人事システムの導入は、中小企業の人事業務を効率化する有効な施策の1つです。本稿では、具体的に解決できる課題と導入メリットについて解説するとともに、製品の選定ポイントと、中小企業におすすめの人事システムを紹介します。
人事システム導入により中小企業が解決できる5つの課題
人事システムを導入することにより、中小企業の抱えがちな以下の課題を解決できます。自社に当てはまる課題があるかどうか、ぜひチェックしてみてください。
1、雇用形態が複雑で管理が大変
社員が少ない中小企業では、人員の不足をアルバイトやパートといった雇用形態で補うケースも多く見られます。雇用形態が違うと、勤怠管理や給与計算が複雑になり、管理が大変です。手計算で対応していると人的ミスが発生する可能性もあり、手戻り作業が発生してさらに負担が大きくなることもあります。
2、人の出入りが多く労務管理の負担増大
アルバイトやパートが多い中小企業の場合、人の出入りが多くなる傾向があります。入社・退社の手続きは、役所とのやり取りも発生するなど手間のかかる業務です。人の出入りが多ければそれだけ労務管理にかかる負担は増大します。
3、事業拡大期で大量雇用が続き人事業務全般の負担増大
中小企業は、ある時点で大きく事業を拡大することも考えられます。事業拡大期は人員も多く必要となるため、大量雇用が続きます。管理するべき人数が増えると、労務管理、勤怠管理、給与計算など人事業務全般の負担も大きくなり、手作業での管理では追いつきません。
4、人材育成が必要なのにリソースに余裕がない
中小企業の場合、従業員一人一人の能力向上が、業績向上に直結します。そのため人材育成も重要な課題です。しかし指導に当たる人的リソースに余裕がない、というケースも少なくありません。人材育成に充てるリソースに余裕がないことから、従業員一人一人に合わせた教育も難しい状況です。
5、人手不足で残業が多く人材が定着しづらい
少子高齢化が進み、新卒の従業員確保が難しくなる中、中小企業は、今の従業員を適材適所で効率よく働ける環境を作る必要があります。しかし現実は目の前の業務を残業して処理することでしのぎ、負荷に耐えられなった従業員が退職するなど、人材が定着しづらい状況に陥りがちです。
中小企業が抱えがちなこれらの課題は、人事システムを導入することで解決できます。次に、人事システムの導入メリットを具体的に見ていきましょう。
中小企業にとっての人事システム導入メリット5つ
中小企業が人事システムを導入することで得られるメリットは、以下の5点です。
1、人事関連業務の大幅な効率化
人事関連業務は多岐にわたります。従業員情報の管理、採用管理と人事評価業務、入社・退社時や年末調整などの労務管理、勤怠管理に給与計算は、すべて人事関連業務です。これらの業務で利用する各種データは共通の情報も多く、他の業務で利用する際転記したりデータを移行したりする手間がかかります。
人事システムを導入すると、データを入力した段階で人事関連のデータを一元管理でき、データを転記するコストは不要です。集計も自動で行われるため、Excel等を使う必要もありません。結果として人事システムによる人事関連業務の大幅な効率化が可能となります。
2、手続書類のペーパーレス化で承認終了までの期間を大幅短縮
労務管理の手続きや勤怠管理といった手続書類の承認処理を紙で行うと、承認者が出張しているときや多忙なときなどに処理が滞りがちになります。また、書類は役所で手続きする必要もあり、担当者の負担は大きいものがあります。
人事システムで労務管理機能を持つ製品の多くは、役所に届出が必要な書類のペーパーレス化と役所への電子申告を可能にします。承認処理もシステム上で完結でき、役所への手続きも、わざわざ役所まで足を運ぶ必要がありません。このため、労務手続き全体にかかる時間を大幅に短縮化できます。
3、離職率低下と定着率の上昇
人事システムの採用管理機能やタレントマネジメント機能によって、人材の適材適所の配置や、従業員に合わせて人材育成が可能となります。結果として、従業員はより実力を発揮しやすい働き方ができるようになり、離職率の低下・定着率の上昇が期待できます。
