カスタマー・ハラスメント(カスハラ)が、企業経営に深刻な影響を与える社会問題となっています。大手企業を中心にカスハラのガイドラインを公表する動きが広がり、厚生労働省もカスハラ行為の定義や防止対策を企業に義務付ける方針を公表するなど、官民一体での取り組みが進んでいます。
しかし、東京商工リサーチの調査によると、「カスハラ対策を講じていない」と回答した企業は7割を超えており、多くの企業が十分な対策を取れていないのが現状です。
そこで本連載では、カスハラの基礎知識から、最前線のAI技術を活用した対策までを詳しく解説します。
そもそもカスハラとは?
カスタマー・ハラスメント(カスハラ)とは、顧客が通常のクレームを超えて不合理で過剰な要求を押し付ける行為を指します。正当なクレームは商品やサービスの改善につながりますが、カスハラは企業や従業員に対する嫌がらせや攻撃的な行為・言動が伴うことが多く、従業員への精神的負担や企業への悪影響が問題視されています。
なぜカスハラが増えたのか - 3つの社会的要因
カスハラが増加した要因として、以下のような社会的要因が挙げられます。
(1)顧客の価値観の多様化
顧客のニーズや価値観の多様化により、企業に求められる対応も複雑化しています。また、顧客のサービスへの期待値のずれがカスハラを引き起こす一因にもなっています。
(2)社会的不安とストレス増加
コロナ禍でのストレスや社会的不安によって、消費者の心理的負担が増大し、その矛先として企業に対するクレームや過剰な要求が増加しています。
(3)SNSの普及によるクレームの可視化と拡散
SNSによって顧客の声や企業の対応が可視化されることで、一部の顧客が過剰な要求をするケースが増えています。企業としては、クレーム対応の迅速さが求められる一方で、不当な要求との線引きが難しくなっています。
クレーム自体は昔からあり、サービスの向上を目的とした不満や提案がなされる場であった一方、過度な要求も少なくありませんでした。その結果、企業はバランスの取れた対応が求められてきました。特に2010年代以降、SNSの普及によって、顧客の意見が拡散されやすくなり、企業にとって即時に適切な対応を取ることに対する難易度が上がっています。
カスハラが企業にもたらすリスク
カスハラへの対応が不十分な場合、企業は以下のようなリスクに直面します。
ブランドイメージの低下
適切な対応が取れない場合、SNSなどで悪評が拡散し、企業の信頼が損なわれる可能性があります。
顧客離れによる売上減少
従業員がクレーム対応に長時間拘束され、他の顧客の対応の遅れや不適切な処理が生じると、他の顧客にも悪影響を及ぼす可能性があります。
従業員の精神的負担の増加
カスハラの影響で従業員の精神的な負担が増加すると、休職・離職の増加や、組織全体の生産性低下につながる恐れがあります。
また、企業には労働契約法に基づく安全配慮義務があり、従業員をカスハラから守る責任があります。カスハラ被害にあった従業員への配慮が不十分な場合、損害賠償請求など、法的な責任を問われるリスクもあります。
厚生労働省は、2024年12月に、企業にカスハラ対策を義務づける方針を決定しました。また、東京都は2025年4月に全国初の「カスハラ防止条例」を施行予定です。今後、他の自治体にも同様の動きが広がる可能性があり、企業としても適切なガイドラインの策定や対策が求められています。
次回は、「企業が取り組むべきカスハラ対策」について、具体的な対応策を詳しく解説します。