1972年のデビュー以来、ホンダの乗用車を代表する車種として世界中で販売されてきた「シビック」。発売間近の新型は、ホンダのカーデザインに則った方向性で進化しており、昨今のクルマのトレンドも巧みに取り入れた造形となっていた。実車を詳しく見ていこう。
ハッチバックのみになった理由
通算11代目となるホンダの新型「シビック」。6月24日にはオフィシャルサイトで公開されていたので、ご覧になった方もいるだろう。日本ではハッチバックのみが発表となっているが、シビックのメインマーケットのひとつである北米では4月にセダンが発表されている。
先代は日本でもハッチバックとセダンが選べて、ハッチバックは英国、セダンは日本製だった。しかし今回は、英国工場が閉鎖されたためもあり国内で生産する。
日本に新型シビックのセダンを導入しないのは、近いクラスのセダンとして「インサイト」があるからだと考えている。
新型シビックのパワートレインは、当初は先代と同じ1.5リッター直列4気筒ターボのみだが、2022年にはハイブリッド車とスポーツモデルの「TYPE R」を発売すると明言している。ハイブリッドのセダンとしては、インサイトとバッティングすることになる。
それに、東京で見かける先代シビックは、ほとんどがタイプRを含めたハッチバックであり、セダンを見ることはあまりなかった。販売状況もまた、今回のラインアップに影響したことが考えられる。
発表に先駆けて行われた取材会で新型シビックの実車に対面すると、同じハッチバックでありながら先代とはかなり面影が異なると感じた。
ルーフからリアゲートにかけて、なだらかなラインでつないだファストバックスタイルは先代と同じであるものの、前輪とキャビンが離れ、フロントフードは水平に近づき、フロントピラーの根元の位置が後方に移動している。
ホンダブランドとしての共通性が随所に
この形、2020年2月に日本に導入された現行「アコード」に似ていると思った。
筆者はアコードのデザインについても記事を書いているが、そのときは、同じファストバックスタイルでありながらシビックとは違うと書いた。ところが今回のモデルチェンジで、シビックがアコードに近づいたのである。
全体的なプロポーションだけではない。先代ではウエッジシェイプだったサイドのキャラクターラインが、新型では前から後ろまでほぼ水平で、リアに向けて下がっているようにも見える。サイドウインドー後端の形状もアコードに似ている。
ホンダは新型シビックについて、「乗る人全員が『爽快』になることのできるクルマ」がグランドコンセプトであり、エクステリアデザインについては、前方視界の確保と美しいクルマの両立を目指したとしている。
たしかに明確なノーズがあり、サイドの線が水平に近いほうがエレガントに見えるし、水平に近いフードや後方に引かれたピラーは視界の良さに貢献する。
ホンダは現行「フィット」でも、2本あるフロントピラーの前側を細くするなど、視界を良くする工夫を取り入れている。今のホンダのカーデザインにおいて、「良好な視界の確保」が重要なポイントになっていることが伝わってくる。
美しいクルマへのこだわりは、フロント/リアまわりからも感じ取れる。先代は直線や鋭角を多用したかなりダイナミックな造形だったが、やや子供っぽいとも感じられたものだ。
それが新型では、フロントグリルは薄く、ヘッドランプはつり目が控えめになり、開口部の形状もシンプルになって、落ち着いた。リアも横長のコンビランプを採用したことで、かなり大人っぽい雰囲気になった。
このあたりは「フィット」や「ヴェゼル」、そして「ホンダe」などで導入してきた、シンプルでスマートなデザインの方向性に似ている。よけいな装飾を配した造形(ホンダでは「ノイズレス」という言葉で表現している)が、シビックにまで波及してきたことを感じる。
リアゲート左右の端が、サイドウインドーのラインまで回り込んでいることにも感心した。シンプルな見た目、大きな開口部だけでなく、視界の良さにも貢献するはずである。
「シビック」らしいインパネの仕立て
新型シビックのグレードは「LX」と「EX」の2種類だが、両者が単純な上下関係ではないこともわかる。LXではシルバーだったサイドウインドーのモールやホイールのスポークが、EXではブラックになるからだ。
先代はセダンがシルバーを効果的に使っていたのに対し、ハッチバックはブラックを多用していた。2つのボディの差をグレードで表現したといえる。
インテリアデザインもまた、面や線が整理されていて、視界の良さと合わせて、爽快というコンセプトが伝わってくる。なかでも水平のラインの上にメーターとディスプレイ、下にスイッチやコンソールを配したインパネは明快だ。
個人的に注目したのが、全幅にわたる細いメッシュのパネルだ。エアコンのルーバーを内蔵したそれは、昔のオーディオ機器を思わせるメカニカルな雰囲気だった。オーディオブームの頃に誕生し、成長していったシビックにふさわしいディテールだと思った。
エアコンのコントローラーはダイヤル式としたり、メーターはデジタルディスプレイでありながらも円形が選べたりと、先進性だけを追い求めず、真に人が使いやすい形にこだわった点も好感が持てる。
キャビンは旧型より広くなった。身長170cmの筆者なら後席で足を組める。先代もセダンは同等のスペースだったが、ハッチバックは後席がセダンより前にセットされていたので少し狭かった。この欠点を解消するために、全長とホイールベースを延長したのかもしれない。
グレードによる仕立てはエクスエリアに似ていて、EXは赤いステッチを多用することで精悍に見せていた。
先代に近いと感じたのはラゲッジスペースで、広さだけでなく、横方向に引き出すトノカバーも受け継いでいる。でも、新旧で共通項を発見したのはここくらいで、それ以外はあらゆる部分が一新していた。しかもその中に、今のホンダの個性やシビックの伝統を巧みに織り込んだ点を評価したい。