拡大するアウトドア市場

ひとときより落ち着きを見せる登山人口。レジャー白書によれば2014年の登山人口は840万人で前年より70万人増えた。特に顕著なのは高齢者層の活動で、60代の男性10.4%・女性10.7%、70代の男性11.5%、女性12.9%が登山を行っており、単純にその年代の10人に1人以上が登山を行っていることになる。これは40代女性の3.5%や30代男性の7.9%などど比べて高い数字だ。

比較的資産に余裕のある高齢登山者の増加は、アウトドア用品市場の拡大にもつながっている。同じくレジャー白書によれば2014年の登山用品市場(キャンプ用品を含む)は1,950億円で前年から60億円(前年比103.2%)伸びた。ここ10年を見ても2004年の1,470億円から年間の伸び幅は大きくないものの底堅さをみせている。釣り用品(2004年 2,060億円 → 2014年 1,600億円)や、スキーやスノボード用品(同1,910億円 → 同1,410億円)と比べてみても、安定した需要がうかがえる。

別の矢野経済研究所による「スポーツ用品市場に関する調査結果」においても、2014年のアウトドア用品市場は1,812億1,000万円と推計されており、前年比104.0%で緩やかではあるが市場規模の拡大を同じく裏付けている。

登山用品の特徴としては、山中での性能や軽量化を重視しており比較的高単価であること、また競合が多くないため大幅な値下げをせずに売れることが特徴となっている(軽量化などを重視しないオートキャンプ用品には安価なものも多い)。

富士山 ご来光登山

また登山用品には消耗品があまり無い一方で、登山スタイルを広げていくのにあわせ新たな用品が段階的に必要になる。最初は日帰り登山でザックや雨具、登山靴だったのが、テント泊をすればテントやシュラフ、冬山であればアイゼンやピッケル、クライミングに興味を持てばハーネスやヘルメット……といった具合だ。登山スタイルの広がりを横軸とすれば、縦軸にはそれぞれの製品のグレードアアップがあり、特に登山を始めた数年から10年程度は他と比べても、継続的に費用がかかるレジャーといえる(逆に一通り揃えたあとはメンテナンスを十分にすれば長期間使えるものが多く、必要というよりも憧れや新しいもの好きといった理由での購入が増えてきたりする……)。

登山者の成長が市場拡大の鍵

店舗にとっては、これら初心者や登山を始めたものの次にどのような道具を揃えればいいのかわからないといった層をステップアップさせることが重要だ。登山用品はインターネットで探せば格安で手に入る……といったことはあまり多くない。そのため店舗のショールーミング化もおきにくく、店舗にとってはライフタイムバリュー(LTV : 顧客生涯価値)の高い顧客をいかに抱えるかがポイントとなっている。

また、店舗のみならずメーカー、そして山岳ガイドや山小屋関係者にとって、今後、日本がさらに少子高齢化が進む中で新たに登山を始める人を増やすことが大きな課題だ。そのため、店舗やメーカー主催の登山入門ツアーが広く行われており、また店舗スペースを利用した地図読みや冬山登山装備などの机上講習会も数多く開催されている。

実際に、都内某所で開かれた無料の冬山装備の机上講習をのぞいてみた。参加者は30代~40代を中心に15人ほど。山岳ガイドが店舗内のスペースを借りて開いたこの講習会では、店舗としては必要な装備をこれから購入してもらうことを期待し、山岳ガイドは講習会をきっかけに入門ツアーの顧客開拓を狙っているが、それよりもまずは登山人口あるいは登山スタイルを広げてもらう、そして安全に楽しめる登山をしてもらうことを考えているようだ。

この他にも、国内登山旅行に強みを持つ毎日新聞旅行(まいたび.jp)やクラブツーリズムなどの登山ツアーも人気だが、課題となっているのは"初めての登山"開拓だ。