4、市場や経営方針に適した人材の確保
従業員の業務能力やスキルなどを人事システムで一元管理すると、全社で不足しているスキルや、今後必要となるスキルを持つ従業員の人数が明確になります。これからの市場や経営方針に適した人材を確保する際、どういう人材を重点的に採用するかが明確になり、より効率的な人材確保も可能です。
5、従業員のモチベーション向上
人事管理システムで従業員の業務能力やスキルを正確に把握できるようになると、実力があり業績にも貢献している従業員を正当に評価できるようになります。昇進・昇格の際、実力を伴わない従業員を選んでしまうミスもなくなり、正当に評価されたという納得性から従業員のモチベーション向上にも期待できます。
このように、少ない人材で事業を展開する中小企業こそ、人事関連業務の効率化と人材活用に役立つ人事管理システムの恩恵を多く受けられます。では、実際に人事システムを選ぶときには、どういう点を確認すればいいでしょうか。
人事システムの選定ポイント5つ(中小企業編)
人事システムを選定する際のポイントの中でも、中小企業向けのポイントを5点紹介します。
1、求める機能が揃っているか
一番に確認するべきポイントは、自社の就業規則や承認処理などに適用できる機能が揃っているかどうかです。特に注意したいのは勤怠に関するルールで、以下のポイントがマッチするかどうかを確認しましょう。
- シフトパターンやシフト作成が複雑
- 雇用形態(正社員・アルバイトなど)や勤務形態などが何パターンもある
- 独自の有給休暇の付与ルール
- 中休みなど特殊な勤務形態のみに発生する手当がある
2、操作性の確認(無料トライアルの有無)
人事システムは、従業員や人事担当者それぞれ利用するため、使いやすさが業務効率化に直結します。無料プランや無料トライアル版で操作性を確認できる製品を選びましょう。
3、費用対効果の比較(提供形態)
人事システムの提供形態は、自社でシステムを構築するオンプレミス型と、インターネット上に公開されているサービスを使うクラウド型に分かれます。従業員の人数が少なく運用のコストも負担になりがちな中小企業の場合は、クラウド型の製品がおすすめです。
また、ずっと無料で利用できる人事システムもあります。しかし無料だと利用人数制限や機能制限があったり、サポートが手薄だったりと、企業が使い続けるには難しい点がネックです。できれば、無料版は動作確認に留め、最初から有料版の人事システムを導入することをおすすめします。
4、導入後のサポートの有無
システムの導入直後は、使い方がわかりにくかったり、トラブルがあったりして、人事担当者への問い合わせが多くなりがちです。人事担当者の負担が大きくなると、従業員数の少ない中小企業ほど、本業にも影響が出てしまいます。人事担当者の負担を軽減するために、導入後のサポートがある製品を選びましょう。
5、他システムとの連携
すでに人事系のシステムを自社に導入している場合は、そのシステムと連携できるかどうかも重要なチェックポイントです。既存のシステムと連携できないと、データ連携の手間がかかりますので注意しましょう。
人事システムを選ぶポイントについて整理しました。最後に、中小企業におすすめの人事システムを具体的に紹介します。
中小企業におすすめの人事システム4選
中小企業に適したクラウド型で少人数でも使える人事システムをご紹介します。いずれもクラウド型で導入しやすい価格です。使いやすさや自社の就業規則、課題に合ったシステム選びにぜひお役立てください。
人事評価・目標管理を強化したい場合に「あしたのクラウドHR」
株式会社あしたのチーム
- 価格:お問い合わせ
- 提供形態:クラウド
- 対象従業員規模:全規模
- 導入までの期間:お問い合わせ
