事故の多くは人間のミスによるものだ。よそ見をしていた、居眠りしていたという明らかなミスもあるし、夜間で障害物を見づらいといった能力的なものもある。今回のショーでは、それら人間のミスや能力を技術でフォローしようという試みも多く見られた。すでに実用化されているものも含め、いくつか紹介しよう。

車体のふらつきで運転者の異常を感知する

どんな目のいい人でも夜間はものが見づらくなる。これは仕方のないこと。それを暗視カメラと画像認識技術でフォローし、運転者に注意を促すシステムがいくつも開発されている。たとえばホンダのレジェンドにオプションで用意される「インテリジェント・ナイトビジョンシステム」のような技術だ。

感度の高いカメラで前方を常に監視し、クルマや人影らしきものを認識。それには高いパターンマッチングの技術が使われている。最近デジタルカメラでは顔認識機能が増えているが、それのより高度なものと考えればいいだろう。また、暗視カメラを2機(ステレオで)用意すれば距離の計測も可能になるから、障害物がどのぐらい先にあるかも知ることができる。

この画像認識を前方の危険物認識ではなく、運転者の状態判断に使うのが三菱ふそうの「MDAS-III」だ。たとえば車線を常に認識し、クルマがが蛇行しているようなら注意が不足しているか、居眠りしかけていると判断し、運転者に警告を出す。これはふらつきだけでなく、ハンドル修正量やウインカーなど、総合的に判断しているという。走行開始から15分間でドライバーの運転特性を学習するため、個人のクセにも対応できるというからすごい。長時間運転することの多い長距離トラックのドライバーなどにはありがたいはずだ。

車体のふらつきなどではなく、運転者そのものを写して判断するシステムもある。東陽テクニカの「運転者トラッキングシステム」は、運転者の視線方向、頭部の位置・方向、まぶたの動きなどをリアルタイムで計測する。つまりまぶたが閉じたり頭が下がることが多ければ居眠りだと判断できるわけだ。夜間は運転者を照らす明かりが必要だが、赤外線を使うことで眩しくならないようにしている。

三菱ふそうの「MDAS-III」の画面。センターラインをカメラで撮影し、リアルタイムで車体のふらつきを検知する

「MDAS-III」の別の説明画面。車体がうねるように動いていた

東陽テクニカの「運転者トラッキングシステム」。まぶたや頭の傾きを検知する

ナイトビジョン用カメラ。このカワサキのデモ車ではミラー部分に埋め込まれていた

運転者に対してどのように警告を出すか?

装置が危険を察知したときに、運転者にどのように警告を出すか? クルマであればメーターパネルなどが点滅したり、音で警告を出すことができる。ヘッドアップディスプレイでフロントガラス上に何かしらの信号を映すことも可能だろう。やっかいなのは二輪車だ。風きり音で多少の音は聞こえないし、前方を見ているとメーターの点灯に気づかないこともある。 カワサキのブースで展示されていたのは「HMDシステム」と名づけられたもので、ヘルメット開口部の上部に小型のスクリーンを置き、そこに表示を出すもの。これなら視界を妨げないし、何かあればすぐに気付く。また、ヘルメットから音を出す装置も展示されていた。 バイク乗りなら知っていると思うが、コーナーの奥まではヘッドライトの光が届かないもの。バイクは車体が傾くため、横方向に広がる光は手前しか照らさないのだ。カワサキが展示していた「配光可変ヘッドランプ」は、バイクが傾くとそれに合わせてヘッドライトが回転し、コーナーの奥まで照らしてくれるというもの。 単純な気がするが、いままでこれがなかったのは、バイクがどのぐらい傾いているか計測するのが難しいため。クルマのようにハンドル切れ角では検出できないのだ。「配光可変ヘッドランプ」では、車速とヨーレート(車両が回転する速度)から傾きを計算し、それに合わせてヘッドライトを回転させている。実に凝ったことをしている。

カワサキの「HMDシステム」。下のモニターがライダーの視界。上部に緑の表示が出ているのがわかる

同じくカワサキのヘルメット搭載型情報提供装置

回転してコーナーの奥まで照らす「配光可変ヘッドランプ」

実用化されたコーナーを補助する技術

カメラで写した画像を警告に使うだけでなく、さらに積極的に運転支援に使うシステムもある。ホンダが実用化している「LKAS(Lane Keeping Assist System)」だ。高速道路で速度65km/h以上、半径230m以上のコーナーで、ステアリングにトルクを与えてハンドル操作を補助する仕組み。ちなみに「LKAS」はミリ波レーダーを使った先行車との車間制御機構「IHCC(Intelligent Highway Cruise Control )」とセットで使われ、「HiDS(Honda intelligent Driver Support system)」と名づけられている。

カメラは使わないが、車体の横滑りを感知すると、4個のブレーキとエンジン出力をコントロールして横滑りを抑えるのがトヨタの「VSC(Vechicle Stability Control)」。たとえば後輪が滑った場合は主に前輪外側のタイヤにブレーキをかけ、同時に出力を抑制して車体を安定させるといった動きをする。テクニックがあれば滑りを抑えることもできるが、さすがにブレーキを片側だけかけることはできない。人間以上の働きをする技術の代表だろう。

「HiDS」や「VSC」はすでに実用化されている技術ということもあり、ショーではメーカーブースでなく、「くるまの技術、10年」という特別ブースに展示されていた。

ホンダの「IHCC」の説明ビデオ。前車との距離を測定し、車間を自動で制御する

トヨタの「VSC」の説明ビデオ。スリップしやすい路面でもスムースに走り抜ける