パーソナルエージェントに進化するケータイ

KDDIの小野寺正社長兼会長

無線通信技術、携帯電話端末の総合展示会「ワイヤレスジャパン2008」、2日目の基調講演に、 KDDIの小野寺正社長兼会長が「KDDIの拓くFMBCの世界」と題して登壇した。同社は携帯電話などモバイル通信と固定通信だけではなく、放送も含めて融合させていく「FMBC(Fixed Mobile and Broadcast Convergence)構想」を提唱している。FMBCを背景に、「携帯電話はパーソナルゲートウェイからパーソナルエージェントへと進化する」と同社は主張する。

FMBCとは、一般的な従来の固定電話、携帯電話、放送など、媒体を意識することなく、情報、コンテンツ、サービスを場所、時間にかかわらず、自在に利用できる環境を実現させるものだ。

まず、携帯電話の高機能化により、おサイフケータイによる電子決済、個人認証などが可能になり、利便性が向上した。さまざまな機能により、ヒトからヒト、あるいはモノへと情報を渡す。これがパーソナルゲートウェイであり「ほぼ実現している」(小野寺社長)段階にある。

一方、パーソナルエージェントは、ユーザーの状態や環境、過去の行動履歴などに応じて、最適な機能、情報、サービスを提供できるようにする。同社の場合、コンテンツ配信サービスの「LISMO」は当初、携帯電話向けに音楽を提供するサービスだったが、パソコン、さらには、ソニーの家電とも接続できるようになり、映画を丸ごと一本楽しめるようにまでなった。また、同社が最近開設した「じぶん銀行」は、携帯電話で振込みや預金管理ができる。携帯電話で音楽を聴きながら運動して、健康管理ができる「Run&Walk」もある。これらは、FMBCによるパーソナルエージェントの先駆けだという。

ケータイが最適コンテンツを推薦する

FMBCを支える技術的な基盤は、同社の「ウルトラ3G」構想だ。ADSL、FTTH、CATVから携帯電話まで、「さまざまなアクセス系サービスを、アクセス手段に依存しないで提供していける」(同)環境を実現する。さらに、これからのパーソナルエージェントを促進していく技術は「ユーザーエクスペリエンスの向上」と「通信・放送の方式技術」が鍵になると、小野寺社長は指摘する。

ユーザーエクスペリエンスの向上では、適切なコンテンツを推薦する「レコメンド技術」が注目される。エンドユーザーの、音楽・映像などコンテンツの視聴履歴、各種の購入履歴、特徴情報から、音楽や映画あるいは、別種類の物品を推薦することができる技術だ。これを応用すると例えば、ドライブしている際に携帯電話のセンサーが走っている場所、季節、運転者の嗜好などを認識し、それらの状況に適した音楽を自動的に選択して、カーオーディオ装置から流す、といった用途が考えられるという。

ケータイが最適なコンテンツを推薦してくれる

また「ウォークスルー自由視点映像」は、自由視点映像生成技術により、カメラの置けない視点の映像を生成することが可能になる。スポーツ中継などに利用した場合、視聴者が自分の視点を選択でき、実際に競技に参加している選手、あるいは大相撲の行司と同様の視点で、スポーツ観戦できるというものだ。同社では「ウォークスルー自由視点映像は、IPTVのサービスの要素になるのではないか」(同)とみている。

さらに「1Gbps高速赤外線通信インタフェース」は、現在普及している赤外線通信インタフェースの250倍の伝送速度を持ち、携帯電話とデジタル家電などの間で瞬時に大容量データのやりとりができる。100MBのデータであれば、0.8秒で転送が可能だという。小野寺社長は「これらのような技術が、新しいコンテンツの提供に結びつく」と語る。

OFDMA、MIMO、モバイルWiMAXに期待

「通信・放送の方式技術」では、これまでのCDMAにはなかったOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)とMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)が重要になるという。OFDMAは、周波数を複数の狭い帯域に分割し、それぞれにデータを載せて伝送する方式。狭い周波数帯域を、相互干渉することなく密に並べられるため、高速伝送を実現し、周波数の利用効率を上げられることが特徴だ。MIMOは送受信に複数のアンテナを用いることで、データ伝送を高速化する。

同社が出資しているUQコミュニケーションズに、2.5GHz帯の周波数の使用を許可する免許を交付され、高速無線通信システムのモバイルWiMAXがいよいよ2009年にサービス開始される。モバイルWiMAXは、下りの通信速度が最高40Mbpsで、時速200kmで移動中でも通信が可能なことなどが特徴だが、小野寺社長は、同技術に対応したノートパソコンが用意されている点や、世界標準仕様であることを高く評価している。

携帯電話をはじめ無線通信の世界は、技術革新が大きく進展しており、通信速度の高速化、そこで送受信されるコンテンツの高品質化などが図られている。これにより、インターネットが可能とするさまざま機能は、無線通信上に展開される場合も、固定通信と比べて、遜色のない領域に近づいている。それらの高度技術をいかにして、具体的なサービス、アプリケーションとして供給できるか、同社に限らず、携帯電話事業者の課題は、ここに焦点があるといえるだろう。