NTTドコモが住信SBIネット銀行を買収し、携帯キャリア4社すべてが銀行機能を備える時代が到来しました。これにより、各社が通信と金融を組み合わせた「経済圏」の構築を加速させています。中でも注目されるのが、スマホ契約などを条件に住宅ローン金利を優遇するサービスです。
本記事では、ソフトバンク×PayPay銀行やKDDI×auじぶん銀行の金利優遇プランの紹介や「携帯キャリア×住宅ローン」戦略による今後の住宅ローン選びへの影響などを解説します。
「通信×金融」の時代到来?
NTTドコモは5月29日、ネット銀行大手「住信SBIネット銀行」を買収し、子会社化する方針を発表しました。これにより、銀行業に参入することになります。
現在、NTTドコモ以外の携帯キャリアはすでにグループ内に銀行を持っています。KDDIはauじぶん銀行、ソフトバンクはPayPay銀行、楽天は楽天銀行です。今回のNTTドコモの住信SBIネット銀行の買収によって、携帯キャリア4社と銀行の連携が完成したことになります。
これは、携帯キャリア4社による金融や決済サービスを柱とした「経済圏」の完成とも言え、今後、陣取り合戦が本格化していくと思われます。
銀行にとって住宅ローンは、長く続いている低金利によって収益性は低くなっているものの、貸付単価が大きく、口座を獲得できるため、メインビジネスであることに変わりありません。
通信契約を条件に住宅ローンの金利優遇を行えば、双方の顧客獲得を狙うことができます。今後、「携帯キャリア×住宅ローン」による顧客獲得競争が注目されます。
「携帯キャリア×住宅ローン」の金利優遇を紹介
現在、ソフトバンク×PayPay銀行が「住宅ローン金利優遇プラン」、KDDI×auじぶん銀行が「住宅ローン金利優遇割」を展開しています。それぞれの内容をご紹介します。
ソフトバンク×PayPay銀行「住宅ローン金利優遇プラン」
PayPay銀行は、グループ会社であるソフトバンクのスマートフォン契約者向けに住宅ローンの金利を最大0.13%優遇する「住宅ローン金利優遇プラン」の提供を開始しました。
<スマホ優遇割>
- 対象者
ソフトバンクのスマートフォンを契約していて、PayPay銀行で新たに住宅ローンを借り入れる方(新規借り入、借り換え)
- 優遇幅
借入金利から年0.07%引き下げ
- 適用条件
以下のすべてを満たすこと 1.PayPay銀行の口座とソフトバンクのアカウントの連携がされていること。 2.ソフトバンクが提供するスマートフォンの回線を契約者本人の名義で契約していること。
<スマホ/ネット/でんき優遇割>
- 対象者
ソフトバンクが提供する「スマホ」と「ネット」と「でんき」を契約していて、PayPay銀行で新たに住宅ローンを借り入れる方(新規借り入れ、借り換え)
※「スマホ」契約のみであとから「ネット」と「でんき」を契約することでも最大優遇を受けることができます。
- 優遇幅
借入金利から年0.13%引き下げ
- 適用条件
以下のすべてを満たすこと
1.PayPay銀行の口座とソフトバンクのアカウントの連携がされていること。 2.ソフトバンクが提供するスマートフォンの回線を契約者本人の名義で契約していること。 3.ソフトバンクが提供するインターネット回線および「でんき」の商品を契約者本人の名義で契約し、上記2の回線とモバイル合算請求を行うこと。
※詳細な条件はPayPay銀行のホームページでご確認ください。なお、ソフトバンクの格安スマホ「ワイモバイル」、「LINEMO」は金利優遇の対象とはなりません。
KDDI×auじぶん銀行「住宅ローン金利優遇割」
KDDIグループが提供する「携帯電話」「電気」「インターネット」「TV」の各サービスとauじぶん銀行の住宅ローンを一緒に利用することで、最大0.15%住宅ローンの金利を引き下げることができます。
金利の引き下げは単品でも引き下げることができ、組み合わせは自由です。また、住宅ローン契約後でも条件を満たせば適用されます。
<auモバイル優遇割>
- 対象者
au回線とauじぶん銀行の住宅ローンをセットで契約する方
- 優遇幅
適用金利から年0.07%引き下げ
- 適用条件
以下のすべてを満たすこと
