戦略コンサルタント、投資銀行・ファンド、外資系エグゼクティブ、起業家など1000人を超えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援してきた渡辺秀和氏(株式会社コンコードエグゼクティブグループ 代表取締役社長CEO)が、キャリアアップを目指すビジネスパーソンの疑問・お悩みに答えます。
今回のお悩みは「副業に関心があるのですが、どのような観点から選ぶとよいでしょうか」です。
副業はキャリアの飛躍にも停滞にもなる
近年、働き方の多様化が進んでいます。それに呼応するように、企業側も就業規則を緩和する動きが強まっています。私たちのクライアント企業でも、副業を許可するところがかなり多くなりました。一流企業に勤めるビジネスリーダーにも、副業という働き方が定着しつつあるといえるでしょう。
2022年に労働政策研究・研修機構が実施した全国調査で、「副業する理由でもっともあてはまるもの」を尋ねたところ、「収入を増やしたいから」が33.7%と最多。そして、「1つの仕事だけでは収入が少なくて、生活自体ができないから」(26.2%)が続きました。 このように、収入を底上げする手段として副業をはじめている方が多いようです。実際、現職の給与水準が低いというご事情がある方にとっては、副業によって収入を補う必要に迫られる場合もあるでしょう。
一方で、副業はキャリアの飛躍につながることもあれば、キャリアの停滞を招いてしまう可能性もあるのが現実です。副業と本業をどのように調和させるかが、キャリア形成において重要なポイントとなります。
そこで今回は、副業を活用してキャリアを飛躍させるための考え方をお伝えします。
キャリアを飛躍させる副業とは?
よく知られている通り、人材市場で高い評価を得やすいビジネスパーソンとは、何でも70点ずつ取れる人よりも、特定の分野で100点や120点を取れるような、「明確な強み」を持つ人です。
成績のバランスを示すクモの巣チャートで表せば、デコボコの少ない「まるいキャリア」よりも、好きな分野や得意な分野のスキルが飛び抜けて高い「とがったキャリア」のほうが、企業から高く評価される傾向にあります。
そうだとすれば、ご自身が現在の職場や仕事にやりがいを感じていらっしゃる場合は、副業に時間や労力を割くよりも、本業を通じてキャリア形成していくほうが「王道」といえます。
一方で、副業は新たなキャリアを模索する上で有効な手段になり得るのです。その方法は、大きく2つに分けられます。
1.未経験の仕事を「小さく経験する」
「今とは異なる業界の仕事へ転職したい」「いずれはライフワークとなる仕事に転身したい」といった、キャリアチェンジへの意欲をお持ちの方も少なくないでしょう。現在は金融業界で働いているものの、幼児教育の業界に興味がある方や、営業職にありながら「事業開発の仕事が面白そう」と感じている方などです。
30代前半くらいまでの方であれば、未経験の領域であっても「ポテンシャル採用」の枠を開いている企業が数多くあります。ただ、年齢層が高くなるにつれて、ポテンシャル採用のチャンスが減ってしまうのも現実です。
そこで一考に値するのが、未経験の仕事を副業によって経験するという方法です。
現職では経験できないような仕事であっても、副業を通じて少しずつ実務に触れられれば、転職の際に経験やスキルをアピールすることができます。
また、実際に取り組んでみないと、ご自身の「好き嫌い」や「向き不向き」が分からないものです。興味を持った領域に短期的に携わり、自分自身の適性を確かめてみるために副業を活用するのも選択肢の一つです。
副業を本格的なキャリアチェンジのための「助走期間」「スキル習得の期間」と位置付けたうえで、たとえば平日の夜や週末を利用して、興味のある業界の企業やプロジェクトに部分的に参画し、ご自身の経験やスキルを増やしていくのです。「目的」は収入を得ることではありませんので、無報酬であってもよいでしょう。
実際、週末に自分が関心を持っている分野のNPOに参加したり、ボランティアでスタートアップのプロジェクトに関わったりしている方もいらっしゃいます。
このようにして副業で築いた経験や人脈をもとに、ある程度の段階で転職という選択をすれば、全く未経験の状態よりも企業側の評価を得やすくなるでしょう。
2.ネクストキャリアの基盤をつくる
40代~50代など、現職引退後のキャリアを見据えている方々にとって、副業は次のキャリアステップへの有効な手段となります。特に、独立を目指す方々にとって、副業は将来の事業基盤を築くための第一歩として重要です。
最近では、これまでの経験や専門知識をいかして専門的なブログを立ち上げたり、講演活動に励んだりする方が増えています。
今や、ネットでの配信や生成AIを使った動画作成が、誰でも容易にできる時代です。これらのツールを使って、より多くの人々に届く形で自らの専門知識を発信することが可能になっているのです。
起業を強く志向しているからといって、いきなり独立に踏み切るのはリスクが伴います。そのため、現職で安定的な収入があるうちに、副業の形で顧客基盤を整えるなどの準備を進め、次のキャリアに向けた土台を築くという考え方は大切です。
このように、副業を単なる収入の手段と捉えるのではなく、目的を明確にして計画的に取り組むことで、将来の独立や新たな挑戦に備えられます。
「ライバルに差をつけられない」副業とは
副業が身近になる中、「お小遣い稼ぎ」の感覚で気軽に関心を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、一種の気晴らしやお小遣い稼ぎに多くの時間や労力をかけすぎると、注力すべきメインの仕事や、将来的にチャレンジしたい業務への準備がおろそかになってしまいます。
多くの方にとって、心の豊かさは副業を通じてよりも、やはり本業での活躍によって得られるものではないでしょうか。副業に時間を割きすぎると、真剣になって本業に取り組む社内外のライバルたちに差をつけられてしまい、本末転倒となってしまいますのでご注意ください。
ご自身の貴重なリソースを何に配分するかは、キャリア形成にきわめて大きな影響をもたらします。
大切なのは「なぜ副業をやるのか」という目的と、本業とのバランスです。そのような点を十分に考慮すれば、副業はご自身のキャリアを豊かにする手段になり得るでしょう。キャリア形成のために専念すべきことから大きく道を外れてしまわないよう、主体的な判断と計画性をもって選択して頂ければと思います。