6月28日、沖縄・西原マリンパークでBEGINが中心となって開催した無料野外コンサート「うたの日カーニバル 2008」。沖縄県石垣島出身のバンド、BEGINの呼びかけにより2001年から始まったコンサートは、今回で8回目を迎えることになった。5万人以上の観客が集まった当日の模様をレポートする。

沖縄県内外から5万人以上もの観客を集めた「うたの日カーニバル」。出演者と観客の一体感は最高!

6月28日、沖縄・西原マリンパークでBEGINが中心となって開催した無料野外コンサート「うたの日カーニバル 2008」。沖縄県石垣島出身のバンド、BEGINの呼びかけにより2001年から始まった「うたの日カーニバル」は当初、1500人規模でのスタートだった。それが昨年から入場料を無料とし、会場の宜野湾市海浜公園に約3万人もの観客が集結。今年は会場を西原マリンパークに移し、沖縄県内・外から昨年を上回る5万人以上もの観客が訪れた。お年寄りから子供までが楽しめる"沖縄の夏のうた祭り"へと大きな変ぼうを遂げたのだ。純粋に"うた"やお祭り的な雰囲気を老若男女が楽しめる沖縄の地域に根ざした有意義なイベントである。

数ある音楽フェスティバルの中で、出演者と観客の間にこれほど垣根がない、有意義で温かなイベントがあっただろうか? 入場は何と無料。無料だからと言って、出演者のモチベーションが下がるはずもない。出演者のほとんどが、沖縄出身、もしくはゆかりのあるアーティストだからだ。観客は沖縄以外の人も訪れてはいたが、その大半は沖縄の人々だろう。出演者の1人であるさだまさしは、MCで「家族で聴くのが平和の象徴」と語った。戦時中、大声で歌うことができなかった時でも沖縄の人たちはひっそりと歌い踊ることで互いを励まし合ったという。沖縄戦が終わった6月23日(慰霊の日)の翌日6月24日を「うたの日」と定め、うたを歌えることをお祝いし感謝しようと始まった「うたの日カーニバル」。"うた"が身近にある沖縄とはいえ、このイベントに"ソウル"なるものを感じずにはいられなかった。

地元・西原町の太鼓サークル"舞葵琉(まいきりゅう)"のオープニングアクトでコンサートがスタート。お腹に響く力強い太鼓の音色と華麗な踊りを披露した。舞葵琉は、2005年東京国際和太鼓コンテストで世界第2位に輝いた実績の持ち主。現在は7~26歳までの地元の人々で構成され、そのほとんどが女性というから驚きである。

総勢19名で力強い太鼓と華麗な踊りを披露した舞葵琉

続いて登場したのは、沖縄出身の両親を持つアルゼンチン人日系移民2世の大城クラウディア。ルーツである沖縄の音楽を全面にフューチャーした『片思い』を1曲目に披露した。自身が沖縄三線を弾きながら彼女の口から発する美声は、まさに"歌姫"の名にふさわしい。続いてバラード『美しい島(くに)』を熱唱し、『昔美しゃ 今美しゃ』ではBEGINが特別参加! 栄昇のミステイクでやり直しの場面もあったが、会場から大きな拍手や指笛が巻き起こった。そして彼女を日本に連れてきた『島唄』を歌い上げ、惜しまれながらもステージを後にした。

美しい歌声を披露した大城クラウディア

静と美の大城クラウディアとは一転し、今度は沖縄出身のスーパーエンターテインメント集団、琉球チムドン楽団がカラフルな沖縄民族衣装をまとって登場! 普段は8人編成の彼らだが、この日は「うたの日カーニバル」特別バージョンとして15人編成で臨んだ。さすがに大編成とあって、歌あり踊りありと動きのあるパフォーマンスは圧巻の一言だ。演奏曲目は『輪廻転生』『琉球ロマン紀行』『ティーダ夏劇場』『旅立ちの詩』。『ティーダ夏劇場』は「ダウンタウンDX」(日本テレビ系)のエンディングテーマに使用されている。