「あしたのクラウドHR」は、人事評価や目標管理を効率化するシステムです。中小企業の場合は、人事評価制度自体がない場合もあるのではないでしょうか。本製品は、人事評価制度の構築支援や運用支援のサポート体制があるため、これから人事評価制度を構築したいという企業にも適しています。
また、すでに人事評価制度がある場合は、現状の制度をそのままシステム化可能です。導入前に、現状の人事評価制度について改善のアドバイスも受けられるため、よりブラッシュアップした制度にすることもできます。
従業員の情報は写真付きで確認できるため確認しやすい点も魅力です。また、評価データと社員情報を一元管理しており、次期の給与シミュレーション機能も提供。人件費がどのように変化するかも把握しやすくなっています。
シリーズ全体で人事業務全体のシステム化も「ジョブカン労務管理」
株式会社Donuts
- 価格:400円~/ユーザー
- 提供形態:クラウド
- 対象従業員規模:全規模
- 導入までの期間:お問い合わせ
「ジョブカン労務HR」は、労務管理のペーパーレス化とe-Govによる役所への電子申請対応で、従来の労務管理業務を大幅に効率化できるシステムです。マイナンバーを含む従業員情報の一元管理と各種手続きのオンライン化など機能豊富で、労務管理の業務効率化が進みます。
また、同じシリーズの勤怠管理や給与計算、採用管理も導入すれば、人事業務全体のシステム化も可能です。まずは労務管理からシステム化して、順次他の業務のシステム化を進めることもできます。なお、サポート体制は、メール・電話・チャットの3種類。対面のサポートはありません。
本製品は、人の出入りが多く労務管理が負担となっている場合や、段階的に人事関連業務をシステム化したい場合におすすめです。
労務手続きの自動化や進捗管理に「jinjer労務」
株式会社ネオキャリア
- 価格:300円~ /ユーザー
- 提供形態:クラウド型・パッケージソフト・SaaS・ASP・サービス・その他
- 対象従業員規模:全規模
- 導入までの期間:お問い合わせ
「jinjer労務」は、労務手続きをオンライン上で完結でき、進捗管理もしやすい労務管理システムです。他のjinjerシリーズも併せて導入すると、人事関連業務全体をシステム化できます。
本製品の特徴は、各種手続きの進捗状況を可視化し、スケジューリングやToDoの登録が可能な点です。これらの機能を活用することで、手続き漏れや締切日オーバーなどのミスを防止できます。
クラウド型ですが、データは1企業1データベース。機密情報の暗号化やSSLによる暗号化通信、監査ログの取得などセキュリティ面の機能も豊富です。
労務手続きの進捗管理を重視したい場合や、セキュリティが気になる場合には、本製品をおすすめします。
まずは従業員情報を収集・一元管理したい場合に「マネーフォワード クラウド人事管理」
株式会社マネーフォワード
- 価格:お問い合わせ
- 提供形態:クラウド
- 対象従業員規模:全ての規模に対応
- 導入までの期間:お問い合わせ
「マネーフォワード クラウド人事管理」は、クラウド会計サービス「マネーフォワード 」シリーズの製品です。マネーフォワードの人事系システムの基本情報となる従業員情報の収集し、従業員と組織の情報を一元管理します。
本製品で管理する従業員・組織情報は同シリーズの給与計算・勤怠管理・社会保険などのシステムと連携。シームレスに連携できるため、人事異動があるたびに他のシステムへデータを転記する必要もありません。
本製品は、まず従業員情報や組織情報を一元管理して、給与計算や社会保険の手続き、勤怠管理など面倒な業務を順次システム化したい場合におすすめです。
人事システム導入で中小企業も人事業務を効率化しよう
人事システムは、中小企業にとっても導入のメリットが大きいシステムです。人事関連業務は非常に範囲が広いため、どこからシステム化するかも含めて、製品を比較検討しましょう。
繁雑な給与精算業務からシステム化する、人材を適材適所に配置して活用したいなど、優先する課題を明確にすることで、最適な製品は異なります。導入の際は、複数の製品をよく比較して選んでください。