ホンダが自動車の電動化戦略を見直した。具体的には2030年にグローバルで30%としていた電気自動車(EV)販売比率を下方修正し、「20%程度」(以下、カッコ内はホンダの三部敏宏社長)になるとの見通しを示した。EV市場の「成長の鈍化」を受けて一部の投資も先送りにする。
EVの成長鈍化、ハイブリッドが稼ぎ頭に
2050年にホンダが関わる「全ての製品と企業活動を通じたカーボンニュートラル」という目標には変更なし。その達成に向けて、中長期的には「EVが最適解」という考えも不変だが、市場動向に合わせて電動化のスピードを調整した格好だ。
2024年5月の発表では総額10兆円としていた投資額は7兆円に修正。カナダにおけるEV関連投資(日本円で1.5兆円規模)を後ろ倒しにしたことなどにより投資総額が減額になった。
EV普及の減速については各国の、特に米国、欧州の環境規制の変化が要因になっているとホンダ。環境規制が緩和の方向に動いているため、当初の想定よりもEVの普及速度が遅くなっているという見立てだ。
例えばカリフォルニア州には「ACC2」という環境規制があって、彼の地でクルマを売る企業は定められた割合のEVを売ることを義務付けられる見通しとなっていたが、これも緩和の方向に動く可能性があるとのことだ。ホンダはACCⅡ規制に「ミニマムの台数でミートする」戦略を立てていたそうだが、規制緩和となれば、値引きをするなどして無理にEVの台数を稼ぐ必要がなくなる。代わりにEVよりも収益性の高いハイブリッド車などを販売できれば、ビジネス的に言えばプラスの作用が出てもおかしくない状況だ。
2030年のグローバル販売台数は全部で360万台規模を予想。そのうちEVは「20%程度」とのことだから、70万台強となる見通しだ。EVの販売見通しが減る中、反対に台数が伸びる予想となっているのがハイブリッド車で、2030年の販売台数は220万台を見込む。
ホンダは独自の2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」(イーエイチイーブイ)と、それを載せるプラットフォーム(車台)を全方位で進化させていく方針。小型・中型車向けのシステムについては、エンジンの高効率エリア拡大やハイブリッドユニットの駆動効率向上などにより、世界最高効率のパワートレインを実現し、10%以上の燃費向上を目指す。大型車に対する需要が底堅い北米での拡販を図るべく、新たに大型車向けハイブリッドシステムの開発も進める計画だ。
販売台数の拡大に合わせてハイブリッドシステムのコスト低減も進めていく。具体的には2018年モデルに対して50%以上、現行の2023年モデルに対しては30%以上のコスト低減を目指す。
これからしばらくはハイブリッド車で稼いていく姿勢を鮮明にしたホンダ。2027年からの4年間で、グローバルで13モデルの次世代ハイブリッドモデルを投入する予定だという。
家から目的地まで全ルート支援のシステムを開発
「電動化」への投資はスローダウンするものの、「知能化」についてはむしろ加速するとした三部社長。今回の「ビジネスアップデート」では「ADAS」(先進運転支援システム)についての新たな方向性が示された。具体的には、独自開発の次世代ADASを、2027年ごろに北米や日本で投入予定のEV・ハイブリッド車の主力ラインアップに幅広く適用していく計画を明らかにした。
次世代ADAS搭載車では、カーナビに目的地を入力すると、市街地であるか高速道路であるかを問わず、目的地までの全ての経路でアクセル、ハンドルの操作をシステムがサポートしてくれるようになるという。「自動運転」ではなく、責任はあくまでドライバーにある「運転支援」ではあるものの、これが実現すれば長距離移動がかなり楽になりそう。日本で展開するには規制の問題もあると思うが、2027年までにどんな形の運転支援を提示してくれるのか、ホンダの今後に注目したい。