総勢15人のスペシャル編成で登場した琉球チムドン楽団

この日は、県外出身のアーティストも登場。まずは、"エンケン"の愛称で知られるシンガーソングライターでフォーク、純音楽家などジャンルを超越したパフォーマンスで観客の視線を釘付けにする遠藤賢司。冒頭の『不滅の男』では、アコースティックギターをかき鳴らしながら叫ぶようなボーカルで早くもエンケンパワーが炸裂! 「記念撮影を撮らせて下さい」と言って観客を沸かせたMCを挟み、『不滅の男』と一転してバラード『カレーライス』をしみじみと歌い上げた。その後は『夜汽車のブルース』を熱唱。そして最後に披露した名曲『夢よ叫べ』の後、ギターを持ちながら会場を走り回り、観客の度肝を抜いた。還暦を越えた年齢とは思えないパフォーマンスに脱帽だ。

ギターとブルースハープ、ボーカルと1人3役で会場の視線を釘付けにした遠藤賢司

そして、長崎で2006年まで20年間無料コンサート(昨年は広島で開催)を続けたさだまさし。"無料コンサート主宰者の先輩"としてBEGINにバトンを渡した彼が、冒頭から代表曲『案山子』を熱唱した。「BEGINが俺の思いを受け継いで、沖縄で種をまいてくれた。こんなにたくさんの花が咲いているのを見たら、感激しちゃってね。ああ、俺長崎で歌い出して良かったなと思ったの。BEGINはこれから借金するから皆助けてあげて(笑)」と会場を笑わせた。2曲目の『無縁坂』を挟み、3曲目は観客と一緒に『北の国から』を歌い上げ、この頃から観客席の前方にあったスタンディングエリアに溢れんばかりの観客が押し寄せる。その後は『関白宣言』、『風に立つライオン』を披露。MCでは「こういう時に盛り上がる歌がなくてごめんね」と笑わせたが、これだけの規模の会場を盛り上げる力量はさすが。

誰もが知ってる『北の国から』を披露したさだまさし。会場全体が大合唱!

そして、ラストアクトは、もちろん同イベントの主催者、BEGIN。冒頭に代表曲『島人ぬ宝』を熱唱すると、スタンディングエリアのみならず、会場の至るところで立ち上がる観客も。沖縄でいかにBEGINが愛されているのかを改めて知る。2曲目『涙そうそう』は同イベントのハイライト。さだまさしがヴァイオリニストとして加わり、BEGINとさだまさしの夢のコラボレートが実現した。そしてノリのいい『オジー自慢のオリオンビール』、『オバー自慢の爆弾鍋』では、会場の興奮度もヒートアップ。指笛の音が至るところで鳴り響く。小さな子供を肩車にする親御さんなど、微笑ましい光景があちこちで見られた。『かりゆしの夜』は同イベントのビックサプライズだ。こちらは地元の琉楽団がステージや観客席のエリアを仕切る通路で和太鼓や踊りを披露してBEGINを強力にサポート。まさに会場全体が一体化した瞬間だ。そして6月25日に発売された『僕らのこの素晴らしき世界』を最後にイベントの幕を閉じた。

『涙そうそう』では、さだまさしがヴァイオリニストとして参加

ラストアクトでこの日一番の盛り上がりを見せたBEGIN。来年も良い歌の日を…

沖縄の地を初めて訪れ、初めて取材した「うたの日カーニバル」。沖縄では音楽が生活と密着し、人々がこれほど音楽を愛しているのかと、思い知らされた。沖縄音楽は、総じて独特なリズムや音楽観があり、筆者の独断かもしれないが、何となくケルトミュージックやブラジル音楽に通じる、その地域に根付いた土の匂いがする。若い音楽ファンも、かつては音楽好きだった中高年の方も、全ての音楽ファンに観て頂きたいイベントである。

WOWOWでは、同イベントの模様を2時間に凝縮した「うたの日カーニバル 2008」を7月21日(18:00~20:00)に放送する。