昨年12月に増田寛也総務大臣が携帯電話各社へ、未成年者が使用する携帯電話に原則としてフィルタリングサービスを設定するよう要請したことが各方面に波紋を広げている。「原則加入」という行政指導に近い拘束性を感じさせる内容や、フィルタリングの中身についての議論がほとんどないままでの要請だったことに対し、21日に開かれた慶應大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構(DMC機構)のフォーラムでは、数多くの批判の声があがった。

フィルタリング不要の場合は親権者の申告が必要

増田寛也総務大臣は昨年12月10日、携帯電話・PHSにおけるフィルタリングサービスの一層の導入促進に向けた取り組みを強化するよう、携帯電話事業を展開する各社に要請した(出典:総務省資料)

増田大臣の要請は、既存契約者に対しても、全ての18歳未満の契約者に関し、フィルタリングサービスの利用を原則とした形で意思確認を実施することなどが盛り込まれた

モデレーターを務めた、慶大DMC機構教授の中村伊知哉氏

同フォーラムの名称は、「インターネット上の安全・安心に関する緊急フォーラム - 未成年者向け携帯フィルタリングサービス原則化の是非を問う」。慶大DMC機構教授の中村伊知哉氏をモデレーターに、総務省 総合通信基盤局 消費者行政課 課長補佐の岡村信悟氏、モバイル・コンテンツ・フォーラム事務局長の岸原孝昌氏、ディー・エヌ・エー社長の南場智子氏、デジタルアーツ社長の道具登志夫氏、慶大DMC機構准教授の菊池尚人氏、CANVAS副理事長の石戸奈々子氏ら6人がパネリストとして参加した。

初めに総務省の岡村氏が、フィルタリングサービスに関する同省の取り組みについて説明した。2007年4月、当時の安倍晋三総理大臣を本部長とする「IT戦略本部」において、「IT新改革戦略 政策パッケージ」が決定。この中で、出会い系サイトなどの違法・有害情報に対する集中対策を「IT安心会議」(内閣官房、関係省庁により構成)において取りまとめることが決定された。

総務省 総合通信基盤局 消費者行政課 課長補佐の岡村信悟氏

その後同年10月のIT安心会議において、「インターネット上の違法・有害情報に関する集中対策」がとりまとめられ、携帯電話などにおけるさらなるフィルタリング導入促進策について、2007年度末(2008年3月末)までに同会議の下で、総務省が中心となって取りまとめることが決まった。

こうした流れをうけ、増田寛也総務大臣は昨年12月10日、青少年を有害情報から守るという観点から、携帯電話・PHSにおけるフィルタリングサービスの一層の導入促進に向けた取り組みを強化するよう、携帯電話事業を展開する各社に要請した。

同要請は、青少年におけるフィルタリングサービスの導入促進活動の強化策として、(1)新規契約者に対し、契約時にフィルタリングサービスの利用を原則とした形で親権者の意思確認をする、(2)既存契約者に対しては、全ての18歳未満の契約者に関し、フィルタリングサービスの利用を原則とした形で意思確認を実施する(不要の場合は親権者からの申告が必要)、(3)18歳未満の使用者に関し、親権者である既存契約者に対して、フィルタリング利用の意思確認を実施する、といったことが主な内容となっている。

総務大臣の要請が事実上のデフォルトになるのは疑問

岡村氏の後に発言したモバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)の岸原氏は、この要請内容に関し、「どういうフィルタリングを使うか全く示されていない」と指摘。「どのカテゴリをフィルタリングするかということは、基本的には個人個人が決めることで、これを国がやるということになると検閲になる。現状は、通信事業者が任意で決めている状況にあり、非常に問題がある」と述べた。

モバイル・コンテンツ・フォーラム事務局長の岸原孝昌氏

さらに、「フィルタリングには、携帯電話事業者が独自に定めた掲載基準を満たしたサイト(公式サイト)のみを閲覧できるようにする『ホワイトリスト方式』、出会い系サイトやギャンブル系サイトなど同事業者が独自に判断した特定のカテゴリに属する一般サイトへのアクセスを有害か健全かに関わらず制限する『ブラックリスト方式』がある」と説明。

フィルタリングには、「ホワイトリスト方式」と「ブラックリスト方式」がある

ブラックリスト方式でカテゴリによって一律にフィルタリングすると、ブログやSNSなどのコミュニティ系サイトや電子書籍サイトのほとんどがフィルタリングされてしまう

その上で、「これらの方式を採用すると、出会い系やギャンブル系以外の、ブログやSNSなどのコミュニティ系サイトや電子書籍サイトのほとんどがフィルタリングされて、未成年はこれらのサイトを一切閲覧できなくなる。掲示板のあるサイトも同様だ」とし、「青少年の創造力を育むこうしたコミュニテサイトや掲示板が見られなくなることは、国家にとっても大きな損失」と問題提起した。

さらに、その他の問題点として、「フィルタリングに加入したくない場合は、親がわざわざ携帯ショップに行って解約手続きをとらなければいけないという点もおかしい」と指摘。「こうしたことは現実上は難しいのではないか。今回のフィルタリング加入の要請は、事実上のデフォルトになる可能性が高い」と説明、こうした状況を改善するには、「フィルタリングの普及を行うための第三者機関を設立してはどうか」と提案した。