1.auじぶん銀行口座へ登録したau IDの回線がauの家族割プラスに加入していること 2.1の回線を含め、家族割プラスのカウント対象が2回線以上存在していること
※UQ mobile、povo2.0は対象外です。
<じぶんでんき優遇割>
- 対象者
じぶんでんきとauじぶん銀行の住宅ローンをセットで契約する方
- 優遇幅
適用金利から年0.03%引き下げ
※「auでんき」は適用対象外です。
<J:COM NET優遇割/コミュファ光優遇割>
- 対象者
J:COM NETまたはコミュファ光とauじぶん銀行の住宅ローンをセットで契約する方
- 優遇幅
適用金利から年0.03%引き下げ
<J:COM TV優遇割>
- 対象者
J:COM TVとauじぶん銀行の住宅ローンをセットで契約する方
- 優遇幅
適用金利から年0.02%引き下げ
※J:COM NET優遇割、J:COM TV優遇割は戸建に住んでいる方が対象です。詳細な条件は各サービスのホームページでご確認ください。
PayPay銀行とauじぶん銀行の引き下げ後の変動金利を比較
両銀行の2025年6月時点の変動金利から、それぞれの最大優遇幅引き下げ後の金利を比較してみました。
PayPay銀行は、新規借り入れ、借り換えともに、変動金利は年0.73%となっているため、最大優遇幅0.13%が適用されると、年0.60%となります。「スマホ優遇割」のみ適用となると、年0.66%です。
auじぶん銀行は、新規借り入れ(物件価格の80%以下)の変動金利は年0.834%、新規借り入れ(物件価格の80%超)と借り換えの変動金利は年0.879%となっています。最大優遇幅0.15%が適用されると、それぞれ年0.684%、年0.729%となります。「auモバイル優遇割」のみ適用となると、それぞれ年0.764%、年0.809%となります。
最大引き下げ幅はauじぶん銀行の方が年0.15%と大きくなっていますが、銀行ごとの適用金利がPayPay銀行は年0.73%とauじぶん銀行よりも低くなっているため、引き下げ後の金利も年0.60%とauじぶん銀行よりも低い金利となりました。
引き下げ幅に目が行きがちですが、実際に適用される引き下げ後の金利で比較するようにしましょう。
今後の住宅ローン選びへの影響は?
携帯キャリアと住宅ローンの合わせ技は、住宅ローン選びにどのくらい影響するのでしょうか。
住宅ローンは、数千万円という金額を借りるため、金利が0.1%違うだけでも、総返済額に差がでます。そのため、少しでも金利が低い金融機関と契約するのがベストです。
住宅ローンの基準金利や優遇金利は金融機関ごとに違い、6月時点の変動金利を見てみると、年0.6%~0.9%と幅があります。そして、さらに金利差が生じるのが、金利タイプの選択によるものです。
フラット35は年1.890%(2025年6月の最頻金利)と変動金利と1%以上の金利差があります。この金利差は金利上昇リスクを避けるためのコストと考えると金利が上昇した場合のリスクの大きさがわかるでしょう。
実際、昨年のマイナス金利の解除から、基準金利は0.5%程度上がっています。さらに諸経費や団体信用生命保険(団信)の選択なども住宅ローン選びに影響します。
このように考えると、キャリア契約による優遇幅(年0.07~0.15%)の獲得は、住宅ローンの選択において優先順位は低いと言えます。
携帯キャリアと住宅ローンをセットで契約するといいケースは次の2つが考えられます。
- 住宅ローンに差がない場合に、今契約している携帯キャリアと提携している銀行を選ぶ。
- 総合的な判断によって選んだ住宅ローンが携帯キャリアと提携している銀行だった場合、その携帯キャリアに変更する
多くの人にとって、住宅ローンを組むことは人生で一度きりの経験だと思います。一度も組むことがない人も少なくないでしょう。そのような限られた状況の中での選択であるため、相乗効果は限定的と考えられます。
ただし、これは住宅ローンという枠組みの中での話であり、金融事業という大きな括りで見ると、スマホ決済やポイントを金融サービスと結び付けて「経済圏」を拡大できるため、通信大手各社は今後も金融分野への取り組みを一層強化していくと考えられます。
「通信×金融」の連携がもたらす相乗効果にも、ますます注目が集まりそうです。