きとくりひろげられる『祈り』の文字、『いのち』ある文字、庶民が産みだした文字の祝宴」をまとめたものだ。香炉から立ち上る煙がつくり出した"壽"、凧に描かれた"龍"、小袖に描かれた"春"、クメール人の男性の身体に彫り込まれた文身(いれずみ)文字、祖先を彼岸に送る五山の送り火の"大"文字、とさまざまな人々の生活に根ざした痕跡を見る事ができる。

バナーのような形で掲示されている『文字の霊力』

『文字の霊力』杉浦康平 "壽(ことぶき)"

『文字の霊力』杉浦康平 "春"

『文字の霊力』杉浦康平 "大"

ギャラリー2に入って正面の『欧文書体と和文書体』は、字游工房(じゆうこうぼう)による「游明朝体(ゆうみんちょうたい)R」と米国のタイポグラファーのマシュー・カーター氏による「Verdana」を並べ、欧文と和文の文字量など違いを比較したもの。字游工房は大手写植機メーカーでスーボ、ゴナ、本蘭明朝など優れた書体をデザインしてきたデザイナーらが立ち上げた会社で、Mac OS Xに標準搭載されているヒラギノをデザインしたのも同社だ。

『欧文書体と和文書体』マシュー・カーター+字游工房、ディレクション:浅葉克己、制作協力:迫村裕子

この他、四季の詩が3D空間を踊るアンドレアス・ミュラー氏のインタラクティブ作品『For All Season』、世界中のあまりお目にかかれない文字でつくられた約30種類の『世界の新聞』や浅葉氏の手によるアジア各国の文字22種類を紹介した『世界の文字』、ベルギーのカリグラファー、ブロディ・ノイエンシュヴァンダー氏が流麗なカリグラフィーで旧約聖書「創世記」を表した『祈りのハタキ』、19世紀にナポレオン・ボナパルトが手がけたという腕木通信を浅葉氏が掛け軸に描いた作品、書家の土橋靖子氏が書いた『いろは歌』などなど。また、会場右手のガラスケースには、京都の藤井有隣館が所蔵する紀元前3世紀の秦の始皇帝が文字を統一した時の篆書体を刻んだ『始皇帝石権』をはじめとした重要文化財級のコレクションも展示されている。

『For All Season』アンドレアス・ミュラー

『世界の新聞』

『世界の文字』浅葉克己

『祈りのハタキ』浅葉克己+ブロディ・ノイエンシュヴァンダー

『腕木通信』浅葉克己(左)/『トンパタロット』浅葉克己(右)

『いろは歌』土橋靖子

『始皇帝石権』秦/紀元前3世紀(所蔵:藤井有隣館)

展示を見終わったら卓球で夕涼み?

最後の展示コーナーには円空の『護法神』、13メートルもの紙に日本中の仏や十二支などを刷った『九重守』、浅葉氏が理事長を務める東京タイプディレクターズクラブの二十年間の成果などが展示されている。サンクンコートには浅葉氏の『木、林、森』が展示されている。そして、再び『居庸関』の前に出ると、吉と凶をデザインした服部氏の新作『おみくじ』がある。ここが終点なのか、それともはじまりなのか、文字の世界はまだまだ終わらないかのようだ。

『九重守』(所蔵:平野英夫)

東京タイプディレクターズクラブの歴代受賞作品

『おみくじ』服部一成(協力:株式会社 山田写真製版所)

文字の世界にどっぷり浸かった後は、会場の外に設置された浅葉氏デザインの「稲田石の卓球台」へ。毎週金曜日の夕方には参加自由の「夕涼み卓球大会」が行なわれる。事によっては卓球六段の浅葉氏が相手してくれるかも?

『木、林、森』浅葉克己+内田繁

『稲田石の卓球台』浅葉克己